JPモルガン:ビットコイン・14万6000ドルの真意【報告書】

米国最大の銀行であるJPモルガン・チェースは、年間1兆円を超える予算をテクノロジー関連に投資し、デジタル決済や国際送金の次世代プラットフォームの開発を急ピッチに進めている。

独自に開発してきたブロックチェーンと、デジタル通貨「JPM Coin」を活用した決済プラットフォームは、JPモルガンが新たに組織化したOnyxが主導し、その利用を拡大させるフェーズに移った。伝統的なビッグバンクのJPモルガンは、テクノロジーを巧みに使いながら、自らが既存の金融システムをディスラプトし、新たな金融経済における影響力を強めようしている。

ジェイミー・ダイモンCEO率いるJPモルガンは18日、86ページの報告書を発表した。タイトルは、「デジタルトランス・フォーメーションとフィンテックの台頭:ブロックチェーン、ビットコイン、デジタル金融 2021(仮訳)」。オリジナルの英文タイトルは、「Digital transformation and the rise of fintech: Blockchain, bitcoin and digital finance 2021」。

報告書のエグゼクティブ・サマリーを基に、JPモルガンの主張をまとめた。


コロナが加速させたデジタル金融

世界が新型コロナウイルスのパンデミックに直面し、金融のデジタル化のメインストーリーは、フィンテック(金融テクノロジー)に対する需要の拡大と、デジタル金融の台頭であって、暗号資産ビットコインの価格上昇ではない。

しかし、米電気自動車(EV)最大手のテスラや、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、マスターカードが、ビットコインを中心とする暗号資産を受け入れる動きを強めていることは、暗号資産に対する投資家のニーズと、暗号資産を利用した決済手段に対する関心の高まりを表している。

銀行とフィンテックとの競争は激化している。ビッグテックと呼ばれる巨大テクノロジー企業は、顧客データにアクセスできるデジタルプラットフォームを保有している。今後、銀行(フィン)とテクノロジー企業(テック)は、競争と協力の関係を強めていくだろう。

テクノロジー企業とのギャップを縮小するため、銀行はテクノロジーに対する投資をさらに強めていく。米国における銀行と非銀行系フィンテックとの競争は、金融規制のエリアにおいても見られるようになるだろう。

アジアは、決済領域における成長をけん引し続けていく。最終的には、伝統的な銀行が競争を勝ち抜くことになるだろう。規制に対する施策やリスクマネジメント、預金網を強みに、デジタル社会における銀行の役割を果たしていく。

ビットコインはグローバル経済の余興

ビットコインの存在の強まりは、グローバル経済の中の余興ではあるが、これからも代替通貨として存在することになる。

テスラが15億ドルの資金をビットコインに投資し、多くのトレーダーがその波に乗ったことで、ビットコインの価格はさらに上昇した。しかし、マイニングコストや、金(ゴールド)に対するリスク資本の同等性などを考慮すると、現在の価格水準はJPモルガンが試算する適正価格を大幅に上回っている。

長期的に考えると、ビットコインが、金の現物や金ETFを含むすべての金の資産に投下される民間の投資額に匹敵する市場を作りあげるには、ビットコインの価格は14万6000ドルまで上昇し、同価格相応の時価総額まで増加する必要があるだろう。

暗号資産は、株式の低下に対する最も下位に位置するヘッジ手段であり続けるだろう。暗号資産の価格は生産コストを大きく上回る水準まで上昇し、疑問の余地が残る資産の多様化を促している。同時に、暗号資産の保有が一般化すれば、暗号資産と他の循環資産との相関性は高まっていくだろう。

ステーブルコイン:規制のアップグレードを上回るペースで開発進む

広い金融業界で進むイノベーションは、金融規制のアップグレードよりも速いペースで起きている。グローバルな利用を可能にするステーブルコイン(法定通貨に連動する暗号資産)の開発が進むにつれ、金融の安定性を脅かす懸念をもたらしている。

グローバルステーブルコインのアレンジメントが許されるべき組織・企業とは?中央銀行(FED)の決済システムにアクセスできる組織・企業とは?また、グローバルステーブルコインをめぐる一定のレベルの監視と監督、規制を行う対象となる組織・企業とは?金融当局はこれらの課題に焦点を当てることになるだろう。

世界人口の2割をカバーする領域において、中央銀行は今後3年間で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を進めていくだろう。CBDCに移行した場合の影響は明らかではない。

|文・編集:佐藤茂
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