フェイスブックのリブラ構想が「必然」の理由──ウーバー、Spotify、ペイパル、eBayらと作る金融エコシステム

新たな仮想通貨「リブラ(Libra)」を軸におく金融システム構想が明らかになった。ウーバー(Uber Industries)やイーベイ(eBay)、マスターカード(Mastercard)、ビザ(VISA)などの主要企業は今後、フェイスブックと共にこの大規模なプロジェクトを推し進めていく。

6月18日に公開されたリブラのホワイトペーパーによると、フェイスブックは複数のメンバー企業で構成される独立したリブラ協会を組織し、その本部をスイス・ジュネーブに置く。同構想の創立者となる企業はフェイスブックを含む合計28社で、ライドシェアのリフト(Lyft)や大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・フォロウィッツ(Andreessen Horowitz)、電気通信のVodafoneグループ、音楽ストリーミングサービスのスポティファイ(Spotify)が含まれる。

フェイスブックは「Calibra」という規制対象子会社を作り、リブラのネットワークをベースにした金融サービスの開発と運営を行っていく。サービスの開始は2020年前半を目指す。

フェイスブックは、eコマース、決済、ライドシェア、電気通信企業に加えてベンチャーキャピタルをも巻き込み、国境を超えた大規模な金融のエコシステムを作り上げようとしている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で巨大なプラットフォームを築き上げたフェイスブックにとっては、新たなサービスを展開して顧客のニーズに応え続けることは必然であろう。

プラットフォーマー覇権

「フェイスブック経済圏というものが形成されていくのであれば、そのプラットフォーム上でユーザーがモノを購入できる決済機能は必要になってくる。フェイスブックがユーザーが求める新たなサービスを開発する上で、eコマースや決済企業と連携することはさほど驚く話ではないように思える」と話すのはニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏。

「人がリアルな生活を営む上で、デジタルプラットフォーマーに対する依存度はすでに高まってきた。消費者が欲する新たなサービスをプラットフォームで展開すれば、顧客満足度はさらに上がっていく。例えば、アマゾンがモノの購入から配達までを短時間で行えば、その破壊的なeコマース企業はコンビニエンスストアの機能を持つことになる」と矢嶋氏は続けた。

リブラ(Libra)のHPより。

リブラの単位は「Libra」となる。同通貨は、実際に存在する資産(リザーブ)により裏づけされるという。ホワイトペーパーによると、多くの仮想通貨とは異なり、生み出されるリブラに対してリザーブで銀行預金や短期国債のバスケットを保有し、同通貨の信頼を担保していく。

同構想の基盤となるブロックチェーンは今後、開発が進められていく。「Libraブロックチェーン」の開発には、スマートコントラクトを実装するために新しく開発されたプログラミング言語の「Move」が使用される。リブラネットワークを完全に 「非許可型」にするという目標を掲げており、特定の主体的な管理者がいない、誰でも運営に参加できるエコシステムを作り上げようとしている。

ホワイトペーパーには「協会は、リブラのグローバルな利用を促進するアプリやサービスの開発者のエコシステムを活性化させたいと考えます。協会が定義する成功とは、世界中のあらゆる個人やビジネスが公正で手頃な方法で、かつ即座に自分の資金に アクセスできるようになることです。例えば、海外で働く人が祖国の家族に簡単に送金できる。大学生がコーヒーを買うのと同じくらい簡単に家賃を払える」と記された。

リブラ構想は、個人に限らず世界中の多くのビジネスユーザーを魅了する破壊的な金融エコシステムになっていくのだろうか?マーク・ザッカーバーグ氏が率いるフェイスブックは、今後さらに金融界からの注目も集めそうだ。

文:佐藤茂、小西雄志
写真:Shutterstock