ビットコインの“キムチプレミアム”は懸念材料ではない:アナリスト

「キムチプレミアム」と呼ばれるビットコインの指標は、価格がピークに達した時に見られる韓国の個人投資家の熱狂を意味するものだ。数年の暗号資産(仮想通貨)市場の成長は、キムチプレミアムに影響を与えているようだ。

キムチプレミアム(あるいは韓国プレミアム)は、韓国の各取引所におけるビットコインの取引価格と、世界中の他の取引所のビットコイン価格との差を表す言葉だ。差が生まれる要因は複雑だが、突き詰めると韓国の取引所に特有の取引制限と韓国の資本規制に起因する。

韓国プレミアムの上昇はこれまで、強気相場の勢いを削いできたとアーケーン・リサーチ(Arcane Research)のベトレ・ルンド(Vetle Lunde)氏はツイッターで述べた。

韓国プレミアムは市場が強気相場から下落に転じる直前、2018年1月には47%、2017年5月には63%まで上昇した。2018年1月8日にピークに達した30日後、ビットコイン価格は49%以上下落し、同年末まで市場は弱気相場が続いた。

2018年11月中旬のピーク後もビットコインは大幅に下落している。

ビットコインのパフォーマンス
出典:Vetle Lunde

データ提供企業のクリプトクワント(CryptoQuant)によると、最近では2018年2月以来の高水準となる18%まで上昇している。

ビットコインのキムチプレミアム(過去1年)
出典:CryptoQuant

韓国市場と投資家の変化

ビットコイン価格は年初から2倍になっているが、韓国プレミアムはピークに達するサインを示していない。まもなくピークに達するのか、このまま上昇し続けるかは判断できない状況だ。

また、韓国は、2017年から2018年の大幅な価格上昇の時ほど、暗号資産に影響を与える市場ではなくなっている。

「韓国市場は2017年、世界の暗号資産取引高の7.9%を占めていた。現在では2%以下に過ぎない」と韓国に拠点を置くクリプトクワントのCEO、キ・ヨン・ジュ(Ki Young Ju)氏は語る。

「これから起きるであろうプレミアムの崩壊は、市場全体に影響を与える可能性は低い」(ジュ氏)

韓国で過去に起きた暗号資産ブームは、主に20代〜30代の投資家が牽引していた。インド太平洋地域の政治と社会、文化を扱う雑誌『The Diplomat』によると、今回の投資ブームには40代〜50代の投資家も参加している。

「暗号資産や株式市場での取引によって、韓国人は年齢を問わず、安定した受動的収入(不労所得)を確保しようと積極的に動いている。新型コロナウイルスの感染拡大後は、どちらの年齢層も、政府の経済刺激策によるインフレや不動産価格の高騰、そしてきわめて競争の激しい求人市場における賃金の停滞を警戒しているようだ」(The Diplomat)

つまり、韓国における暗号資産への直近の関心の高まりは、単なる投機熱ではなく、より持続的なものかもしれない。

裁定取引は可能か?

欧米の取引所でビットコインを買い、韓国の取引所でより高い価格で売るという典型的な裁定取引を実行することはかなり難しい。

バイナンス・リサーチ(Binance Research)が分析した通り、韓国の取引所は韓国の法定通貨ウォンでの取り引きを提供しており、韓国のユーザーは多くの場合、ステーブルコインのテザー(USDT)やビットコインを使って暗号資産取引を行うことはない。

そのため、韓国プレミアムを利用して裁定取引を狙う場合は、まず韓国ウォンで、USDTなどのステーブルコインと交換できる暗号資産を買い、それからステーブルコインを使って米国以外の取引所でビットコインを購入しなければならない。面倒なプロセスはまだ続く。ビットコインを清算するためには、韓国の取引所に移さなければならない。

「取引承認にかかる時間は比較的長く、その間のヘッジはない。裁定取引を行うには、ビットコインを移動させる間の価格変動リスクが存在する」とバイナンス・リサーチの担当者は述べた。

韓国の資本規制を考慮すると、韓国プレミアムを利用して裁定取引を行うことはさらに困難に思える。

「韓国の一般投資家が許されている年間の海外送金額は最大5万ドル」とクリプトクワントCEOのジュ氏は述べ、同国の暗号資産取引所は海外顧客による取り引きを禁止していると付け加えた。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Analysts Say ‘Kimchi Premium’ Isn’t Distress Signal It Once Was