メディアはなぜ騙されたのか?ライトコインとウォルマートの偽発表文騒動

「真実がブーツを履いている間に、嘘は世界を半周できる」(マーク・トウェインによるものと広く誤解されている格言)

米時間13日朝、偽のプレスリリースを発表する詐欺行為が発生した。詐欺師たちの元には大量の資金が流れ、無実の投資家たちは大きな損失を被ったはずだ。

グローブニューズワイヤ(GlobeNewswire)経由で発表されたプレスリリースは、米小売大手のウォルマートが、暗号資産のライトコイン(LTC)での支払いに対応を始めるというものだった。

偽のプレスリリースとLTCの値動き

このニュースは、ロイター、USニューズ&ワールド・レポート(U.S. News & World Report)、CoinDeskをはじめとする大手メディアが取り上げた。

当然ながらライトコイン価格は上昇を始め、CoinDeskのデータによると、約15分間で175ドルから233.44ドルに達した。ライトコインの取引高も同様に急増した。その間の取引の流れについては、詳しい分析を待つ必要があるが、要するに、このニュースを受けて多くの人がLTCを買ったのだ。

そして、プレスリリースに対して疑念が持ち上がるに伴い、その後の45分間でLTC価格は180ドルを下回るレベルまで急落。ウォルマートはその後、リリース文が偽物であったと正式に発表している。

今回の偽のプレスリリースを作成した人物は、俊敏なトレーダーが買いに動く中で、大量のLTCを売却しただろう。つまり、多くの投資家が、「パンプ・アンド・ダンプ(吊り上げと叩き売り)」で多額の資産を失ったということだ。

CoinDeskは現在、真相を見極めようと取材を続けているが、少なくとも2つの失態があったことは分かっている。

まずは、ウォルマートのふりをしたユーザーからのプレスリリースを発表したグローブニューズワイヤにおいて。もう1つは、ツイッター上でニュースをリツイートしたライトコイン財団においてだ。ライトコイン財団幹部からの偽の発言が引用されていたにも関わらず、プレスリリースを認めるような行為であった。

もちろん、CoinDeskやその他のメディアも、情報の吟味を怠った。社内プロセスが正常に機能していなかったもので、CoinDeskとしては、再発を防止するために、さらなる予防手段を加えている。

2つの失態

外部から見ると、グローブニューズワイヤにおける失態が、最も深刻なもののように見える。同社は、本物の企業が本物のプレスリリースを発表する場として、評判の良いプラットフォームだ。世界で最も信頼される通信社の一つであるAP通信が、そのプレスリリースの一部を自動で配信するほどにグローブニューズワイヤを信頼しているくらいなのだ。

しかし、今回の件では、グローブニューズワイヤは驚くほど簡単な手口に引っかかってしまったようだ。偽のプレスリリースを発表した人物は「Walmart-corp.com」というドメインと関連するアカウント「Walmart, Inc.」を登録した。

確かに本物のように聞こえるが、このドメインは実際にはスクワッター(ドメイン占拠者)によって保有されている。今回のプレスリリースが、同アカウントで発表された初めてのものであったという点も、警戒を促すべきであった。

プレスリリースには、本物のウォルマート広報責任者ウィリアム・ホワイト(William White)氏のものとされる「william.white@walmart-corp.com」というEメールアドレスも含まれていた。しかし、13日米東部時間の正午前にこのアドレスに送ったEメールは、即座に宛先不明で戻ってきた。

「グローブニューズワイヤは今朝、偽のユーザーアカウントを使って偽のプレスリリースが発表されたと認識してすぐに、当該プレスリリースを取り下げ、撤回通知を出した」と、同社は説明し、次のように続けた。

「このような事態はこれまでに発生したことがなく、我々はすでに、再発を防ぐために検証ステップを強化した。適切な当局と連携して、本件に関わる犯罪行為に関するものも含め、完全な捜査を求め、それに協力していく」

偽のプレスリリースを発表した人物は、法的措置を受けることになるだろう。ウォルマート株が標的であった訳ではないが、ニューヨーク・タイムズの取材に応じた弁護士によれば、上場企業が巻き込まれたことで、米証券取引委員会(SEC)も調査を始める可能性が高い。SECはこれまで繰り返し、フェイクニュースを使って金融市場を操縦しようとしてきた人たちを告発してきた。

ライトコイン財団のリツイート

もう1つの大きな失態があったと思われるのが、ライトコイン財団だ。「@Litecoin」アカウントを通じて、13日朝にプレスリリースをリツイートした。同財団の幹部の発言がプレスリリースに引用されており、同財団は当然ウォルマートとの予備協議に関わったと想定されることから、財団によるリツイートは、プレスリリースを裏づけるものと捉えられた。

しかし、財団トップでライトコインの生みの親であるチャーリー・リー(Charlie Lee)氏によると、リツイートはプロセス上のエラーであった。

「(ライトコイン)ツイッターアカウントにアクセスできるのは3人」と、リー氏は述べた。

勤務中のアカウント担当者は、「グローブニューズワイヤでプレスリリースを見て、興奮してしまった。ウォルマートと連携していないことを知らず、残念ながら、私は眠っている時間だったので、私に確認することもしなかった。そこでそのままリツイートして、10分後には偽だということが分かり、削除した」と、リー氏は説明した。

「残念な事態だった」とリー氏。「今後は、間違いなくより慎重になる。(中略)しかしこのニュースは、私たちがリツイートする前にはもう爆発的に広がっていたと思う。こういうことは起こるものだ。(暗号資産界の)皆は、お互いの発言や行動を補強し合ってしまう」と、リー氏は指摘する。

そのように補強関係を、完全に巻き戻すことは難しいだろう。当記事執筆時点でも、ウォルマート/ライトコインの偽のニュースを伝えるツイートの多くはまだアップされたままであり、この先数週間、あるいは数カ月にもわたって、投資家たちを誤解させ続ける可能性がある。

メディアがはまった落とし穴

今回のお粗末な事態は、インターネット時代の落とし穴を反映している。フェイクニュースは、真のニュースよりも拡散しやすいのだ。その主な理由は、現実の鎖から解き放たれたフェイクニュースは、より派手で驚くようなものだからだ。さらに、フェイクニュースを生み出すよりも、足場を築いてしまった偽の情報の嘘を暴く方が、労力もかかる。

それと同時に、オンラインメディア、特に金融関係のメディアのビジネス上の必要性が、システム全体を偽情報に対してより脆弱なものとしている。

ニュースをすばやく配信することは、トラフィックとそこから生み出される広告収入に、そして長期的には、ウェブサイト全体のGoogleにおける可視性にも大きな違いをもたらす。

そうしてニュース編集部が1番を狙って競い合う中、手抜きが生じる。今回はCoinDeskも、そのような圧力に屈してしまった。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How Media Fell for a Lucrative Lie About Walmart