担保資産としてのビットコイン──テスラ、パウエル議長、ジェネシスのニュースを読み解く

担保資産としてのビットコイン──テスラ、パウエル議長、ジェネシスのニュースを読み解く


一見無関係に思える4月下旬のの3つのストーリーを組み合わせて、見過ごされているトレンドを浮き彫りにしていきたいと思う。

まず、テスラの第1四半期の収支報告によって、同社が同期に2億7200万ドル(約297億円)相当のビットコイン(BTC)を売却したことが明らかとなった。イーロン・マスクCEOによれば、市場の流動性を試すためだったという。おまけに、四半期の利益には1億100万ドル(約110億円)が加わった。

2つ目に、暗号資産(仮想通貨)貸付企業のジェネシス・トレーディング(Genesis Trading、米CoinDeskの親会社DCGが所有)も第1四半期決算を発表し、貸付残高が90億ドル(約9800億円)を超えたことを明らかにした。これは前四半期と比較して、136%の増加である。

3つ目に、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はマクロ経済の状況について語り、この先数年間を通じた平均2%のインフレ見通しを固持した。

これら3つのストーリーはどんな関連性を持つのだろうか?その答えを導くにはは、3つのことを考える必要があるだろう。一つは企業のバランスシートにおける準備資産としてのビットコインの利用の高まり。2つ目は、企業が現在ビットコインを利用している理由。そして3つ目が、この先も企業がそれを望む可能性が高いことだ。

バランスシートにビットコイン

まずはバランスシート上の資産としてのストーリーを振り返ろう。

準備資産としてビットコインに投資する企業は通常、価値の保護を主な理由として挙げる。法定通貨の価値が不可避的に下がるのに対して、ビットコインはその購買力を保っていくという主張だ。

企業の財務部門にとっての優先事項は、事業と戦略的投資のために現在、そして将来において必要となる資金の確保だ。ビットコイン支持者たちの中には、流動性が懸念されはするが、ビットコインは理想的な財務資産であると主張する人たちがいる。

ソフトウェア企業のマイクロストラテジー(MicroStrategy)は昨年8月、資金の一部をビットコインで保有する財務戦略を明らかにして、このトレンドの口火を切った。

同社はその後も保有するビットコインを増やし続け、そのために資金調達さえも行った。2月には他社にそのメリットと実行方法を伝えるイベントを開催し、関心を寄せた参加者は8000を超えたと報じられた。

ビットコインを準備資産として保有する企業には他にも、スクエア、Aker、Meitu(美図)などがあり、韓国と日本のゲーム会社であるネクソン(Nexon)が1億ドル(約109億円)相当のビットコインを購入したと発表した。これは同社の保有する現金および現金同等物の約2%に当たる。

ビットコインを売却したテスラの狙い

そしてテスラだ。テスラとマイクロストラテジーのCEO、マスク氏とセイラー氏がツイッター上で公にやり取りした後、テスラも間もなくビットコイン投資を始めるのではないかという期待が高まった。

そしてその期待が裏切られることはなかった。2月には、15億ドル(約1637億円)相当のビットコイン投資を行なったと発表。そして2021年第1四半期収支報告によれば、その約10%に当たるビットコインを2億7200万ドルで売却。マスク氏は「市場の流動性を試す」ためであったとツイートした。

多くの理由から、これは賢い動きであった。まずは投資する際の流動性。15億ドルの投資は、数週間にわたって慎重に実行されたと推測される。そしてそれとは別に、売却する際の流動性もある。企業の財務部門は、準備資産を即座に運営資金に変換できると安心する必要がある。テスラの今回の動きによって、流動性リスクを大いに懸念する必要はないと、他社は安心できるだろう。

売却によって1億100万ドルが収益に加わったことも、力強いメッセージを発している。伝統的な「現金同等物」を清算しても通常は、純利益にあまり影響を与えない。

今回の動きによってテスラは、価値の維持と潜在的利益という2つの機能を果たす「現金同等物」が存在すると伝えている。ビットコインを大量に保有し、暗号資産を支持することで、マイクロストラテジーはその企業としての価値提案をソフトウェア企業から、上場されたビットコインの代弁者へと転換した。

しかし企業各社はそこまでする必要はない。ビットコインに若干の資産を投じるだけで、核となる事業を維持しながらも、収益が心許ない時に緩衝材となってくれる可能性を備えておくことができるのだ。

ローンの成長を借りて

続いてジェネシスの貸付帳簿を見てみると、米ドル(USD)とステーブルコインのローンが第1四半期で2倍以上になった。この種のローンに対する需要はいまのところ主に、ビットコイン先物市場で続くベーシス取引のチャンスに支えられている。この先は、担保としてのビットコインの効率性への理解の高まり、そして担保として使うことのできるビットコインの数の増加に支えられていくだろう。

