【イベントレポート】NTTデータが推進するブロックチェーン × DX ──トレーサビリティから貿易プラットフォームまで【btokyo ONLINE 2021】

2,000人を超える参加者が登録する国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」が2021年3月1・2日の2日間で開催。1日目の「ブロックチェーン × DX── エンタープライズにおけるデジタル・トランスフォーメーション推進」に、NTTデータの冨安寛氏(執行役員 技術革新統括本部長)とトレードワルツの河村謙氏(取締役CFO)が登壇した。

冨安氏は「オープンエコシステムにブロックチェーン技術を使うことでコストミニマムでネットワーキングできる社会がつくれる」と述べて同社の「ブロックチェーン × DX」の最新事例を紹介。河村氏は貿易実務を電子化・デジタル化するプラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」の取り組みと未来の構想を明らかにした。

なお、3/1-2のカンファレンス開催期間中は、カンファレンスプラットフォーム内に同社の企業ページが設置され、同社の取り組みを動画で視聴できる。またオンライン上で商談(1on1)を申し込む交流機能があるので、同社の取り組みが気になるビジネスパーソンはミーティングをオファーすることができる。

サービスをブロックチェーンでつなげることで便益を得られる

最初に登壇したのは、NTTデータで執行役員 技術革新統括本部長を務める冨安寛氏だ。世界50ヶ国に13万人の社員を抱える同社は、従来は官公庁や企業システムを得意としてきたが、近年はデジタル・トランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)に注力する。

冨安氏は企業のデジタル化における重要なポイントについて、1つ目はプロセスを自動化すること、2つ目は取引先を含めたエコシステムをつくること、3つ目は取引先や従業員に新しいエクスペリエンスを与えること、という3つを挙げた。

NTTデータ執行役員 技術革新統括本部長の冨安 寛 氏

その上で、ブロックチェーン技術への期待について、冨安氏は次のように述べた。

「これまでのコンピュータ・システムがある世界観は、情報系・勘定系・基幹系システムを、それぞれの企業でつくってきた。その結果、それぞれの個別の業務プロセスやデータの形式になっており、これを他社・他業界に広げようとすると非常にコストがかかる。ユーザーにとって、本来は様々なサービスにつながることで便益を得られるものが、現状はむずかしい。NTTデータがもれまで構想していた『オープンエコシステム』の考え方に、ブロックチェーン技術を使うことでコストミニマムでネットワーキングできる社会がつくれるのではないかと期待している」

また、ユーザーがワンストップで様々な便益を得られるものをつくるには、システムだけではなく、ガバナンス・法規制に対応し、費用負担や情報流通など様々な運営の課題に対処するための組織(オーガニゼーション)を組成する必要があると指摘し、NTTデータはシステムだけではなくオーガニゼーションを推進する役割を担うものだと話した。

トレーサビリティに着目したブロックチェーン最新事例

NTTデータのブロックチェーン推進は、25か国、500名以上の体制で行っており、商用化や研究開発が進むヨーロッパをはじめ、世界で技術開発やノウハウを共有する。特にハイパーレッジャー(Hyperledger)やイーサリアム(Ethereum)などアップデートの頻度が高い製品については積極的にR&Dの活動を続けている。

同社では、ブロックチェーン技術の「トレーサビリティ(追跡可能性)」について特に注目しており、「BlockTrace®」というソリューションを展開する。それぞれサプライチェーンにおける品質保証を目的とする「BlockTrace® for Cold Chain」、米セキュリタイズ社と組み進める証券デジタル化の「BlockTrace® for Security Token」、個人がIDを管理する自己主権型IDの「BlockTrace® for DID」、そしてそれらのデータ管理基盤である「BlockTrace® DMP」だ。

事例として、冨安氏はまず「BlockTrace® for Cold Chain」を使ったものとして、日本の水産物を中国の消費者に届けるロジスティクスにおいて、商品が生産者から消費者へわたるまでの管理情報をトレースする実験段階の「FishTrace」を紹介。消費者は商品のQRコードを読み取ることにより、水産物の情報をチェックすることができるため、付加価値を高めるサービスとして期待される。

また、2020年3月に商用化を開始した事例として、イタリア銀行協会(ABI)と行った「Spunta(スプンタ)」を紹介。イタリアでは、これまで銀行間の決済や情報の照合の仕組みがなく、メールや電話で確認するという状態だった。これをブロックチェーンネットワークを基盤とする仕組みに置き換え、効率化した。

最後に、冨安氏はDXとブロックチェーン活用の推進について「NTTデータは、今後もオープンで新しいビジネスのエコシステムを推進していきたい」と決意を述べ、プレゼンテーションを終えた。

貿易取引は拡大するが、貿易実務者が減少

次に登壇したのは、トレードワルツ社で取締役CFOを務める河村謙氏。同社では、貿易実務を電子化・デジタル化するプラットフォーム「TradeWaltz(トレードワルツ)」を展開する。

河村氏は最初に、貿易総額は年平均成長率約5%で伸びているが、貿易実務の担い手は減少しているという、日本の貿易の現状について問題提起をした。実務者が減る要因として、現場の取材から膨大な紙の作業など業務の効率化が進んでいないという声を紹介し、また貿易取引にかかる時間が長いことを指摘した。

トレードワルツ社 取締役 CFOの河村 謙 氏

なぜ貿易業務においてやり取りが煩雑になるかについては、輸出・輸入者だけではなく、保険会社や銀行など金融機関、また運輸会社や監督庁など貿易取引に関わるプレイヤーが多いと説明。各ステークホルダー(利害関係者)がそれぞれのフォーマットを使用することでチェックや再入力が多発すると述べた。

トレードワルツは、こうしたステークホルダー間で貿易手続き上で発生する情報を、ブロックチェーン上で安全・円滑に共有するプラットフォームとして提供されている。

「トレードワルツ」が貿易業務を効率化

2018年に国内3港湾・19事業者が参画した大規模な実証実験においては40%以上の業務効率化が見込まれるという結果を経て、NTTデータから2020年4月にカーブアウト(別組織として独立)する形でトレードワルツ社が設立され、商用サービスとしての展開が始まった。

2020年11月には、税関などの手続きをオンライン化する総合物流情報プラットフォーム「NACCS」を展開する輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社(NACCSセンター)とのMOU(覚書)を締結し、さらなる効率化を目指すという。

最後に、河村氏はトレードワルツが描くビジョンとして、契約や権利移転、債権債務などの「商流」、決済などの「金流」、モノを運ぶ「物流」などがデジタル化により融合する未来について述べた。その中で、ブロックチェーン技術は情報共有だけではなく、スマートコントラクトや金融プラットフォームなどをつなぐ役割を果たすと説明。

「ブロックチェーンでダイレクトにつながることで貿易取引を安全かつ円滑なものにし、シンプルな体験に変えていくことを実現したい」と河村氏は話してプレゼンテーションを終えた。

なお、3/1-2のカンファレンス開催期間中は、カンファレンスプラットフォーム内に同社の企業ページが設置され、同社の取り組みを動画で視聴できる。またオンライン上で商談(1on1)を申し込む交流機能があるので、同社の取り組みが気になるビジネスパーソンはミーティングをオファーすることができる。

文・編集:久保田 大海
画像:N.Avenue