エルサルバドルのビットコイン債、開発の舞台裏:設計担当者に聞く

エルサルバドルが国家規模でビットコイン(BTC)を受け入れたことは、暗号資産界に転機をもたらす最も大きな節目がたくさんあった2021年において、そのような出来事の1つであった。

ビットコインを法定通貨として使用することは、一連の実験的プロジェクトや投資を引き込みそうであり、火山の地熱発電を利用したビットコインマイニングは、低所得の経済にとって、大きな支えとなる可能性がある。

「ビットコイン債」誕生に向けて

しかし、エルサルバドルが先日発表した「ビットコイン債」は、真に最もディスラプティブ(創造的に破壊するもの)で、力を与えてくれる要素なのかもしれない。

ビットコインに裏づけられた債券をブロックチェーンインフラを通じて販売することで、エルサルバドルは 発展途上国の経済に対するローンを1世紀にもわたって徹底的に支配してきたウォール街の銀行や、国際機関を迂回できるのだ。グローバルな投資金融業者がシステムのコントロールを維持しようとする中、これは全面的な公の戦いへとエスカレートする可能性があるかもしれない。

それでも、このビットコイン債の技術的詳細については多くの疑問があり、その真の影響については、未知な部分がたくさんある。そこで、詳しく知るために私は先日、ブロックストリーム(Blockstream)の最高戦略責任者サムソン・モウ(Samson Mow)氏にインタビューを行った。

ブロックストリームとモウ氏は、ビットコイン債のデザインに関して顧問役を務め、ブロックストリームが作り出したビットコインベースのサービス「リキッド(Liquid)」を使ってビットコイン債が発行される。

ブロックストリームは債券の発行、販売、運用に直接携わることはなく、それらはエルサルバドルの中央銀行と、暗号資産(仮想通貨)取引所ビットフィネックス(Bitfinex)が担当する。

モウ氏がエルサルバドルと関わるようになったのは、ストライク(Strike)創業者兼CEOジャック・マラーズ(Jack Mallers)氏を介してであった。マラーズ氏は、エルサルバドルのビットコインプログラムの先頭に立った功績から、CoinDeskによる暗号資産で最も影響力のある人物の1人に選出された。

「私たちの関係は、ブロックサイズ戦争(2015〜2017年にかけての、各ビットコインブロックに収まるデータ量をめぐる戦い)にまでさかのぼる」と、モウ氏は語る。「彼は、小ブロック側だった。(中略)あれはたくさんの同盟が結ばれた、ビットコインの歴史における成長の時期であった。現在でも、そのような同盟の多くがまだ残っている」

2021年6月のビットコインカンファレンスに先駆けて、マラーズ氏を介してビットコイン債のアイディアを初めて提案したと、モウ氏は述べる。しかし、エルサルバドル政府は個人への配布に集中していたため、ビットコイン債券への本格的取り組みは10月まで実施されなかった。

準備期間は限られていたが、モウ氏はエルサルバドルである程度の時間を過ごすことができ、エルサルバドル政府とその関係者たちについて、前向きな印象を受けた。

意欲的な関係者たち

「全体的に、非常に強力なまとまりと方向性を感じた」と、モウ氏は指摘し、次のように続けた。「カナダ政府を相手に派遣されたこともあったが、政府関係者からこれほどのやる気を感じたことはなかった。(中略)これは何かを成し遂げるための、一生に一度、1000年に一度のチャンスだと感じた」

そのように共有された目的意識とコミットメントは、モウ氏と様々な政府機関とのやり取りにも見られた。金融関係のチームだけではなく、観光、農業、エネルギー関連の組織でもそうであったのだ。

「週末に色々とまとめて、何かを実現しようと急いで頑張っていた」とモウ氏は振り返る。「(国営電力企業)CelやLaGeoとも会ったが、彼らは常に乗り気だった。みんなが本当にブケレ大統領を支持しており、みんなが大統領の指導力を信じている。だからこそ、物事をはやく進めることが可能なのだ」

モウ氏はそのような集中力をカナダと比較し、カナダでは、「水力発電による電力が膨大に手に入るのに、それについて何もしていない」と指摘する。(ブロックストリームはカナダのブリティッシュ・コロンビア州にある)

ブケレ大統領を独裁者の卵のように表現しようとする試みがあることを考慮すれば、モウ氏の指摘は、とりわけ興味深い。ちなみに、彼を独裁者の卵のように非難する声は、アメリカ国務省が「透明で信頼性がある」と評価した2019年の選挙で勝利を収めて以降維持してきた、大統領の非常に高い支持率とはマッチしていない。

