ステーブルコインとは:米政府が注視する理由【基礎知識】

ステーブルコインが誕生しておよそ7年になるが、ここ数週間ほど、暗号資産コミュニティーだけではなく、規制当局や伝統的市場の投資家の間でも活発な議論の的になったことはないだろう。

ステーブルコインとは何か?

ステーブルコインとは、その価値が米ドルなどの法定通貨や、ゴールド(金)のような貴金属、あるいは別の暗号資産など、様々な資産にペッグされたタイプの暗号資産である。

ステーブルコイン発行会社は、原資産とステーブルコイン価格とのペッグを実現、維持するために、様々な方法を試している。

テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)、バイナンスUSD(BUSD)、ジェミニドル(GUSD)など、米ドルに1対1でペッグされたステーブルコインは、トークンの流通量と一致するドル換算の価値を持つ準備資産によって裏づけられている。

ロンドン貴金属市場協会の基準を満たしたグッドデリバリーバーの1トロイオンスを表すテザーゴールドなど、コモディティに裏づけられているものもある。

ダイ(DAI)やFEIなど分散型ステーブルコインもあり、これらはアルゴリズムに支えられている。

ステーブルコインはどのように使われる?

ステーブルコイン台頭の前、大半の人たちは暗号資産を法定通貨やその他の暗号資産と取引していた。「2017年以降、ステーブルコインに対するスポット取引がトレーディング活動に占める割合がより大きくなっていった」と、暗号資産デリバティブ取引所デルタエクスチェンジ(Delta Exchange)のCEO、パンカジ・バラニ(Pankas Balani)氏は指摘する。

暗号資産と法定通貨を取引するのに比べると、ステーブルコインはより速く安価なオプションとなり、より多くの流動性が実現する。さらに理論的にはステーブルコインは、他の暗号資産に見られるような市場価格の変動に苦しむ傾向が少ない。

ステーブルコインは暗号資産の貸付にも使われる。例えば、USDCを共同で手がけるコインベースのアカウントにUSDCを預け入れることで、年間4%の利子を稼ぐことができる。一方、USDTの預け入れに対する利子は1.66%〜13.5%となっている。

最近では、ステーブルコインをめぐって多くの動きがあり、圧倒されるように感じてしまうかもしれない。現在起こっている中でも、特に大きな3つの事態を見ていこう。

1. 暗雲立ち込めるテザー

最も取引されている暗号資産として、USDTは暗号資産エコシステム全体の支柱となっている。ビットコイン(BTC)取引の半数以上は、USDTに対するものなのだ。

しかし、USDTを手がけるテザー社は、規制関連の問題に悩まされてきた。

7月26日のブルームバーグの報道によれば、米司法省はテザーが初期の頃に取引が暗号資産関連であることを銀行に隠していたかについて捜査を進めているという。

テザーは公式サイトで声明を発表し、ブルームバーグの報道は「古い疑惑に基づくもので、明らかにより多くのクリックを誘うために作られた」戦略であると反応した。しかし、疑惑を明白に否定することはなかった。

「テザー社のブルームバーグの報道に対する反応↓」

テザーの準備資産について不安を持つ投資家もいる。最悪の事態が起こった時に、USDTを換金する力がテザーにあるかどうか疑っているのだ。

テザーは5月、ニューヨーク州司法長官事務所との和解の一環として、準備資産の内訳を公表。その約半分は、通常は短期社債である「コマーシャルペーパー」、13%は担保付貸付、10%は社債と貴金属に投資されていた。

テザーが保有するコマーシャルペーパーやローン、社債は市場のリスク、時間的リスク、クレジットリスクにさらされていると、エコノミストのフランシス・コッポラ(Frances Coppola)氏は指摘。「保有するコマーシャルペーパーや社債の価値が下がれば、発行したトークンの価値は1ドルではなく、もっと少なくなる」と語る。

2. 規制当局からの圧力

CoinMarketCapによると、ステーブルコインの時価総額は7月26日現在、合計で1160億ドル。年初から約4倍増加した。成長に伴って、アメリカをはじめとする各国からの注目も高まっている。

