フェイスブックのリブラは“ゲームチェンジャー”になるか【FATF・元統括インタビュー】

フェイスブック(Facebook)が主導するステーブルコイン「リブラ(Libra)」を軸におくグローバル金融システム構想は、6月18日にそのホワイトペーパーが公開されるとたちまち世界中の注目を集めた。

リブラ構想の発表から10日後の28日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれた大阪で、仮想資産サービス提供業者(VASP=Virtual Asset Service Providers)サミット「V20」が開幕。国内外の政治家や法律家、取引所、規制当局者らが出席した。

「ファトフ」で知られる、マネーロンダリング(資金洗浄)などの金融犯罪対策における政府間会合の金融活動作業部会(FATF=Financial Action Task Force)の関係者も、V20・大阪での議論に参加。その中に、ファトフ・元統括(President)のロジャー・ウィルキンズ(Roger Wilkins)氏の姿があった。

ウィルキンズ氏はリブラ構想をどう考えているのか?同氏がCoinDesk JapanとCoinDesk Koreaの共同取材に応じた。


「法定通貨と競い合うほどの圧倒的な通貨の1つになる可能性がある」(ウィルキンズ氏)

−−単刀直入にリブラ構想をどう考えるか?

ウィルキンズ:いくつか考えることがある。まずは、リブラは「ゲームチェンジャー(形勢を一変させる、大変革をもたらす)」となる可能性があるということ。

ビットコインがこれまで圧倒的な仮想通貨であったが、(リブラは)今後、法定通貨と競い合うほどの圧倒的な通貨の1つになる可能性があるだろう。リブラには、それを支持する相当の参画企業が存在する。

2つ目に考えることは、リブラにはフェイスブックが関与している点だ。広報的な観点からすると、この事実はマイナスに働くかもしれない。いずれかのタイミングで、フェイスブックとザッカーバーグ(フェイスブック・共同創業者兼会長のMark Zuckerburg)の存在感を薄める必要があるかもしれない。

(フェイスブックの)インフラを活用することはあり得るかもしれないが、フェイスブックがそれを所有したり、管理したりすることはないだろうと考える。私は(リブラについての)内部事情を知ることはないが、個人的な意見としてこう考えている。

−−リブラ構想は世界の仮想通貨全体にどんな影響を及ぼすと考えているか?

6月28日、大阪市内のホテルで開催された仮想資産サービス提供業者(VASP=Virtual Asset Service Providers)サミット「V20」。

ウィルキンズ:世界には多くの仮想通貨が存在してきているが、リブラは整理・縮小(コンソリデーション=consolidation)を進める起爆剤になるかもしれない。規模の小さいコインは無数にあるが、その多くは長期にわたって消えてなくなっていくだろう。

リブラは、より多くの人に受け入れられる仮想通貨になる可能性がある。今までビットコインや他の仮想通貨に対する興味を持たない多くの人たちでさえもだ。

そして、リブラが投資対象としての魅力を高めるものになれば、それは解決すべき別の課題の話し合いを深めることになる。消費者保護、健全でマクロ経済的な必要条件、サイバーセキュリティ……。これらは仮想通貨というものが運営される上で最も重要な課題だ。

コントロールする者がいない貨幣はすばらしいものであろう。しかし、それを嫌う多くの一般の人たちがいる。責任を果たすべき存在を求める人たちがいる。中央銀行は、誰かが資金供給の適正化をしっかりとやっていかなければいけないと言うだろう。

シドニーでの1リブラが、シンガポールや韓国、日本の1リブラと同等の価値も持つことになれば、外国為替におけるアービトラージ(サヤ取り)はなくなるだろう。

インタビュー・文・写真:佐藤茂