中国「輸入魚から新型ウイルス」でブロックチェーン+コールドチェーンに注目【Wチェーン】

2020年6月、北京の食品卸売市場で、輸入サーモンをさばいたまな板からコロナウイルスが検出された。スーパーの店頭からサーモンが消え、輸入が一時停止された。9月には山東省・青島市の輸入タラからも発見され、政府が全国24省で289万件の検査を行った結果、22件が陽性だった。いずれも大騒動となり、輸入コールドチェーンは、感染防止におけるキーワードに浮上した。

アイスクリームでさえ常温配送されることがある中国

コールドチェーンとは、生鮮食品などを低温(コールド)のまま生産・輸送・消費の過程で物流させる手法のこと。食品物流の要であり、日米欧などの先進国は、食品物流の90%はコールドチェーンを経由しているとされる。

これに対し、中国の普及率は極めて低く、直近でも、野菜5%、肉類15%、水産品23%に過ぎない。北京の食品輸送の70%は今でも常温だ。アイスクリームさえ常温配送が多い。冷蔵車、冷蔵倉庫不足の前近代的な段階にとどまっている。

こうした中でコールドチェーンに対する注目が集まった。対策に追われた中国政府は20年11月、「輸入コールドチェーン食品予防性全面消毒方案」を制定、体制を強化した。さらに139万のサンプル検査を実施したところ、59例の陽性が確認された。そのため、中国へ食品を輸出する109ヵ国に防疫強化を要請し、21ヵ国126社に輸入停止措置を課した。

コールドチェーンのソリューションにブロックチェーン浮上

高い品質を保ったまま食品を流通させるうえで注目されているのは、コールドチェーンだけではない。ブロックチェーンを活用した食品トレーサビリティの追跡も実用段階になりつつある。

たとえばウォルマート中国は2021年中に、野菜40%、肉類50%、水産品12.5%をトレースする目標を掲げ、独自のブロックチェーン追跡プラットフォームである「沃爾瑪中国区快鏈可遡平台」(Walmart China Blockchain Traceability Platform)の運用をスタートしている。

このように、ブロックチェーン+コールドチェーンのWチェーンを求める声が高まったのはなぜだろうか。いくらコールドチェーンを実施しているといっても、個別企業のシステムでは透明性が低いし、サプライチェーンの全体をカバーできているか分からないからだ。

とくに水産品のトレース率は低いとされる。そのためでコロナ防疫の緊急性をバネに、議論が高まったというのが実情だ。

ブロックチェーンを活用していれば、全体の透明性を確保し、データ改ざんできない。そうした特性を、輸入コールドチェーン監視の切り札として活用というのが狙いである。

そして実際に、地方政府が主導した新システムが各地で動き出した。

Wチェーンの新システム始動……北京市、武漢市、深セン市などで

テンセントと海南省市場監督管理局は2020年11月、ブロックチェーン技術利用のコールドチェーンプラットフォームを開設、1000平方メートルの冷凍倉庫で、全プロセスをカバーした先行実験を行っている。倉庫管理者は、テンセントのWeChatに写真をアップするだけだという。

コロナウイルス拡大の震源地、76日間の都市封鎖を経験した武漢市は2021年1月、「卾冷鏈」に参加した(*卾は湖北省の別称)。湖北省とアント・ブロックチェーン、アリババ・クラウドで共同開発したプラットフォーム。武漢市のコールドチェーン関連企業を、全面的にコントロールできる。卾冷鏈コードのない商品は、出庫、移動、加工、販売ができない。PCR検査、消毒など防疫情報もすべて記録する。

深セン市市場監督管理局とブロックチェーン企業・利得鏈は2020年11月、ブロックチェーン技術を用いた輸入コールドチェーン「遡凍鏈」プラットフォームを開始した。利得鏈は、農産品トレーサビリティ、貧困支援資金管理、酒造工場管理など、さまざまなプロジェクトも立ち上げている。

首都の北京市は2020年11月、ブロックチェーン技術のコールドチェーンプラットフォーム「北京冷鏈」をスタートさせた。これは公的研究機関である微芯区塊鏈研究院が開発したものだ。これにより、消費者が冷凍食品を直接トレースできるようになった。Wechat、 Alipayを通して、当該商品の二次元コードをスキャンするだけで、商品履歴を確認できる。

Wチェーンの可能性……中国の食品業界を一新か

こうした動きに対し、テンセント系ネットメディア「騰訊網」は2020年12月4日付けの記事で次のように指摘している。

「ブロックチェーンは、出所の追跡、所在の確認、リスクコントロール、市民参加という食品安全の基本的要件実現を満たす」

「コールドチェーンは、食品の生産、貯蔵、輸送、販売、技術の各プロセスで規定の低温を維持する。この研究は、品質の維持、食品ロスの減少など、食品流通システム全体の技術的進歩をもたらす」

そしてブロックチェーン+コールドチェーンの効果を“完美融合”と表現している。つまり両者の相性は完璧ということだ。

Wチェーンには、中国の巨大な食品業界の前近代性を、一気に刷新する可能性がある。2021年は有力省市が、その成果を競い合う展開になりそうだ。ブロックチェーン業界にとっても、最新技術の社会実装へ向けた、大きな試金石となるだろう。

|文:高野悠介
|編集:濱田 優
|画像:claudio zaccherini / Shutterstock.com