最終的には、ビットコイン債のために3つのデザインを考案したと、モウ氏は語った。1つの提案は、ブロックストリームが発行する「ビットコイン・マイニング・ノート(Bitcoin Mining Note)」により近いものだ。別の提案は、暗号資産トークンの形で発行される、より伝統的な債券。最終的には、最初の提案である、この先10年間のビットコイン価格に債券のリターンを強く結びつけるものが選ばれた。

驚くことに、ビットコイン債が売れるかどうかについてはほとんど議論は交わされなかったと、モウ氏は言う。「少なくとも最初のいくつかの債券のターゲット市場は、ビットコイン業界に慣れ親しんだ人たちだ。市場性が問題となったことはないと思う。業界にはたっぷりの資本があるからだ。5つの債券とは言わずとも、1つの債券の買い手を見つける点が問題になるとは、考えなかった」

12月初旬の取材時点では、ビットコイン債に対してすでに3億ドル相当の「仮の約束」を取り付けていると、モウ氏は語っていた。ビットコイン債は2022年に予定されたローンチに先駆けて、いまだに磨きをかけている段階だ。「主に、ビットフィネックスの大口顧客だ」と、モウ氏は語った。

大きな潜在的リスク

そのような需要は、エルサルバドルにとっては素晴らしいニュースだが、このプロジェクトの潜在的リスクの1つも浮き彫りにしている。ビットフィネックスは、準備資産について偽の報告をしたり、裏付けられていないトークンを発行したことで非難されている、ドル建てステーブルコイン、テザー(USDT)と密接に関連しているのだ。

エルサルバドルは、疑問の余地のある人工の米ドルではなく、同国経済を回すために必要な本物の米ドルやビットコインと、自国資産を交換するように、目を光らせねばならない。

エルサルバドル国外の規制機関や当局に関しては、ビットフィネックスの役割はそれ以外の理由で懸念を生む。ビットフィネックスは、アンチマネーロンダリング(ALM)や、その他の金融コントロールに関して強力な制度を整備していた実績はなく、不完全な規制しかない場で運営されている。

エルサルバドルは主権国家であり、興味のある人であれば誰にでも自国債券を売る権利があるが、それは理論的には、マネーロンダリングやその他の不法行為に対して、非常に大きな抜け道を残すことになる。

皮肉なことに、ビットフィネックスは公式にはアメリカ人に対してサービスを提供しておらず、ビットコイン債券販売から実質上除外される可能性が最も高い。「調達できるかどうかは、アメリカのブローカー・ディーラー次第だ」と、モウ氏は説明した。

「ビットコイン債は、ビットコインの発明以来、最もビッグなことなのではないかと、私は思っている」と、モウ氏は語り、次の様に続けた。

「大量の資本が、ビットコインベースの金融システムへと流れ込むための道だ。そして課題は、誰がそれを成し遂げるかという点だった。大半の人は追従する人であり、それは国民国家でも同じだ。誰かがするのを見て、成功するのを見て、それで初めて自分で取り組みようになる」

IMF(国際通貨基金)や、その他のレガシープレーヤーの人たちの敵対心の高まりについては、モウ氏は彼らの焦りを感じている。

「間違いなく脅威だと思う。彼らはそれを感じているのだ。しかし、長期的には関係ない」と、モウ氏は話す。「これらの組織は人に痛手を与え、国民国家を属国にしてしまう。しっかりと主権を有していない主権国家については、高いレベルの介入がある。それをIMFなどが受け入れるのは困難だろうが、それに関してできることはないと思う。

ブロックストリームは、この先の課題への対処を進めるのを喜んで手伝うつもりだ。ビットコイン債のデザインは、ブロックストリームのソフトウェア同様、オープンソースになるとモウ氏は説明する。

「ビットコイン債のためにデザインしているあらゆるもの、仕様、経済的側面、法的枠組みなど、人々に喜んで使ってもらいたい」各国がエルサルバドルの例にならい、アメリカのドルシステムから離れていったら、劇的な連鎖反応が起こると、モウ氏は見込んでいる。

「現在、ビットコインはかなり安全で、どんな攻撃に対しても相当のレジリエンスを持つ段階にある。中国がマイニングを停止させた時に、私たちはそれを目の当たりにした。マイニングは移転し、順応する。しかし(ビットコイン債は)巨大な制度に立ち向かっているという点では別次元だ。特別引出権(IMFにある外為準備資産)は、法定通貨が機能しなければ機能しなくなる」とモウ氏は言う。

「エルサルバドルのプログラムにお近づきになるか、時代遅れになるかのどちらかだ。JPモルガン・チェースなどの銀行は、ひざまずいて屈服しなければならない」(モウ氏)

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Behind the Scenes of El Salvador’s Bitcoin Bond With the Man Who Designed It