ビットコインはアフリカや中東で広がるか?──仮想通貨開発の功労者アダム・バックが語る普及の青写真

宇宙空間にある通信衛星の回線を使って、世界人口の90%の人がビットコインのネットワークにアクセスできるようにする。野心的にも見える新たなサービスを開発するブロックストリーム(Blockstream)の目的とは何か?

ビットコイン取引の高速化などに使えるブロックチェーン技術「サイドチェーン」などを開発するブロックストリーム。同社の共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のアダム・バック(Adam Back)氏は2019年5月14日(現地時間)、ニューヨークで開かれている「Consensus2019」カンファレンスに参加し、新サービス「ブロックストリーム・サテライト(Blockstream Satellite)」について話した。

バック氏は、PoW(Proof of Work)を利用した「Hashcash」を1997年に考案し、仮想通貨の発展に貢献してきた。いわば仮想通貨の生みの親の一人とも言える。Consensus2019でもバック氏の話は参加者の注目を集めた。

アダム・バック氏。

「みなさんはこう思うだろう。欧米には高速なインターネットがある。なぜ衛星が必要なのか。その答えはプライバシーの扱い方だ。ビットコインのネットワークではIPアドレスをほかのノードに伝えなければならない」

バック氏は「ブロックストリーム・サテライト(衛星)」を開発した理由をプライバシーの保護とし、これを使えば誰の検閲も受けることなくビットコインのトランザクション送信が可能になると述べた。

また、エマージング・マーケット(新興成長市場)では高速インターネットの環境が整っていないところもあり、通信衛星の回線を使えば、さらにたくさんの人がビットコインのネットワークに参加できるようになるだろうと語った。

アダム・バック氏のスライド「ブロックストリーム・サテライトは何のために使うのか?」。

「アラブの春」をはじめとする政治的な混乱において、政府がインターネットを遮断することを例に挙げながら、バック氏はこう話した。

「ビットコインはデジタルゴールドであり、地政学的な不確実性に対するヘッジ(リスクの回避)だ。このような状況にある国では、法定通貨は暴落する可能性があり、一般的に経済は大きく混乱する。外貨や金貨、ビットコインなどがヘッジとして機能するには、インターネットが遮断されたり、不確実性の生じた時でも取引を続けたりすることができるかどうかにかかっている」

ビットコインには、地政学的なリスクが生じたタイミングで価格が乱高下してきた歴史がある。2013年3月に起きたキプロスの金融危機では、同国の銀行が閉鎖されるなど、法定通貨(ユーロ)への信用が低下した。ヘッジの一手段として、ビットコインの価格は上昇した。2017年1月には、中国人民銀行が中国国内の仮想通貨取引所と会合。過熱した投資活動に対して警告を出したことにより、ビットコインの価格は下落した。

2019年にインフレ率が1000万%に達すると予測されたベネズエラをはじめ、地政学的リスクと不安定な通貨を抱える国が存在する。インフレにより国家通貨の価値が下がるリスクを回避する手段の一つとして、ビットコインを求めるユーザーが潜在的に存在するともいえる。

プライバシーが守られ、インターネットが遮断されていても利用できる。衛星を使ったビットコイン取引が新興諸国に浸透する日は来るのか。

米CoinDeskが主催する「Consensus2019」は、ニューヨークで開催されるブロックチェーン・仮想通貨をテーマにした世界最大級のカンファレンス。この領域をリードする企業トップや開発者が集まり、5月13日〜15日の3日間にわたりさまざまなテーマで議論やプレゼンテーション、ワークショップ、ネットワーキングが行われる。CoinDesk Japanは5月30日、Consensus2019報告会を開催する。

文:久保田大海
編集:佐藤茂
写真:CoinDesk Japan
(編集部より: 3パラグラフ目の、Hashcashに関する記述に誤りがあったため修正し、記事を更新しました)