「恒大危機」に見る中国企業への投資リスク

ダウ・ジョーンズ工業株価平均は9月20日、2.4%下落した。暗号資産トレーダーのために言っておくと、これは証券市場としては大きな下げ幅なのだ。

この下落を説明する主要なナラティブの1つは、多額の負債を抱えて破綻の瀬戸際にある中国の不動産開発業者「恒大集団(Evergrande Group)」を中心とするものだ。

その支払能力の低さが見えてくる中、同社の債券は中国(やその他の地域)で幅広く保有されているため、債務不履行となった場合には、金融の世界に幅広い影響を引き起こす可能性がある。

早ければ、2つの主要な社債の利払い期限を迎える9月23日にも、幕引きとなるかもしれない。フォーチュン誌によると、恒大集団の社債の1本は現在、額面価格のわずか30%で取引されており、人々の見解が債務不履行の方へ傾いていることを反映している。

今回の事態は、暗号資産エコシステムにも意味を持つ。その理由は、テザーが中国の債券を保有していることへの懸念があることと、暗号資産は広範な市場での下落に明らかに脆弱だからである。

20日のニューヨーク証券取引所での下落に先立つ24時間で、ビットコイン(BTC)は8%値下がりした(証券トレーダーのために言っておくと、暗号資産としては緩やかな値動きだ)。

恒大集団の問題は、中国の株式市場、特に中国株の国際市場での取引が抱える、はるかに大きな一連の問題の一部でもある。

中国企業株への投資がはらむリスク

非常に大まかに言うと、中国企業の株はしばしば、投資家によってアメリカ企業の株と同じように扱われるが、中国の会計やデューデリジェンス、規制の慣習がアメリカのものと同レベルであるかどうかは不透明だ。つまり、中国株への投資は紙面上は安定したものに見えても、現実にははるかにリスクが高い可能性もあるだろう。

この影響が最も甚大だったのは、2018年のドキュメンタリー映画『チャイナ・ブーム 一攫千金の夢』に描かれた2008〜2016年の一連の不正行為だろう。

おそらく数百にのぼる中国企業が、大手グローバル投資銀行や、著名人の(故意または知らず知らずの)助けを借りて、世界中の投資家たちに自らを偽って見せた。

これらの企業の大半は最終的に、西欧の市場では上場停止となり、一般的なアメリカ人が投資した何十億ドルものお金が消えてしまった。そのお金は不正を画策した西欧の人間や、嘘をつくことをいとわなかった中国人CEOたちの手元に渡ったのだ。

『チャイナ・ブーム』の製作陣は一流だ。エンロンを題材にした2005年のドキュメンタリー映画『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか』の監督アレックス・ギブニー氏が共同プロデューサー。そしてもう1人のプロデューサーは、他でもないマーク・キューバン氏だった。

それなのに、先週頃まで私はこの映画のことを知らずにいたし、他の多くの人もそうだったのではないか。『チャイナ・ブーム』は、いまだに解決されておらず、今まさに私たちを直撃しようとしているかもしれない広範な問題についての警告であった。

逆さ合併を利用した不正行為

不正行為の基本的な構造は次の通りだ。

ステップ1。中国企業、通常は採掘や製紙工場などの重工業企業が、機能していないがいまだに登記されているアメリカ企業を買収し、この古い会社を使ってアメリカの証券市場で上場する。

次にアメリカの投資銀行、通常はかなり小規模のものを雇って、イノベーションと成長を大いに約束して、その株式を誇大宣伝する。その後は簡単に言えば、嘘が発覚するまで決算報告を偽装し続け、悪人たちはお金をキープすることができるというやり方だ。

つまり実質的には、不正な新規公開株(IPO)のようなものなのだが、その仕組みのために、完全に合法らしい。シェルカンパニーを使ってアメリカで中国企業を上場することは、逆さ合併と呼ばれており、珍しいことでも、本質的に虚偽でもない。しかし、逆さ合併を用いて上場された株式の報告要件は、伝統的なIPOよりもはるかに緩くなっている。

中国企業はこれに大いにつけ込み、上場の前に収益を10倍も過大に宣伝することすらあった。上場を担当したアメリカの投資銀行が不正にどれほど関与していたのかははっきりしないが、少なくとも、あまり精査することはなく、法的にそのような義務もなかった。

(逆さ合併のリスクは昨今、一連のSPAC(特別目的買収会社)によって浮き彫りにされた。こちらは似たような法律の抜け穴を使って透明性を減らすもので、実績はおおむね芳しくない)

『チャイナ・ブーム』では、空売りリサーチャー、特にカーソン・ブロック(Carson Block)氏とダン・デイビッド(Dan David)氏がこれらの不正を暴くところに焦点を当てている。

