暗号資産について過去5年で学んだ7つのこと【最終話】

コラム「Crypto Long & Short」を私が執筆するのは、今回で最後になる。米CoinDeskでの5年間を終え、次のステージへ移る時がやって来た。6月末からは、ジェネシス・トレーディング(Genesis Trading)に加わることになったのだ。

この記事では、過去5年で私が学んだ教訓をまとめて、皆さんとシェアしたい。読みやすい長さにまとめるのは難しい作業であり、含められなかったことを後悔するものも多くある。

これまで読んでくれたことに感謝したい。この先も時々は、CoinDeskに寄稿することもあるだろう。

皆さんには、これからも好奇心を持ち続けてほしい。この5年間が面白いものだと感じたならば、この先の興味深さはそれとは比較にならないほどになるはずだ。

過去5年間に私が学んだこと

暗号資産市場における1カ月は、変化という点で普通の世界での1年に相当するという、冗談にならないような内輪のジョークがある。時間の経過という点では、1週間のように感じられる。5年間を振り返って、スピードにかすむような世界からハイライトを選び抜くことの難しさを理解してもらえるだろう。

すでに知られていたことと、新しい知識を区別することも困難である。多くの根本的コンセプトを含む分野においては、学びが急速に真実になるからだ。

この5年間を締めくくるにあたって、学んだことをまとめようなどというのは、考えるだけでも野心的すぎる。そこで、この記事を書こうとする中で、頭に浮かんがことのいくつかを、つつましくシェアしたいと思う。

1. 人々はお金を理解しているか

初期の頃、従来型金融の世界にいる人たちから最も多く受けた質問は、「ビットコイン(BTC)は何が裏づけているの?」というものだった。私はいつでも、次のように答えていた。「ドルを裏づけているのは?」

私が受け取った回答は「アメリカのGDP」から「軍隊」まで、多岐にわたっていた。政府債を裏づける「完全なる信頼と信用」や、ドル紙幣に印刷された「In God We Trust(我々は神を信じる)」という言葉を結びつけられた人は、ほとんどいなかった。

その後いくつか質問をした後、大半の人はアメリカ、GDP、軍隊、そして究極的にはアメリカ政府への「信頼」がドルを裏づけていると気づくようになった。そこからは、暗号資産が信頼に裏づけられているというのが、そこまでばかげた考えではないということを受け入れるまで、あと一歩だ。

信頼による裏づけという考えに最も激しく抵抗するのは、経済や投資に関する教育をよく受けた人であるという傾向に、私は常に驚かされた。固く信じられた考えというのは、手放すのが最も難しいということに気づくべきであった。これが、2つ目のポイントにつながる。

2. 質問は答えよりも大切だ

科学の進歩とは、真相の追及だ。理解する必要は、信頼も生んだ。「分からない」を足場に進んでいくことは不可能であるため、リサーチによって答えが出なければ、高次なる存在に全知と支配権を与え、理解する必要から解放してもらってきたのだ。

これは、経済学や政治学を含め、人間社会のすべての側面に広く行き渡っており、大半の人は、何世代にもわたって受け継がれたり、教科書によって伝えられる英知を受け入れることになる。従来型の教育では、与えられた答えに疑問を持つのではなく、それを覚えてしまうようにと教えられる。

時折、かつてないほど深く探ることを可能にするツールが現れる。ブロックチェーンテクノロジーもそのようなツールの1つだ。「お金とは何か?」「コンセンサスとは何か?なぜ大切なのか?」「私たちの金融の自由を政府はどれくらい制限するべきなのか?」「なぜ資本市場は機会へのアクセスを制限するのか?」といった質問を自らに問いかけることを余儀なくさせる。

このような疑問は、多くの層からなる氷山の一角であり、3つ目のポイントにつながる。

3. 暗号資産業界にはより多くの哲学者が必要だ

すでに何人かの哲学者は存在している。クレッグ・ウォームケ(Craig Warmke)氏やアンドリュー・ベイリー(Andrew Bailey)氏は、素晴らしい貢献をしている。他にもいると思うが、もっと多ければより良いだろう。変容をもたらす暗号資産の可能性を真に理解するには、理解していると誤って思い込んでいる原則に深く疑問を持つことが必要となる。

例えば、ビットコインは無記名資産だ。ドル紙幣と同じように、持っていれば、あなたが所有者だ。これがなぜ大切なのかを理解しない人もいるし、興奮を覚える人もいる。どちらの反応も、私有財産の権利にまつわる前提に基づいている。人間の歴史においては、このことは常に所与ではなかったが、現在では皆が当たり前のように思っている。

これから百年後には、現在突飛もなく思えるどんなものが、当たり前となっているだろうか?現在当たり前と思っていることの中で、何を失うのだろうか?

そもそも思い込みと気づかないが、もし疑問を持てば、広大な革新の展望を開いてくれるような前提を、我々は多く抱えている。例えば、多くのプロジェクトは「アイデンティティーを何とかしようと」している。

だが、アイデンティティーとは何なのか?誰が決めるのか?それぞれ自分で決めてしまっても、社会は機能するのか?それとも、相互運用性と普遍的な受容という目的のために、中央集権型権威がパラメーターを決定するのか?

