共通ステーブルコインの誕生、現金とCBDCの終焉:通貨の未来をめぐる5つの予測

ビットコイン(BTC)にステーブルコイン、そして分散型金融(DeFi)の台頭に伴い、通貨について執筆活動を行う私たちにとっては、ここ10年間は信じられないような激動の時期であった。

ビットコインが2008年に誕生して以来、私たちが目にしてきたイノベーションの多くは、私たちが死ぬまで生き残り続けるだろう。恥ずかしい失敗として消えていくものもあるだろう。通貨の未来について、私からは5つの予測をお届けする。

1. DeFiは中央集権型金融を失墜させることはない。ゆくゆくは、2つの境界が曖昧になり、ひとつになる。

分散型金融(DeFi)がもたらす特徴の多くは、将来的に通常の金融の世界によって模倣されるだろう。例えば通常の金融が、ブロックチェーンという部分に思い悩むことなく、DeFiが提供するような自動性やプログラマビリティをコピーできないはずがない。

通常の金融がDeFiの便利な部分をコピーしたとしても、DeFiの方は同じ規制上の枠組みへと入り込むことで、通常の金融と競い合うだろう。つまり、DeFiツールはアンチマネーロンダリング/顧客確認(AML/KYC)のルールを遵守したものとなり、米証券取引委員会(SEC)に登録されるか、米通貨監督庁(OCC)からライセンスを受けるだろう。

それも、強制されてそうなるという訳ではない。(真に分散型のプロトコルを強制して何かをやらせるのは困難だ)DeFiツールは、自発的にルールに遵守するようになる。世界の資本の大半は、合法な資本だ。合法な資本は、違法な場ではなく、規制を受けた場に存在しようとする。そのような資本を捉えるためには、DeFiには規制を遵守する以外の選択肢がないのだ。

最終的には、DeFiと伝統的金融(TradFi)はひとつになっていくということだ。人々は自分たちが利用する金融商品の内実が分散型であるか、通常の金融のものであるかということかなんて、気にしないだろう。

しかし、規制を回避し、好き勝手に振る舞う真のDeFiとでも言うべき、ワイルドな辺境部分は常に、小さく残っていくだろう。そこには、はみ出し者やマニア、アクティビスト、そして犯罪者たちが皆集まることになる。

2. エルサルバドルは重大な分岐点として記憶されることはない。

多くのビットコインファンにとって、エルサルバドルが2020年にビットコインを法定通貨に採用したことは、重要な分岐点となった。エルサルバドルから始まり、次に中米の残りの国々、そして南米、さらにはアメリカが続くだろう。そして2030年までには、世界中が「ハイパービットコイン化」されている。

エルサルバドルのビットコイン採用は将来的には、現実を痛感させた事態として捉えられる。

普通の市民は、ビットコインのようなボラティリティの高いものを支払いのために使いたがらない。すでにビットコインを保有する人たちは、リッチになることに望みをかけて、保有し続けることを好む。ビットコインを保有していない人たちはおそらく、危険と考えて、支払い手段として受け入れることを望まないだろう。

つまり、ビットコインは一般的に受け入れられる支払い手段としては行き詰まっているのだ。

そうなると、エルサルバドルがビットコイン基盤の支払いインフラ構築に費やしたすべてのリソースは無駄になる。今にもビットコインを採用しようとしている国々は、エルサルバドルの通貨実験を注視している。うまくいっていないと見れば、自国の計画を中止するだろう。

それでも、国家がビットコインを採用することはスタイリッシュなままであり続ける。しかしそれは形式的なだけで、マーケティング手法としてだ。エルサルバドルのような、徹底的なビットコイン化の試みは、広がることはないだろう。

3. 現金は消えて無くなる。CBDCも。

ビットコイン時代において、中央銀行関係者たちは嫉妬するようになっている。「私たちにも、すごい通貨を生み出せるんだ!」と。そこで彼らは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)というアイディアを持ち出してきた。

いくつかの主要な西欧の中央銀行がCBDCを試すが、顧客確認を行ったドルやユーロの電子版に国民は興味がないことが判明するだろう。既存の銀行やフィンテックで、十分に事足りるのだから。CBDCに対する需要が冴えないことを見て、様子見をしていた他国の中央銀行は、CBDC構想を放棄するだろう。

CBDCの夢を打ち砕かれた中央銀行に残された、一般市民との唯一のつながりは昔ながらの紙幣である。しかし、コマースにおける紙幣の利用は減少を続け、ATMは公衆電話と同じくらい珍しいものになるだろう。

