ビットコインのアップグレード「タップルート」、価格への影響は?

ビットコインネットワークで前回、大きなアップグレード計画が確定した2017年7月から、実際に実施された8月23日にかけて、ビットコイン(BTC)価格は約50%高騰した。

元祖ブロックチェーンネットワークのビットコインは現在、11月に控えた次なる大型アップグレード「タップルート(Taproot)」への準備を進めているが、2017年の時のような値動きを見込む投資家はほとんどいない。

「タップルートのビットコイン価格への影響は最小限のものとなるだろう」と、オンラインの外為ブローカーOandaでシニアマーケットアナリストを務めるエドワード・モヤ(Edward Moya)氏は語った。

11月16日に実施予定のタップルートは、「シュノア署名」と呼ばれるイノベーションを通じて、ネットワーク上での一部の取引のプライバシー保護を高めるものだ。

さらに、より軽量な「スマートコントラクト」も実現する。スマートコントラクトは、特定の条件が満たされた場合に実行されるブロックチェーン上のプログラムであり、競合のイーサリアムネットワークの鍵となる特徴の1つである。

銀行や取引企業の多くの機能を自動化することを目指す分散型金融(DeFi)アプリケーションの急速な成長を支えてきたのも、このスマートコントラクトだ。

「ビットコインにとって革命的な瞬間だ」と、Broctagon Fintech GroupのCEO、ドン・グオ(Don Guo)氏はコメントする。

タップルートは、ネットワーク改善に関して、ビットコインのアプローチと、アップグレードや調整がはるかに頻繁に起こる競合の各種ブロックチェーンとの重要な違いを浮き彫りにしている。

イーサリアムは8月にハードフォーク「ロンドン」を実施したばかりであり、現在では、来年に予定されている大幅なアップデート「イーサリアム2.0」に向けて動いている。そのネイティブ通貨イーサ(ETH)価格は今年、5倍に成長した。

アップグレードの少ないビットコイン

ビットコイン支持者たちは、ビットコインネットワークのゆっくりとしたアプローチは、12年前に誕生して以来、大方の予想を覆して成長を続けてきた革新的なブロックチェーンにダメージを与えることを警戒するビットコイン開発者たちが、どれほど整然と注意深くことを進めているかの現れだと主張する。

しかし、ビットコインネットワークが順応し、拡大する能力にますます懐疑的になり、先発者の優位にかげりが出ると心配する投資家もいる。ブロックチェーン業界における進展の速さを考えれば、大きなアップグレードがなかった4年間というのは、途方もないほどの長さに思えるかもしれない。

「ビットコインでアップグレードが少ないのは、イーサリアムよりも技術的に優れているからだと考える人もいるかもしれない」と、Synergia Capitalのリサーチ責任者デニス・ビノコウロフ(Denis Vinokourov)氏は指摘する。

タップルートは長年にわたって広く期待されたものであり、実施がビットコイン価格に与える影響は限定的だろうと、ビノコウロフ氏は予測し、次のように語った。

「市場が、すでに別のところで利用できるものだととらえるリスクがある」

ブロックストリーム(Blockstream)のCEOでプロトコル研究家のアダム・バック(Adam Back)氏は、ビットコインはアップグレードは少ないが、多くの開発者たちが舞台裏でネットワーク改善のために常に動いていると語った。

開発者たちは、「セグウィット(SegWit)」のアップグレートが実施された翌年の2018年以来、タップルートに向けた準備を進めてきたのだ。

「ビットコインがあまり速く進展していないというのは、誤った認識だ」とバック氏は語る。「長期にわたる質の確実さを、変化の欠如と勘違いする人たちがいる。変化のパイプラインはあり、それは大きなものだが、テストが必要なために、リリースのスケジュールはゆっくりしたものとなる」

バック氏は、「報道で耳にして以来1年も経っているので、人々は待ちきれなくなっている」と指摘。「競合のコインは、5年後にどのようなことが起こるかについて、斬新なマーケティングを多く展開している」とくわえた。