私たちの注目を一瞬浴びた多くのソリューションが、同じくらい素早く消えていった。実際の問題を解決するものでなかったり、深く掘り下げ切れていなかったからだ。哲学的原則を適用することが、焦点を定める役に立つ。そして、次なるポイントだ。

4. 「どのように」よりも「なぜ」の方が重要だ

確かに、「どのように」もとても大切だが、「なぜ」を見失うと、「どのように」が利便性と妥協の道へと逸れてしまう。

日々の締め切りに追われ、対立する個人的な利害や喜ばせたいという願望に囚われると、短期的な勝利に焦点を当ててしまいがちだ。そもそもなぜ始めたのかということを見失って、自己満足に陥り、次のものを探し求める癖がついてしまう。

小さな勝利は良いことだ。進歩は尚良い。進歩を測るには、大きな目標に照らすのがベストだ。しかし、目標が大きければ大きいほど、障害も大きくなる。そこから次のポイントだ。

5. 障害は建設的だ

人間の人柄は、その人の敵の人柄で分かるという古いことわざがあるが、革新的なプロジェクトも同じことだ。野心的なプロジェクトの範囲は、途上にある障害によって定義されることがしばしばある。

新しいものを何か築き上げようとした人なら誰でも、どれほどいら立たしいものになり得るかを語れるだろう。例外はない。しかし、成功する人は障害をチャンスと捉えるようになる人たちだ。

障害を生み出した人と協力することで、障害を変えようとすることができる。あるいは、障害を迂回することもできるが、そうなるとしばしば、新たな障害が現れる。しかし、新しい障害の方が手に負えるものかもしれない。そのようなプロセスは必ず、新たな発見につながり、それが優れたアイデアを強化し、弱々しいアイデアを変容させる。

最終的には、大切なのは目標だ。深い情熱が、進み続けるのに必要なスタミナの源になってくれる。価値あるものは、簡単ではない。

6. 真剣でありながら、楽しんでも良い

ドージコイン(DOGE)、NFT、ラッパーにアスリート。可愛いものや派手なものに関心が寄せられ、ビリオネアのツイートが市場を動かすのを見れば、多くの人が暗号資産業界は未熟と考える理由を理解するのは難しくない。

それでも、上っ面だけではなく、その下にある本質を見ずに実体がないと何かをはねつけてしまうことは、楽な反射作用であり、より大きな全体像を垣間見るチャンスを逃してしまう。

可愛さや派手さは、多くの人にとって価値のある自己表現の方法なのだ。ある世代の投資家たちは、集合的影響力を持った新たな声を見つけ出しており、彼らの分配基準には、異なるものがインスピレーションを与えている。

そしてもちろん、ナラティブで動く市場を、ツイートが動かすことは可能だ。しかし、センチメントは頻繁に、どちらの方向にもシフトする。それ自体が、暗号資産市場の魅力的なストーリーの一部であり、結果なのだ。

暗号資産市場には常に、変わり者や戸惑いを生むものが存在する。それらはしばしば、バブルの兆しであり、時には疑わしい倫理や、詐欺が進行中の場合もあるが、必ずではない。

全体像を捉えるレンズを通して見れば、暗号資産テクノロジーがインスピレーションを与える「なぜ」と「どのように」の両方に光を与えてくれる。舞台裏にある確かな構造や綿密なリサーチから注目を逸らせるかもしれないが、それは重要ではない。暗号資産テクノロジーやブロックチェーンテクノロジーの可能性は広大で、様々な方向に多様なアイデアが広がっていた方が、良いのだ。

最後に、多様と言えば。

7. 暗号資産業界は人のおかげで成功する

あなたのことだ。

米CoinDesk主催の「Consensus 2021」に参加したなら、異なる視点や経験を持ち寄る、あらゆるセクターの才能ある人々の幅広さを垣間見ることができたはずだ。地理的にも、属性的にも、専門分野でも、広がりが見られる。

起業家、規制当局、アーティスト、アナリスト、アスリート、弁護士、銀行家、デザイナー、エコノミスト、トレーダー、投資家、開発者、そしてライター。これまでにイベントの壇上やスクリーン、報道に関わった人たちの一例に過ぎない。

これらの分類のどれにも当てはまらないとしても、暗号資産業界や関連するプロジェクトで働いていないとしても、この記事を読んでいるということは、あなたも、私たちが取り組む変化の一部だということだ。あなたがどのように貢献していても、あなたの存在は評価され、あなたの意見は歓迎される。

人生のほとんどすべての分野において、多様性はレジリエンスをもたらす。協力していようが、議論していようが、競争していようが、多様性が強さをもたらすのだ。それこそが、そもそも私たちが暗号資産業界に関わる理由であるべきだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: What I’ve Learned in the Past Five Years