投資の“ロックスター”がコインベースに投資を続ける理由

株式市場の包括的ナラティブは大きく塗り替えられ、注目の中心にはコインベース最大級の株主がいる。

テック株の盛り上がりが落ち着き、金利が大きなシフトの構えを見せる中、急速に拡大する企業や革新的な企業の株式に対する、より投機的な「成長」投資では、厳しい数カ月が続く。成長投資に代わって、すでに利益を生み出している企業の株式などに対する、いわゆる「価値」投資への関心が高まっている。

遠い将来までを見越した賭けに出た投資家には、大きな損失と、程度の差こそあれ、困惑が広がった。テック企業に重点を置いたナスダック指数には高いボラティリティが見られ、現在は1月中旬の水準と並んでいる。

投資界のロックスター

チャマス・パリハピティア(Chamath Palihapitiya)氏を始めとするプロの成長投資家たちは、わずかひと月前には、特別買収目的会社(SPAC)と呼ばれる透明性の低い新規株式公開(IPO)における、名高く冷酷な第一人者であったが、経済的にも、評判的にも打撃を受けた。

フィンテック、ゲノミクス、宇宙探査などに投資する上場投資信託(ETF)を運用する米アーク・インベスト(ARK Invest)には、多くの注目が注がれている。運用資産が500億ドル超えまで成長した主力商品である「Innovation Fund」の過去5年間の年率利回りが45%にもなり、アークのキャシー・ウッドCEOは近年では投資界のロックスターのような存在だ。

しかし2月中旬以降、ゲノム編集企業からテスラに至るあらゆる企業の株式が大幅に下落したため、同ファンドは30%近く下落した。アークはコインベースの最大級の株主でもあるが、コインベース株も4月14日のIPO以降、25%下落している。

これらの企業の株式が下落したのは概して、現在の業績が期待外れなためではなく、おそらく成長投資に特徴的なリスクである。いわば、未来にまつわる期待がシフトしたためだろう。

アークの大規模損失

成長投資の現在価格は、非常に先の未来の収益見込みに大いに依存しているため、企業の業績に現在小さな変化が起こると、それがプラスでもマイナスでも、株価は大きな影響を受ける。

パンデミックはこのことを見事なまでに見せてくれた。ロックダウンによって、「ステイホーム」にまつわるテック企業の株は大きく値上がりした。そのトレンディーさが突如として、将来の大きな成長を示唆したからだ。しかし、ロックダウンの解除によってそのような期待は地に落ち、アークの大規模な損失へとつながった。

(これは、一部の有名な投機的投資が過去に上手くいっていたのに比べれば、ずっと好ましい。時価会計と呼ばれる手法は、1990年代から2000年代にかけて、エンロンやリーマン・ブラザーズなどの組織が幅広く悪用したもので、成長企業が自社の将来的な収益に価格を付け、それを現在の収益として計上することで、現在成功している企業のフリをすることが可能となった。しかしこの話題に関しては、また別の機会に)

パンデミックによる逆転よりもさらに重要なのはおそらく、FRB(米連邦準備制度理事会)がより素早く金利を上げることにつながる可能性がある、米国債利回りの上昇とインフレ率の高まりだ。

国債利回りと金利は特に、成長投資にとっては直接的な脅威となる。非常にリスクの低い投資において、より魅力的な利益を生むからだ。同時に金利が高いと、自らの成長を支えるだけのキャッシュフローを通常持たない成長企業にとって、債務やその他の資本がより高価なものとなる。

ウッド氏の一貫した姿勢

将来を収益化しようとしている場合、そのようなリスクを回避する確かな方法は存在しない。重要なのは成長投資家がどのように反応するか、さらにとりわけ重要なのは、その反応が当初の投資と同じような、将来を見据えた論理に従っているかである。

ウッド氏が現在プレッシャーにさらされているのは、アークが抱える問題によるもにだが、彼女の反応はとりわけ一貫したものである。成長株の低迷は買いのチャンスであり、下落する価格は将来的な利益の見込みを高めるだけだと、繰り返し声高に主張している。

アークのファンドは取引を公表しているため、ウッド氏が口先ばかりでないことは見て取れる。アークは一貫して、スクエア、トゥイリオ(Twilio)、さらにはズームといった企業の下落する株式を買い続けている。

同社のファンドはまた、価格の下がったコインベース株も積極的に買い、現時点では、アークの資産の3%、驚くことにコインベースの全株式の10%以上に当たる6億2400万株にまでその保有数を拡大している。それ自体が非常に投機的な資産に対する需要に自社の成長が深く依存しているという点で、2重の意味で成長投資的なコインベース。だからこそ、アークの動きは極めて大胆と言える。

自らの投資に対するウッド氏の信念は誠実なものであると私は見ているが、成長ファンドの見栄えにとってもプラスとなる。コインベースやその他の株式が下落するのに伴って買いを停止すれば、より高い価格で以前に買っていたのは間違いであったと暗に認めることになる。短期的に低迷する資産を買うことは、長期的確信の力強いメッセージだ。

実績と並んで、ウッド氏の一貫性は、投資家たちが短期的な損失に直面しながらも信念を保ち続けることを助けるのに効果的なようだ。4カ月で30%下落した株を反射的に売る人がいることは避けられないが、投資コミュニティーの「Seeking Alpha」によれば、ここ1週間でアークから流出した資金は、ファンドの合計資産の約2%、わずかに10億ドルだけにとどまっている。

目を見張る実績というにはほど遠いし、この調子では流出はすぐに積み重なっていくかもしれないが、最悪のシナリオからもほど遠い。現在の買い手に将来のポートフォリオを売るには、数字と同じくらい信頼と信念が大切なのだ。

 デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)は米CoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Cathie Wood’s ARKK Is Still Betting on Coinbase