「インフレヘッジ」だとすれば、なぜビットコインは下落しているのか?【オピニオン】

米労働省統計局は10日、11月の消費者物価指数(CPI)を発表、前年同月比の上昇率は6.8%となった。これは1982年以降で最も高い数字、つまりほぼ40年ぶりの高いインフレ率で、間違いなく良いとは言えない。この数字は、例えばバイデン大統領が提唱する「Build Back Better」(より良い再建)政策を無に帰するなど、さまざまな意味を秘めている。

株式市場はすでに高いインフレ率を織り込み済みで、ダウ平均株価は横ばいから、やや反発している。ゴールドもわずかだが上昇。金先物はこの6カ月、インフレ懸念から不安定ながらも上昇を続けている。

一方、ビットコイン(BTC)は横ばいから下落に転じ、1カ月で25%超の下落となった。ビットコインの最も広く知られているセールスポイントの1つである「インフレヘッジ」、つまり法定通貨が価値を失っているときに資金を投入する資産であることと矛盾している。

インフレヘッジというアイデア

なぜだろうか? 世界最大の経済大国でインフレ率が40年ぶりの高水準となっているのに、なぜビットコイン価格は上がらないのか?

ここには、ありがちなYouTubeの暗号資産インフルエンサーが絶対に口にしない秘密がある。すなわち、ビットコインがインフレヘッジになるというアイデアは、純粋に投機的なものだ。説得力があって、将来的に真実になるかもしれないし、すぐにビットコインに投機する合理的な理由になるだろう。だが今、実際に機能するメカニズムではない。

ビットコインの普及がこのまま進めば、いずれそうなると考えることは、構造的に妥当なことだろう。多くの企業や個人が資産の多くをビットコインに移せば、価格はより安定し、半減期や上限を定めた発行ポリシーはより魅力的になり、インフレが進行しているときにビットコインに投資するリスクは減る。

ゴールドに投資する人がいるのは、こうした理由のためであり、ときにビットコインが「デジタルゴールド」と呼ばれる理由だ。投資家でCoinDeskのコラムニストのニック・カーター(Nic Carter)氏は、ビットコインがゴールドと同じように普及すれば、現在の10倍の価値になるだろうと指摘した。私も未来のシナリオとしては可能性が高いと思う。

将来の成長シナリオに基づいた価値

だが、今はではない。現在、ビットコイン価格はインフレとは直接関係のないさまざまな理由で不安定になっている。最近の値動きを見ると、これらの要因は「デジタルゴールド」のアイデアよりもかなり強力だ。

なによりもビットコインは2年近く強気相場となっていた。平均値に回帰するというシンプルな数学的性質と、利益確定というエモーショナルな動きから、下落は不可避だった。なぜならビットコインは依然として明らかに投機的資産だからだ。現在の1兆ドル近い時価総額は、現在の普及状況ではなく、将来の成長シナリオに基づいている。

投機的資産は不確実性に対して特に脆弱だ。例えば、米EV大手テスラの株価は、イーロン・マスク氏が人工知能(AI)を発明することに大きく依存し、この1カ月でビットコインとほぼ同じくらい下落している。

こうした動きは実体経済の強さに対する不安を表しており、不安のほとんどはアメリカ以外に集中している。特に中国は景気後退の兆候が見え始めており、世界中に深刻な影響を与える可能性がある。だが負債は基本的に世界中で記録的な水準にある。

つまり、状況は不安定で気づかないうちにさまざまな方向に進む可能性がある。大きな下落要因によってビットコインは推進力を失い、一部の投資家は安全のためにリスクを減らしている。

経済や金融の不都合な真実

ビットコインはインフレヘッジというアイデアに関して言えば、このシナリオは経済や金融の最も不都合な真実を示している。つまり、物事の理由を明確に証明することはほぼ不可能ということだ。

「コントロールされた実験」はあり得ない。1回に1つの変数だけを変化させて、その影響を完全に観察できるような状況はない。インフレヘッジとしてのビットコインの役割を明確に確認するには、インフレだけが起きている状況が必要だが、現実の世界ではそのような状況はあり得ない。

むしろ、経済や金融の問題には、専門家でもまったく認識できないような要素を含む、数多くの変動要素が存在する。未来を予測するには、どの変動要素に注目するかが重要だ。ビットコインにとっては、少なくとも今のところ、インフレはマーケットが注意を向けている話ではないようだ。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Is Bitcoin Dropping if It’s an ‘Inflation Hedge’?