アメリカに根づく「スタジアムの呪い」──Crypto.com、FTXは大丈夫か

NBAの強豪ロサンゼルス・レイカーズの本拠地ステイプルズ・センターが、「クリプトドットコム・アリーナ(Crypto.com Arena)」に改称されることが、17日に発表された。

20年間有効の7億ドル(約800億円)の命名権契約で、スポーツの歴史の中で最高額のものとされている。スポーツファンの多くは、一時代の終わりを嘆いているが、今回の改称を、暗号資産(仮想通貨)セクター全体の正当性を裏付けるものと見る人たちもいる。

「スタジアムの呪い」

それが本当であることを心から願うが、大型スタジアムの命名権契約の歴史を見れば、そうである保証はないことが分かる。多くの企業、とりわけ新しいテクノロジーや投機的投資に頼った企業が、勝利を祝うかに見えた命名権合意の後に、つぶれている。一時あまりに頻発したため、「スタジアムの呪い」と呼ばれたほどだ。

命名権に多額の資金を投入することは時に、企業経営陣の判断力を投資家が疑問視する理由とさえなってきた。ブランディングや知名度にもたらす見返りが、あまりはっきりとしていないからだ。

「スタジアムの呪い」が襲った企業のいくつかは知られているだろうが、その多くはあまり知られていない。過去半世紀でおそらく最も悪名高い企業による不正行為をはたらいた悪徳「エネルギー取引企業」エンロンは、MLBチーム、ヒューストン・アストロズのスタジアム(現在のミニッツメイド・パーク)の命名権を買ったわずか2年後に破綻。

インターネット投資持ち株会社CMGIは、NFLチーム、ニューイングランド・ペイトリオッツの本拠地で、現在はジレット・スタジアムと呼ばれるスタジアムの命名権を1999年に獲得した後、長くは続かなかった。

成功の証?

これらの事例は、命名権合意の中心にある、根本的な葛藤を浮き彫りにしている。命名権は、ランボルギーニ購入の企業版のようなものだ。機能的にはほとんど役に立たないが、世界に向けて、自分は勝ち組であること、なぜなら火をつけてしまえるほどにたくさんのお金を持っているからだということを大きく知らしめることができる。

デイトレーディングのカリスマたちが(借り物の)ランボルギーニを見せびらかすのと同じように、スタジアム命名によって成功のメッセージを送ることが、本当はまだ成功していない企業にとってはとりわけ魅力的なのだ。

暗号資産取引所クリプトドットコムのブランド認知度は比較的低いため、このような解釈を今回の命名権合意にも適用したくなる。クリプトドットコムは広告に多額の資金を投入し、それなりの取引高を上げており、暗号資産データを手がけるコインゲッコー(CoinGecko)によれば、スポット市場では世界第4位につけている。

しかし、別のNBAチーム、マイアミ・ヒートの本拠地の命名権を先日獲得した、サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)が率いるFTXとは対照的に、クリプトドットコムは暗号資産イノベーションには深く関与していない。

純粋に個人投資家に特化した事業の台頭そのものが、セクター全体の成長の指標なのかもしれないが、俯瞰して見れば、暗号資産市場の低調にとりわけ脆弱であることが分かるだろう。

ちなみにFTXは、19年間有効の命名権に対して、わずか1億3500万ドルしか支払っていないと報じられており、ヒートは最近では、レイカーズと同じくらい人気だ。FTXがお得な合意にこぎつけたか、クリプトドットコムが法外な金額をふかっけられたか。もしくは、マイアミが20年後には水没する可能性を織り込み済みの値段なのかもしれない。

ステイプルズ・センターの名前は、2008年から2012年頃にコービー・ブライアントを筆頭としたレイカーズが伝説的な連覇を成し遂げたおかげで、象徴的な存在となった。「ステイプルズ・センター」は最近ではおそらく、大型小売企業ではあるが、アマゾン(Amazon.com)の時代に一貫して弱体化の道をたどっている名付け親企業ステイプルズと同じくらいの認知度を持っているだろう。

コービー・ブライアントの妻も、今回の改称に動揺したようで、インスタグラムでそれとなく不満を述べている。

「ステイプルズ・センターが来月、クリプトドットコム・アリーナに改称。

ステイプルズ・センター改称のニュースに対するヴァネッサ・ブライアント(コービーの妻)の反応。

ヴァネッサ・ブライアント:『コービーが打ち立てた殿堂』として永遠に知られる」

ヴァネッサ・ブライアントが言おうとしていたのは、プレイヤーがすることの方が、誰が命名権に多額の小切手を切るかよりも常に大切だ、という点かもしれない。しかし、レイカーズファンは間違いなく、受け継がれてきた力強い伝統を象徴する「ステイプルズ・センター」という名前が失われることを嘆いている。

ドットコムブームの二の舞となるか?

そのことは、スポーツにおける命名権がどれほど価値のあるものとなり得るかを示している。少しの運があれば、自らのブランドを、地球で最も愛される人たちと結びつけることができるようになるのだ。

それだけでは、企業を大いなるエネルギーで満たすには不十分かもしない。しかし過去20年間、ロサンゼルスのスタジアムに自社の名前を冠していない企業がどこだか分かるだろうか?オフィス・デポだ。ステイプルズの方が業績が好調で、オフィス・デポの買収を試みているのだ。

偶然かもしれないが、「スタジアムの呪い」の事例の多くは、ドットコム破綻をめぐるものであり、それ以降、命名権を買い取った企業は投資家たちにとって、玉石混交となっているようだ。

あなたが暗号資産にとってどれほど楽観的であっても、急速で投機的な現在の成長は間違いなく、エンロンや同様の命名権合意が締結された頃の1990年代後半のテック業界の状況と類似している。

クリプトドットコムそのものの命運がどうなるかに関わらず、現在人気の暗号資産事業がCMGIのような負債過多のものであったり、エンロン風に完全なる詐欺であることが判明するなど、審判の時を迎える企業は出てくるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:「クリプトドットコム・アリーナ」への改称が決定したステイプルズ・センター(Katherine Welles / Shutterstock.com)
|原文:FTX, Crypto.com and the ‘Stadium Curse’