有名人が登場する暗号資産CMを、盲信すべきではない【オピニオン】

国際的な暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンスは、開催が間近に迫るアメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル(NFL優勝決定戦)」での、有名人による暗号資産広告に対して注意を喚起している。

ソーシャルメディアで公開されている、バイナンスの新しい広告キャンペーンでは、NBAのスター選手、ジミー・バトラー(Jimmy Butler)が聴衆に対し、有名人ではなく「自分自身」を信じ、「自分自身でリサーチをする」よう呼びかけているのだ。

2月13日に開催されるスーパーボウルでは、暗号資産取引所のFTXとクリプトドットコム(Crypto.com)のCMが放映される見込みだ。

有名人を起用して、有名人の持つ影響力に警戒を呼びかけるというやり方は、大いなる皮肉をはらんでいるが、メッセージそのものは、有益に感じられないだろうか?巨額のお金を受け取って、偽の投資アドバイスを与える有名人は、非難されるべきだ。「自分自身でリサーチをする」という原則に、反論するのは難しい。

「自分自身でリサーチする」に潜む危険

しかし残念ながら、リサーチをする「自分自身」が、大いなるバカ者だという大問題が見過ごされている。

なにもあなた個人をバカ者呼ばわりしている訳ではない。あなたはCoinDesk読者なのだから、非常に頭の切れた人に違いないだろう。

しかし統計的には、世間には愚かさが蔓延しており、多くの人が、そこにつけ込もうとしている。多くの詐欺師や犯罪者たちが暗号資産業界に集まってきており、「自分自身でリサーチをする」の精神は、彼らの餌食となるような人たちをリスクにさらしてしまうのだ。

ある統計によれば、平均的なアメリカ人の読み書き能力は、中学1〜2年生相当とされている。そのような人に、暗号資産について「自分自身でリサーチをする」ように言ってしまうと、非常に深く暗い迷宮に迷い込ませてしまうかもしれない。

しかも、運次第というものでもないのだ。とりわけ怪しい暗号資産プロジェクトはしばしば、マーケティングやPRに多くの資金を費やしており、積極的に「自分自身でリサーチをする」人たちの方が、有名人の薦めに従ってNFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)で適当なNFTを買ってしまうような人よりも、詐欺の被害にあう可能性が高い。

そのような状況を作っている要因の1つが、フェイスブックやグーグルなど、データ収集を行う企業だ。「最高の暗号資産投資」を求めてグーグル検索することは、サメの泳ぐ水槽の中に、魚の切り身をつけて自ら潜っていくようなものだ。

例えば、(95%値下がりした)暗号資産のOHMに投資した人は皆、自分でリサーチをしたはずだ。(最高財務責任者が実は、かつて投資家から資金を騙し取った暗号資産取引所の共同創業者であったことが判明した)DeFiプロジェクトのワンダーランドに投資した人も皆、自分でリサーチしたはずだ。

ここ数日のワンダーランドコミュニティを見ていると、買い手たちは資金面で投資をしただけでなく、プロジェクトに思い入れがあったようで、明らかな違法行為の過去が事実であると認められた後にも、カルトのような好意的なサポートが寄せられている。

そのことは、気がかりな類似を思い起こさせる。「自分自身でリサーチをする」という言葉は、Qアノン陰謀論(トランプ元大統領が、政財界に巣食う悪魔崇拝のエリートたちと闘っているとする陰謀論)の精神の中核でもあるのだ。

Qアノンと同じように、暗号資産の世界でも多くの悪者たちが、自分がスマートだと思えるように秘密の情報を握りたい、他の人たちに先駆けて何かを知りたいという人々の欲望につけ込んでいる。

Qアノンにとって、その「秘密」とはでっち上げの児童誘拐組織(それ自体が、実在の児童搾取の捜査を邪魔する悲劇的な結末を生んでいる)だった。暗号資産の場合には、そのような特別な秘密はたいてい、技術的革新を装ったポンジ・スキームだ。

信頼できる情報の欠如

結局のところ、正しい方法で「自分自身でリサーチをする」ことが鍵となるが、暗号資産の世界では、はっきり言ってそれは極めて困難だ。

まず、ブロックチェーンの仕組みを理解するという、知的に大きな困難がある。それは長い道のりであり、プロジェクトが本当に約束していることを実施しているかどうかを見極めたければ、近道はない。

2017〜2018年頃にかけて行われたICO(新規コイン公開)の多くは、ブロックチェーンや暗号資産とは関係ないようなユースケースを売り込むことで、知識の格差につけ込むものであった。

そのようなあからさまな偽りは、最近では少し減ってきているが、悪質なDAO(自律分散型組織)や分散型取引所プロジェクトは、真の意図を、超複雑な仕組みの中に隠している。

このような場面でも、「自分自身でリサーチをする」という原則は問題だ。高いレベルのコード分析のスキルや、暗号資産の世界には存在しない水準の透明性を前提としているからだ。

上場企業の株に投資する場合なら、米証券取引委員会(SEC)などの規制当局のおかげである程度信頼できる、何年分もの会計報告書を簡単にダウンロードできる。それを支えとして、確かに自分でリサーチをすることができるのだ。

そのおかげで、米人気掲示板レディット(Reddit)上の投資コミュニティ「ウォールストリートベッツ(WallStreetBets)」は時に、プロのアナリストが見逃すような何かを見つけることができる。データは幅広く入手可能であり、かなり信頼できるものなのだ。

しかし、透明性を高めようとする取り組みは確かにあるが、暗号資産の世界にはまだ、そのような信頼できるデータは存在しない。創業者に関する情報から、プロジェクトの目指すところ、金融データの一部まで、プロジェクトが自らについて提供している情報は、完全にでっち上げの可能性がある。

悪質なプロジェクトの舞台裏にいる人たちは、そこから生じる結果に責任を取らなければならないような法域は意識的に避けるか、身元を隠している。前述のワンダーランドの騒動で明らかになった通り、可愛らしい偽名でしかプロジェクトチームを知らないとしたら、リサーチはまったくできていなかった、ということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:This Super Bowl, Don’t Trust Celebrity Crypto Endorsements (Don’t Trust Yourself, Either)