「規制当局はステーブルコインに注目する。他のタイプの暗号資産に比べて、既存のバンキングシステムにより近接しているからだ」と、暗号資産分析企業ナンセン(Nansen)のCEO、アレックス・スヴァネヴィク(Alex Svanevik)氏は語る。「ステーブルコインが伝統的金融を破壊する可能性は大いにある」

ボストン連邦準備銀行総裁のエリック・ローゼングレン氏は先月、短期クレジット市場を破壊する可能性を理由として挙げ、テザーやその他のステーブルコインは金融システムへのリスクだと語った。

イエレン米財務長官も、大統領顧問グループとして、ステーブルコインの規制やリスクを検討すると発表。その少し後には、財務省、FRB(連邦準備制度理事会)、SEC(証券取引委員会)、CFTFC(商品先物取引委員会)、OCC(通貨監督庁)、連邦預金保険公社の関係者が集まり、「デジタル資産の急速な成長を受けて」議論を行なった

これとは別に、SECのゲンスラー委員長は先週、一部のステーブルコインは証券に区分され、SECの監視対象となるべきだと示唆した。

中国でも、中国人民銀行の範一飛(Fan Yifei)副総裁が、法定通貨にペッグされたデジタル通貨について同行は「大いに懸念」しており、「国際通貨システムにリスクや課題をもたらすかもしれない」と語った。

3. サークルの上場と他のステーブルコイン発行企業による情報公開

時価総額トップ2のステーブルコインUSDCを手がけるサークルも注目の的となっている。同社は、特別買収目的会社(SPAC)であるConcord Acquisitionとの合併を通じて上場を計画しているのだ。合併によって同社の評価額は、45億ドルとなる見通しだ。

ジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)CEOが透明性を高めると約束した後、サークルは初めて、USDCを裏づける資産の内訳を発表。

7月16日付の最新の報告書に含まれたこの内訳によれば、約61%は「現金及び現金同等物」、つまり現金とマネーマーケットファンドによって裏づけられている。アメリカ以外の外国銀行が発行する譲渡性預金が13%、米国債が12%、コマーシャルペーパーが9%、残りは地方債と社債となっている。

ステーブルコイン発行を手がけるパクソス(Paxos)も初めて、ステーブルコインのパクソススタンダード(PAX)とBUSDの準備資産の内訳を発表した。6月30日時点で、約96%は現金及び現金同等物、4%は米国債となっている。


PAXとBUSDの準備資産内訳
出典:Paxos

ステーブルコインの体系的役割とリスク

ステーブルコインが暗号資産取引と貸付において果たす体系的役割のために、一部の投資家は、ステーブルコイン発行企業が大量の換金リクエストに直面した場合など、最悪の事態を懸念している。

リスクは伝統的市場にも波及する可能性がある。信用格付け会社フィッチは今月、ステーブルコインが直面するリスクは「広がる」可能性があるとする報告書を発表した。

3月31日時点で、テザーが保有するコマーシャルペーパーは230億ドル相当だが、フィッチによればこれは、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカのプライムMMFよりも大きい可能性を示唆している。

「コマーシャルペーパー市場におけるより幅広い売り圧力の期間中に、USDTを突然大量に換金しようとする動きがあった場合、特に同様の資産を準備資産とする他のステーブルコインでも幅広く換金が起こった場合には、短期クレジット市場の安定性に影響を与える可能性がある」と、フィッチは指摘する。

さらにステーブルコインは、マネーサプライにも影響を与えるかもしれないと、リサーチ企業ファンドストラット・グローバル・アドバイザーズ(Fundstrat Global Advisors)のデジタル資産リサーチ責任者デビッド・グライダー(David Grider)氏は述べる。「ステーブルコインによって、1つの資金の両サイドで利子を獲得するという、非常に興味深いことが可能になる」

準備資産として保有されているドルが、実体経済において貸し出され、一方のデジタルトークンも暗号資産経済で再び貸し出され、利子を獲得することができる。グライダー氏が指摘する通り、それは「実質的に、同じドルを2度貸し出す」のと同じことだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ステーブルコインの流通高(CoinDesk)
|原文:Why Stablecoins Are Suddenly in the News