そのようなビットコインの多くは、企業のバランスシート上に保有されることになる。

テスラは、かなり大口のBTCポジションを清算することが可能であると示した。ジェネシスは、法定通貨ローンの担保として機能することで、課税対象となる事象を生まずに、BTCポジションで運営資金を調達することが可能であると示した。

これによってさらに、企業の準備資産としてビットコインを保有することの正当性は高まる。最初に興味を持つ理由は、現金および現金同等物の長期的な価値をめぐる懸念かもしれない。そして、経済サイクルとつながっていない資産で比較的簡単に資金を調達することができるという事実が、さらに興味を高めてくれるだろう。

インフレ見通し

FRBのパウエル議長の発言も助けとなる。インフレが目標の平均2%を一貫して下回る中、インフレは一時的にその水準を超えることも許されると、パウエル議長は認めた。実際、10年間のブレークイーブン率で示される市場のインフレ見通しは、8年ぶりに2.4%を超えた。

市場が見込むのに慣れている以上に通貨の実際の価値を下げるという点で、これは憂慮すべき見通しだ。数年間にわたってインフレが2%を超えるという見通しを受けて企業の財務部門は、マイクロストラテジーのセイラーCEOが「溶ける氷」効果と呼ぶものから資産を守る方法を見つけようと躍起になるだろう。

そして量的緩和政策は当面続くとパウエル議長が認めたことも、法定通貨の価値低下の懸念を強めるだろう。

これらのトレンドは結果的に、より多くの企業の財務部門に準備資産の少なくとも一部をビットコインに投資するよう促すことになるだろう。そして担保として使うことのできるビットコインのプールはさらに広がる。

担保としてのビットコイン

そしてより重要な点は、担保としてのビットコイン利用は、始まったばかりということだ。

前述のジェネシスの収支報告が典型的に示すような、暗号資産に支えられた貸付業界の著しい成長を、私たちはすでに目にしている。その担保のどれくらいがビットコインなのかという内訳は持ち合わせていないが、その大半はビットコインと考えていいだろう。

活況を呈する、レバレッジを効かせたデリバティブ市場における担保としての暗号資産の利用の高まりも同様だ。米CoinDeskのブレイディー・デール(Brady Dale)が報じた通り、貸付やその他の金融アプリケーションである分散型金融(DeFi)のトークンの時価総額の合計は、1200億ドル(約13兆円)を超え、過去最高に達した。

DeFiアプリケーションでビットコインを担保として使えるように作られた、ビットコインで100%裏付けられたイーサリアムベースのトークン、WBTC(Wrapped Bitcoin)も2週間前、過去最高となる時価総額95億ドル(約1037億円)を記録した。

しかしこれらすべては、相対レポ取引における担保資産としてのビットコインの利用の前にかすむ可能性もある。

企業は保有する流動資産を利用して、運営資金のために短期的に現金を借り入れる。米国債などの「安全な」証券を担保とするレポ市場は昨年末、約4兆1000億ドル(約448兆円)規模と推定され、その内の約1兆3000億ドル(約142兆円)は非銀行、非証券ディーラー企業によるものと考えられている。

もちろん、ビットコインが米国債市場と同じくらいの流動性を近い将来に持つことはない。そしてボラティリティは常にずっと高いままであろう。しかし様々な通貨で事業を行う企業への翌日物貸出において、ビットコインは必要な時には収益を押し上げることのできる可能性を秘めた、魅力的な代替担保とみなされ始める可能性はある。

そして貸付業者は、利回りの優れていることは言うまでもなく、担保として移動が簡単な無記名資産としての性質に惹かれる可能性もある。さらに、通貨供給の増大やインフレ率の高まりによって価値の下がらない資産を保有することのメリットもある。

このための市場インフラはすでに、暗号資産業界の主要貸付サービス企業各社が構築中だ。分散型貸付サービス企業は、レポのような仕組みの提供さえも始めている。レポ市場における伝統的な主要参加者である銀行はすでに、暗号資産にますます携わっている。規制当局にとっては、ブロックチェーンベースの担保の透明性が、現在の市場につきものの不透明で複雑な所有権の絡み合いと対照的に新鮮に映るだろう。

しかし暗号資産が、不安定で複雑な状況に異なるタイプのリスクをもたらすことは確かだ。担保としてのビットコインというコンセプトが現在の金融エコシステムに意義のある違いをもたらすには、乗り越えなければならないハードルも数多く存在する。

市場の多くの側面において変化はすでに進行中であり、バランスシート上の資産「だけ」にとどまらないビットコインの幅広い金融上の役割を指し示す兆候が見られる。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Bitcoin’s Potential as a Collateral Class

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