“ドージキラー”の異名を持つSHIBコイン、中国で人気沸騰

中国の暗号資産業界で流行し、価格も上昇中の新たなデジタルトークン「SHIB」は、別名「ドージキラー」と呼ばれている。

ジョークとして生まれた暗号資産ドージコイン(DOGE)のシンボルとなっている柴犬の名前を恥ずかしげもなく取り込んでいる。SHIBは最近、中国ユーザーに人気の3大暗号資産取引所、バイナンス(Binance)、フォビ(Huobi)、オーケーエックス(OKEx)に上場されたばかりだ。

中国の投資家たちは、SHIBプロジェクトには真剣な技術的見込みがないことを理解しているようにも見受けられるが、SHIBには突如、驚異的な規模の投資が寄せられている。

バイナンスがSHIBトークンの取引を開始した5月10日、すでに取引が行われていたフォビでは価格が2倍近くに跳ね上がった。

この新たな熱狂は、最近の「ドージコイン現象」が世界中の人々にどれほど広まっているかを示しているのではないだろう。ビリオネアのイーロン・マスク氏の新たなツイートに合わせて価格の上下を繰り返すドージコインに、投資家は喜んで付き合っているようだ。

マスク氏は先週末、アメリカの長寿コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』に出演した際、ドージコインに複数回言及した。その後ここ2日間でドージコイン価格は、29%下落した。

「先週末にかけてのSHIBの値動きは、暗号資産業界が犬をモチーフにしたミームコインにまだ飽きていないことを示している」と、オーケーエックス・インサイツ(OKEx Insights)のシニアアナリスト、リック・ディレイニー(Rick Delaney)氏は語った。

「数十億、はたまた数兆」

オーケーエックスがSHIBコインを上場したのは5月8日。バイナンスにほんの数日先駆けてのことであった。暗号資産データを提供するコインゲッコー(CoinGecko)によると、SHIBの取引高が最も大きいのはフォビだが、当記事執筆時点で同社広報担当者は、米CoinDeskからの取材の求めに返答していない。

かつてはシバイヌコインと呼ばれていたSHIBトークンの価格は0.00002766と極めて低く、「ユーザーは数十億、はたまた数兆すら保有することができる」とファンたちは語る。

その価格は「1セントをはるかに下回った状態を保ちつつ、少しの時間でドージコインに追いつくこともできる」と、同プロジェクトのウェブサイトには書かれている。

「SHIBは分散型の自然発生的なコミュニティー構築における実験だ」とウェブサイトの文言は続き、「BONEが次なるトークンだ!」とも。4月29日付の「ワンペーパー(ホワイトペーパーをもじったもの)」へのリンクすら存在する。

しかしウェブサイトには、驚くほど高度な暗号資産業界の内部関係者らしい文言が続く。

「全供給量の50%をユニスワップ(Uniswap)に預け入れて、鍵は捨ててしまった。残りの50%はヴィタリック・ブテリンに送られて焼却された。このような道を行くプロジェクトは我々が初であり、その理由は誰もが開かれた市場で買わなければならないようにするためだ。開発者たちがコミュニティー向けに放出できるチームトークンを保有せず、公平で完全な分配が確実となる」

時価総額は?

プロジェクトに関与している個人を特定できるような情報はウェブサイトには一切記されていない。暗号資産のプロなら知っている通り、デジタル資産業界には詐欺が溢れているため、投資家は注意するべきだ。

コインゲッコーでは、SHIBの時価総額の合計はクエスチョンマークで表されており、トークンの最大供給量は千兆となっている。

米CoinDeskが取材した中国のプロの暗号資産アナリストの中には、SHIB価格の跳ね上がりの根本的理由を自信を持って分析できる人はいなかった。

それでも、トレーダーたちを思いとどまらせるものはほとんどないようだ。

バイナンスの公式ツイッターアカウントによれば、同社はSHIB上場後、取引所でのすべての出金を一時的に停止した。SHIB取引による突然の取引量の増加がその原因だと、憶測が飛び交った。

「このトークンは非常に安価で、単独の個人投資家が問題なく数トークン買えてしまうために(値上がりが)可能になった」と、中国で人気の暗号資産業界ブロガー、コリン・ウー(Colin Wu)氏は語った。中国では「SHIB価格が今後も値上がりすると信じる雰囲気が広がっている」

ビリオネアのインフルエンサー

SHIBの突然の人気の要因の1つは、ウェイボー(Weibo)やウィーチャット(WeChat)をはじめとする中国で人気のSNSにおけるインフルエンサーによる宣伝にあるようだ。

ビリオネアのベンチャーキャピタリストで、中国のインターネット業界に最も熱心に投資している人物の1人、薛蛮子(本名:薛必群)氏はウェイボーで抱える1100万人を超えるフォロワーに対して、複数の投稿の中でSHIBに触れた。彼のウェイボーのフィードを見ると、ドージコインについても熱心に語っているようだ。

5月8日付のウェイボーでの投稿では「ドージNo.2が過去最高値を更新した。なんてことだ」と語り、フォビでのSHIB/USDTペアとDOGE/USDTペアのスクリーンショットが添えられていた。

「ドージはすでにかなり値上がりした」と、中国の暗号資産ウォレット企業、コボ(Cobo)の副社長、アレックス・ツォー(Alex Zuo)氏はコメントする。「『富の形成効果』の一例だ。SHIBコインはローカライゼーションからの恩恵も受けるかもしれない。(中略)ウェイボーのインフルエンサーたちからの宣伝も受けている」

しかしツォー氏は、「とても不可解に思っている。私はSHIBを買っていないし、周りにも買った人は誰もいない」と、その人気を不思議がった。

薛蛮子氏によるウェイボーでの投稿のスクリーンショット

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:SHIBトークンのウェブサイト
|原文:Chinese Crypto Traders Are Pouncing on SHIB Coin Known as ‘Doge Killer’