2020年代後半までには、かつてはあらゆる銀行の支店で提供されていた標準サービス、銀行口座の残高の現金引き出しが、かなり珍しい取引となる。ミレニアル世代の若者が2011年、小切手の書き方を知らなかったとしたら、Z世代は2031年、キャッシュの使い方を知らなくなっているだろう。

中央銀行はそのような瞬間を恐れている。彼らは常に、支払いシステムの中心にいることを好んでいるのだから。

しかし、心配することは何もない。私たちは下水道システムについて考えることはほとんどない。私たちは水道本管を直接取り扱うことはないし、下水処理施設の仕組みなんて気にしてはいない。しかし究極的には、私たちの暮らしはこのようなインフラの冴えない部分に依存しているのだ。

同じことが、中央銀行にも起こるだろう。現金とCBDCがダメになれば、私たちが中央銀行と直接やり取りすることはない。しかし、私たちの知らないところで、あらゆる金融ツールは中核となる中央銀行決済に依存しており、それで問題ないのだ。

4. 政府が顧客確認をインターネット全体に強制しなければ、マスターカードとビザがそうする。

将来的には、オンラインコンテンツの大半は厳しく吟味され、承認されたクリエーターへと遡ることができるようになる。クレジットカードのネットワークが、このような展開を支える大きな推進力となるのだろう。

多くの人は気づいていないが、マスターカードは2021年10月、新しいルールを導入した。ユーザー作成のポルノを掲載するあらゆるウェブサイトに対して、身元確認ルールを採用するよう義務付けたのだ。すべてのコンテンツに違法な素材が含まれていないか吟味することも義務付けられた。

従わなければ、マスターカードのネットワークから除外されることになる。カードネットワークへのアクセスを失うことは、商業的な死を意味するため、大半のウェブサイトは従っている。

カードネットワークは将来的に、そのようなポルノサイトに対するルールを、ユーザーが作成するコンテンツを扱うあらゆるウェブサイトへと広げていくだろう。ユーチューブ、動画共有サイトの「ランブル(Rumble)」、ツイッター、フェイスブックをはじめ、似たような無数のウェブサイトが、ユーザーの身元を確認し、リアルタイムでのコンテンツモデレーション(投稿監視)の仕組みを整えることを義務付けられ、従わなければカードネットワークから締め出されるだろう。

カードネットワークは必ずしも、インターネットの検閲役を担いたがっている訳ではない。違法なオンラインコンテンツのための支払いを処理することが、マネーロンダリングに当たるというのが問題なのだ。告発の危険を避けるために、ビザやマスターカードは、ネットワークをクリーンなものに保つ以外に道はない。

5. 普遍的なステーブルコイン規格が誕生する。

しかし、カードネットワークによるオンラインコマース独占の状況は、ゆくゆくは、力強い競合に脅かされることになる。

これから数年間、ステーブルコイン業界は失敗、成長、合併の度重なるサイクルを繰り返し、最終的にはいくつかの大手ステーブルコインが残ることになるだろう。

複数の異なるステーブルコインに対処することは、一般市民にとっては混乱を招くものであるため、発行事業者は団結して、相互運用可能なステーブルコイン規格を開発するだろう。発行事業者はそれぞれ、別のステーブルコインを1対1で受け入れ、実質的には単独の共通ステーブルコインへと融合していく。

このような連携が実現すれば、ステーブルコインはDeFiや暗号資産取引所の、閉ループ投機の世界を飛び出し、実世界へと進出して、カードネットワークを脅かす。

ビザとマスターカードによる完全支配を打ち破るために、ステーブルコイン同盟は消費者への普及を促す方法を見出さなければならない。最初の大きな勝利は、アマゾンと交渉して、「ステーブルコイン対応」という支払いオプションを追加してもらうことだろう。

アマゾンとしては、クレジットカードよりステーブルコインによる支払いを処理する方が安くつくため、ステーブルコイン同盟は、すべてのステーブルコインでの購入に対して1%の割引を行うよう、アマゾンを説得できるはずだ。

1%のステーブルコイン割引は、カードネットワークを追いやるのに十分だろうか?それは分からない。しかし少なくとも、競争は生まれる。

J.P. コニング(J.P. Koning):カナダの証券会社の元リサーチャー、現在はカナダの大手銀行で金融ライターとして働き、人気ブログ「Moneyness」を運営している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Universal Stablecoins, the End of Cash and CBDCs: 5 Predictions for the Future of Money