イーサリアム2.0に向けて歩みを進める銀行

銀行はいつの日か、イーサリアム2.0の重要な参加者になるかもしれない。

ビットコイン(BTC)に対する企業からの関心と同じくらい、注目されるトレンドにまもなくなるだろうと、ブロックデーモン(Blockdaemon)やバイソン・トレイルズ(Bison Trails)といった企業は考えている。2社は、イーサリアム2.0上でステーキングノードを実行することを低リスクにし、配備を簡単にするためのインフラを提供している。

ステーキング分野におけるサポートを行うこれらの仲介企業は、多くの大手企業が、イーサリアムの次世代ネットワークへの参加を検討していることに驚いている。

イーサリアムネットワークは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行することによって、従来型預金による利子が微々たるものであるこの時代に、イーサ(ETH)建てで利子のような報酬を提供することになる。

プルーフ・オブ・ステーク(PoS):発行済の全コイン総量に対する保有コインの割合によって、発言力が変動するように設計されたアルゴリズムのこと。コインの保有量が多いほど報酬を得やすい仕組みになっている。ビットコインが採用しているプルーフ・オブ・ワーク(PoW)と違って、膨大な電力やマイニング機器を必要としないことがメリットとされる。

「いくつかの大手銀行と連携しているが、彼らにとっては調整のための優先順位に従うことが重要であるため、現時点で名前を挙げることはできない」と、ブロックデーモンの創業者兼CEO、コンスタンティン・リヒター(Konstantin Richter)氏は語った。同社は先日、2800万ドルの資金調達を完了させたばかりで、調達ラウンドにはゴールドマン・サックスも参画した。

企業がステーキングに参加へ

最近では非難を受け続けているように見える、エネルギーを大量に消費するビットコインのマイニングシステムとは異なり、次世代イーサリアムネットワークはPoSを採用する。PoSでは、ネットワーク上でトークンを保有する人々のコンセンサスによって、トランザクションブロックがチェーンに追加される。

ステーキングバリデーターは、ネットワークにトークンをロックアップすることに対して報酬を獲得するが、一貫性のない行動や、予期せぬ行動をした場合には、ステークの一部を失う(スラッシングと呼ばれる)可能性もある。

ポルカドット(Polkadot)、カルダノ(Cardano)、アルゴランド(Algorand)など、現在すでに運用中のPoSブロックチェーンも数多く存在する。しかし、最も待ち望まれていたのは、イーサリアムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)から移行することだ。

「イーサリアム2.0は本当に一大事だ」とリヒター氏。ウォレットでETHを保有し、利子を獲得することが、銀行に当座預金口座を持つのと同じくらいシンプルになるだろうと、同氏は予測している。

「ETHの入ったウォレットがあれば、自動的に利子を獲得してくれるようになる」と、リヒター氏は説明した。

スイスでの進展

企業向けにステーキングを提供するという点では、暗号資産フレンドリーなスイスで最も大きな進展が見られるだろう。

例えば、CoinDeskが独占的に入手した文書によれば、デジタル資産銀行のシグナム(Sygnum)は現在、イーサリアム2.0のステーキングサービスを提供している。

シグナムがステーキングに参入するのはこれが初めてではない。数カ月前には、顧客の資産運用会社、ヘッジファンド、ファミリーオフィスが、テゾス(Tezos)ブロックチェーン上でステーキングができるようにした。これはシグナムが提供する、利子を生むチャンスを持つ一連のデジタル資産関連プロダクトの一部である。

また、シグナムは今週には、主要分散型金融(DeFi)トークン各種のカストディ、取引サービスの提供を開始すると発表した。

シグナムのイーサリアムステーキングサービスは、イーサリアム2.0への移行までの、現在は不明な一定期間、32の倍数のETHをロックアップすることを含む。シグナムのビジネスユニット責任者、トーマス・アイヒェンバーガー(Thomas Eichenberger)氏によれば、これで年間6.5〜8%の利益を生む見込みだ。

「暗号資産分野全体について必ずしも知識豊富ではないが、まず最初のステップとして、トップクラスのコインのいくつかに焦点を絞りたいと考える顧客企業の間では、その時価総額とネットワークの重要性から、イーサリアムが多くの関心を集めている」とアイヒェンバーガー氏は指摘する。

シグナムの企業向けステーキングサービスは、引き出しのための鍵の取り扱いをハードウェアセキュリティプロバイダーのセキュロシス(Securosys)に任せており、「銀行グレード」だと、アイヒェンバーガー氏は説明した。(イーサリアム2.0のステーキングには、バリデーター鍵と引き出し鍵の両方が含まれる)

デジタル資産カストディの分野では、シグナムは「カストディジット(Custodigit)」を利用。このソリューションには、スイスのテックプロバイダー、メタコ(METACO)が関わっている。メタコは、BBVA、スタンダードチャータード銀行、ガスプロムバンク・スイス(Gazprombank)といった銀行に、暗号資産カストディサービスを提供している。

「私たちのターゲット顧客層の1つは、他の銀行だ」とアイヒェンバーガー氏。「銀行と話をすると、ステーキングサービスの提供についてや、どのトークンでのステーキングにするかなど、さらには銀行や、彼らの顧客がステーキングサービスを利用できるように、私たちにできることがあるか、といった質問が常に寄せられる」

シグナムに引けを取るまいと、スイスのもう1つの主要デジタル資産銀行セであるバ(SEBA)も、イーサリアム2.0ステーキングサービスの提供を開始しようとしている。セバのデジタル資産担当責任者、マシュー・アレクサンダー(Matthew Alexander)氏が明らかにした。

「セバでは、顧客向けにステーキングサービスを開始しようとしている」と、アレクサンダー氏は語り、次のように続けた。

「企業ステーキングはゲームチェンジャーだ。従来型の利子を生むプロダクトを圧倒するものだからだ」

「税務上の悪夢」

イーサリアムへの企業からの関心は、トークンを取引するだけにとどまらなくなっている一方で、トークンに対して利子を獲得するという点では、解決すべき問題も存在している。

「主要銀行向けに、教育セッション多く実施している」と、バイソン・トレイルズの業務責任者、エバン・ワイス(Evan Weiss)氏は述べる。同社は今年1月、暗号資産取引所のコインベースに買収された。

技術的な統合やステーキングノードの維持はあまり困難ではなく、簡単にアウトソーシングも可能だ。しかし、大手企業が本当に安心するためにきちんと整える必要があるのは、税金や会計など、規制上のグレイゾーンだ。

米内国際入庁(IRS)とこの件で密接に協力しているプルーフ・オブ・ステーク・アライアンス(Proof-of-Stake Alliance)によって、大いなる進展がもたらされたと、ワイス氏は言う。

「現在、ステーキング報酬を受け取ることが課税対象の事象として分類されていることは、税務上の悪夢だ。トークン保有者にとってだけではなく、税務当局にとっても」とワイス氏は指摘した。「目標は、ステーキング報酬を新しい資産として扱うようにすることだ。つまり、新しい資産を生み出した時には、収入とはならず、売却して処分したときに、収入となる」

多くのPoSプロトコルが市場に登場していることを考えれば、税務上の明確さが加わることはとりわけ重要だとして、ワイス氏はこう語った。

「最近ローンチされたプルーフ・オブ・ワークトークンを思いつくだろうか?」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Banks Edge Closer to Ethereum 2.0 Staking