大手企業トップやウォール街の売り手側銀行は、空売りを手がける人たちを悪人のように酷評するのが好きなようだが、ブロック氏やデイビッド氏は映画の中で、暴き出した不正行為に深く憤った正義の社会運動家のような印象だ。

映画に登場するデビッド氏とブロック氏をはじめとするリサーチャーたちは、昔ながらの刑事といったかんじで、ヒントを求めてバランスシートをくまなく調べ上げるだけでなく、問題の企業を調査するために出向いたり、エージェントを送り込んだりする。

とりわけ印象深い例では、調査官が数千万ドルの事業規模で、急速に成長しているはずの製紙工場を訪問。そこで見つけたのは、古めかしい手作業の製造手法を用い、半分水浸しで、紙を輸送するのに必要な大型トラックが通れないような砂利道の外れにある、ほとんど廃墟となった工場であった。

しかし、このような調査で見つかった最も衝撃的な事実は、不正行為への中国共産党の積極的な協力だろう。中国人のある調査官は、真実を突き止めようとしたというだけで、中国の監獄で拷問に近い環境で2年もの時を過ごした。

そのような逆風にも関わらず、ショートセラーたちは1社1社逆さ合併企業を調査し、何百社もの上場企業の多くが、見せかけのものであることを暴いていく。そして彼らは空売りを仕掛け、不正を暴く報告書を公開、株価が暴落することでお金を稼いだ。

このような不正によって、退職者や高齢者が何十億ドルも損失を被り、いまだに司法による救済を受けてはいない。そのような人たちの心の痛むストーリーのいくつかは『チャイナ・ブーム』にも描かれているが、「ホワイトカラーの犯罪」が拳銃強盗と同じくらい残酷で、暴力的で、トラウマになるものだと思い知らせてくれる。

不正行為を暴いたことではヒーローであるデイビッド氏も、トレーディングにおいては犠牲者と反対側にいることに、明らかに苦しんでいる。

デューデリジェンスの欠如

しかし、この映画から得られる本当にショッキングな教訓は、他の誰もこのようなデューデリジェンスを実行していないということだ。多額の手数料を受け取った投資銀行も、弁護士も、上場を承認し、信頼を寄せる一般市民へと売り込んだご立派な人たちもだ。企業が提供するデータを検証するだけで、不正が明らかになるまで数字の正確性を調査しないSEC(米証券取引委員会)も同様だ。

しかし、『チャイナ・ブーム』の最大の悪役はウェスリー・クラーク元アメリカ陸軍大将だ。35歳以上なら、聞き覚えがあるかもしれない。2004年の民主党大統領候補選挙で、有力候補だったのだ。その後は投資銀行の世界で大物となり、2007年までには投資銀行Rodman & Renshawの取締役会長に就任した。

クラーク会長のもと、Rodman & Renshawは中国株の不正における主要な闇ルートとなった。映画にインタビュー出演したクラーク氏は、彼のような立場にある人に一般的な考えを示し、名目上指揮を取っていた時に起こったことに責任はないと語った。さらに突っ込まれた質問をされると、クラーク氏は最終的にインタビューを退席した。

中国サイドでも、衝撃的な事態が起こっている。調査官の投獄は、氷山の一角にすぎない。『チャイナ・ブーム』に登場する匿名の中国人ジャーナリストは、中国の規制当局には、海外で虚偽申告をする中国企業を罰する権力がないと主張する。

中国の「法律」は、固定されたルールというよりは、中国共産党の意図に従うための絶え間ない試みであり、そのような方針はつまり、国際的な財政上の不正行為は、中国共産党の公式政策であることを意味する。

このような事態は、恒大集団のストーリーの裏側にも存在し続け、それが暗号資産投資家にとって重要な理由でもある。恒大集団自体が不正である可能性について公の議論はほとんどなく、逆さ合併詐欺はその規模が縮小したようだ。しかし、あまり甚大ではない虚偽でさえも、ラッキンコーヒーのように、会社を破綻させることがあるのだ。

これは、テザーが保有する短期債券を議論する時に、とりわけ重要な点だ。

テザーは先日、恒大集団の債券を保有していないと述べたが、中国企業の債券を保有することは否定していない。恒大集団だけが集中治療室に入るほどに深刻な状態にあるとしても、その債券が、2008年の金融危機に似た債務不履行をきっかけとしたアンワインドを引き起こし、完全に公明正大な中国企業を不安定化させる可能性はあるだろう。

中国企業の債券はまずます、宝くじのような賭けとなっており、テザーが透明性を高めるまでは、賢い投資のためにはもう少し信頼できる安全な避難先を探したほうが良いのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:With Evergrande on the Brink, the China Hustle Comes Home to Roost