NFTアートに33億円、私が出した理由【オピニオン】

NFTアートに33億円、私が出した理由【オピニオン】

2021年以前、暗号資産(仮想通貨)はカルトだった。今年、暗号資産はカルチャーになった。

このムーブメントは、デジタルアートの旗手「ビープル(Beeple)」こと、マイク・ウィンケルマン(Mike Winkelman)氏が生み出し、リードした。2021年以前、暗号資産業界の誰も、アートが暗号資産をメインストリームに押し出すとは考えていなかった。だが今、私はコミュニティに新しいエネルギーと新しい人たちをもたらしたことに感謝している。

筆者のライアン・ズラー(Ryan Zurrer)氏は、スイスのベンチャーキャピタル「ダイアレクティックAG(Dialectic AG)」の創業者兼マネージングディレクター。11月、デジタルアーティスト「ビープル(Beeple)」のNFTアート「Human One」を2900万ドル(約33億円)で落札した。

ビープルのデジタル彫刻の傑作「Human One」は、おそらく今までで最も重要なノンファンジブル・トークン(NFT)であり、暗号資産とアートの双方の分野に詳しいジェハン・チュー(Jehan Chu)は「現時点で今世紀における最も重要なアート作品」と述べている。

Human Oneは、メタバースへの人類の第一歩についての重要な考察であり、デジタルアイデンティティとリアルな世界のアイデンティティについて深い質問を投げかけている。Human Oneが呼び覚ます内省的な対話は、我々の社会にとってタイムリーかつ、切実なもの。一人ひとりがこの新しい自己意識と格闘し、バランスを見つけ出さなければならない。

ニューヨークで開催されたイベント「NFT.NYC」の期間中、Human Oneは数千人もの人を魅了した。展示されたクリスティーズのショールームには長い行列ができ、Human Oneがいかに多くの人々の心を揺さぶり、刺激しているかを示した。

サウスカロライナ州チャールストンにあるビープルの未来的なアトリエで、3Dプリンター、レーザーカッター、ロボット工学を使って作り出されたデジタルアートの物理的な表現も、メタバースと我々の物理的なリアリティの間のあり方に新しい刺激を与えている。

私は幸運にも、マイク(ビープル)と弟のスコット、そして選りすぐりのアーティストや航空宇宙エンジニアがイノベーションを生み出している広大なアトリエを見て回ることができた。まるで、全盛期のアンディ・ウォーホルのスタジオとベル研究所をミックスしたような不思議な空間だった。

進化する作品

アーティストが作品にサイン(署名)を入れた時、それは完成を意味する。ビープルのチームはHuman Oneにサインしたが、マイクとスコットはまだサインしていない。つまり、作品はまだ完成していない。ビープルがHuman Oneを定期的に、しかも生涯をかけてアップデートしていくことを、世界はあまり理解していなかったと思う。

Human Oneは、アーティストとコレクターの関係を根本的に変えるものであり、別の意味でもアート史上初のことだ。ビープルのキャリアの終わりには、Human Oneは実際、何千もの作品になっているだろう。

ビープルは、常に進化し、革新を続け、発展し続けている。改善し続ける、真のマスターであることが、すでにわかります。私は彼の将来の作品は、過去の作品よりもさらに優れたものになると信じている。

メトカーフの法則

私はよく「なぜNFTは物理的なアートに比べて、高い値段がつくのか」と質問される。この現象には「ネットワークの価値はネットワーク参加者の数の2乗に比例する」というメトカーフの法則が緩やかに適用されている。

つまり、巨大な資本力を持つ人や組織が、いつでも、どんな作品にも入札できるため、より純粋な「価格発見」が可能になり、価格が上昇した。例えば、あなたがピカソの作品を持っていたとする。だが通りからその作品を見た人が、あなたに魅力的なオファーをするための十分なお金と意志を持っている可能性はきわめて低い。

仮にオークションに出品したとしても、作品に気づくのは市場のごく一部。一方、NFTでは、世界中の誰もが、どんな作品でも十分に検討し、好きなタイミングでオファーを出すことができる。この市場メカニズムにより、多くのアーティストが作品の最適な売り方を比較検討し、「スーパーレア(SuperRare)」のようなオンラインマーケットプレイスは今年、サザビーズやクリスティーズのような従来のオークションハウスを凌駕している。この違いは今後、さらに顕著になるだろう。

2022年のNFT

最後に、今後18カ月の動きを予想してみよう。

まず、NFTのユースケースが広がる。特に音楽NFTが脚光を浴びるだろう。もちろん、知的財産、映画、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を使った空間NFTなど、さまざまなNFTが登場する。

NFTの台頭がもたらした一番の成果は、暗号資産に新たな富をもたらしたことだと考えている。クリエイターたちは経済的・創造的な独立の手段を手に入れた。今年注目を集めたゲーム、コレクターズアイテム、ファインアートを超えて、市場は大幅に拡大するだろう。

その一方で、専門性も求められるようになるだろう。我々もゲームとファインアートなどでは、投資に際して異なる専門家が検討を行っている。

第2に、ある時点で、必然的に淘汰、つまりクオリティ重視の方向に進むだろう。2017年のICO(イニシャル・コイン・オファリング)や、それ以前のあらゆる新興産業のように、新しい技術の進化・普及が急速に進んだ時期に放物線を描いて上昇した資産やプロジェクトの90%以上は、時間の経過とともにほぼ無価値であることが証明されるだろう。そして生き残った約10%はその後、信じられないほどの価値と重要性を持つようになる。

そうした厳しい時期を乗り越えるために、私自身は「プルーフ・オブ・アートワーク(Proof of Art Work)」と呼ぶコンセプトを基準に定めている。ビットコインのような「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」の暗号資産の価値は、投下された資本と運用コストの合計、つまりこれまでに行われてきた「Work」がビットコインの価値を現在のレベルまで押し上げてきたと言える。

我々は、アート作品も同様の基準で捉えている。作品にどれだけの時間、努力、コラボレーション、イノベーション、あるいはトレーニングが費やされたのかを確認している。希少なものか? 文化的に重要なものか? 技術的にはどうか、あるいはストーリーや感情を呼び起こすイノベーティブなものか?

こうした基準を持っているため、ときに刺激的な作品を見逃すこともあるが、市場の動きに関係なく静かに楽しむことができる、ハイクオリティでイノベーティブなデジタルアートを選ぶことができる。これが私が「Human One」のような歴史的な作品に夢中になる理由だ。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:オークションが行われたクリスティーズのWebサイト(キャプチャー)
|原文:Why I Spent $29M on a Beeple

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