わずか4年前には

歴史を参考にできるとすれば、タップルートは大きなリターンをもたらす可能性がある。

セグウィットを導入した2017年のアップグレードでは、個々の取引から特定のデータを分離し、実質的に小型にすることによって、ビットコインのスケーラビリティが改善。個々のデータブロックのサイズを大きくすることなしに、より多くの取引を処理することが可能となった。

2017年のアップグレードのもう1つの重要な特徴は、ライトニング・ネットワークの実現だ。これは、ビットコインのベースレイヤーの上に構築された2次的なレイヤーで、ほぼ即時に無料でより安全なビットコイン取引を可能にする。ライトニング・ネットワークの2017年以来の成長は、エルサルバドルによるビットコイン法定通貨化決断の理由の要となった。

セグウィット実施か確定したのは7月23日。そのひと月後に実施されると、ビットコイン価格は2017年8月23日、50%値上がりし、当時としては驚異的な4247ドルを記録した。

セグウィット確定(青線左)と実施(青線右)の時期およびビットコイン価格の推移(黄)
出典:CoinDesk

しかし、6万ドルで取引されている現在、ビットコインの値上がりの余地はもう尽きてしまったと考える投資家もいる。

「ビットコインにどれほどの値上がりが期待できるかについては、限りがあるかもしれない」と、デジタル資産投資を手がけるサイファーパンク・ホールディングス(Cypherpunk Hodlings)のCOO、ダニエル・コーリー(Daniel Cawrey)氏は述べる。

「機関投資家であれば、すでに乗り遅れたような感じがするだろう」とコーリー氏は話す。だからこそ投資家は、イーサリアムやその他多くの「イーサ・キラー」と呼ばれる競合ブロックチェーンに注目しているのだと説明した。

タップルート実施によって何が起こるのか?

ブロックチェーンミドルウェアプラットフォーム「Bitfrost.io」のCEO、アントン・チャスチン(Anton Chaschin)氏は、新しいプロダクトやアプリケーションが生まれる可能性を考えれば、スマートコントラクトの導入によって、機関投資家からの関心が増える可能性があると指摘する。

一方、プライバシー機能の強化によって、脱税、マネーロンダリング、その他違法行為を懸念する政府からのより厳しい監視を招くかもしれない。

「プライベートな取引にとっては魅力的かもしれないが、規制当局から疑いの目を向けられるかもしれない」と、チャスチン氏は述べ、次のように続けた。「すでに規制の議論は活発であり、規制当局からの積極的な介入を招く決定打となるかもしれない」

暗号資産投資家は9月、中国政府によるビットコインマイナーに対する取り締まりを心配した。ネットワークのエネルギー消費や環境への負担も、伝統的投資家の多くにとっては大きな懸念事項のままである。

6月の約2万8600ドルの安値から完全に回復した今、投資家が今以上にビットコインに強気となることは難しいかもしれない。

アメリカで待ち望まれていたビットコイン先物ETF(上場投資信託)も、プロシェーアズ・ビットコイン・ストラテジーETFの取引開始により先日実現し、わずか2日間で10億ドルを超える取引高を記録した。それに続き、ヴァルキリー(Valkyrie)のビットコイン・ストラテジーETFも22日、VanEckのETFは26日に取引開始となった。

しかし、ブロックチェーン分析企業IntoTheBlockによると、ビットコインは価値の保管手段としての投資意義を維持したまま、その信頼性やアップタイムに影響せずに変更、アップグレードできるテクノロジーだと、タップルートが示すことになるかもしれない。

「投資家はアップグレードを前向きに捉え、価格は長期的には上がり続けると私たちは考えている」と、IntoTheBlockのアナリスト、フアン・ペリサー(Juan Pelicer)氏は語った。

「テクノロジーの導入が成功し、それに普及の広まりが続けば、価格がそれに続かない理由はない」と、Broctagonのグオ氏も強気の姿勢を見せた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Taproot Upgrade Might Already Be Priced Into Bitcoin