UAEでファッションNFTに挑む33才が日本を離れた理由

Web3NFTが国家戦略のなかで重要な位置を占めるなか、日本の規制の厳しさやルールが未整備であることから、人材の海外流出が懸念されている。3月30日には、自民党デジタル社会推進本部NFT政策検討PTが「NFTホワイトペーパー(案)」をとりまとめ、ルール整備を急ぐ考えを示した。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

ファッションNFTのジョイファ(Joyfa)を率いる平手宏志朗CEOは、日本を出た経営者の1人だ。現在、33歳の平手CEOは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイから車で約1時間、ペルシャ湾に面した町に移り住んで、メタバースとファッションをつなぐ技術を開発している。

ジョイファは近く、NFT事業に関連したガバナンストークンの発行を計画。デジタルスニーカーに特化して、世界に向けたスニーカーコレクターのコミュニティを作り上げる。ジョイファの軌跡とビジネス環境における日本政府への期待を、平手CEOに聞いた。

ガバナンストークン:分散型システムにおける投票権を表す暗号資産。トークン保有者は、コミュニティの意思決定に関与できる。中央集権的なシステムと対比的に、ユーザーが運営に関与できることが特徴だ。

ファッションNFTの可能性

幼少期を愛知県東浦町で過ごした平手氏は、田んぼの多い田舎町で、カブトムシやクワガタを集めながら育ったという。当時を、「あまり周りに合わせたがらない性格」と振り返り、「起業は孤独なことも多く、その頃の経験が生きているのかな」と笑う。

アメリカの大学を卒業後、ベンチャー企業で新規事業の立ち上げを担ってきた平手氏。ジョージ・ワシントン大学国際関係学部に通い、暗号資産(仮想通貨)を用いた「新しい経済のかたち」に興味を持ち、2017年にブロックチェーン業界に入った。

2020年、国内でも取引されているエンジンコイン(ENJ)を手掛けるEnjinに入社。平手氏は、「NFT×エンターテイメント」のエコシステムを開発するなかで、暗号資産の上場や国内外の企業との事業提携を推進してきた。

「ブームが来る前から、NFTに可能性を感じていた」と話し、「次はファッション市場が大きくなると感じた」。ファッションの専門学校に入学し、体系的な知識を学んだ後に、2021年5月にジョイファを創業。デジタルファッションハウスとして事業を始めた。

ジョイファは、写実的なデジタル上のファッションを、最先端のCG技術を用いて製作。イーサリアム上で発行・販売する。NFT保有者は、AR技術を用いてアプリ上での着用や展示が行える。

デジタルファッションの制作では、服飾衣服の知識を前提としながら、3D制作のノウハウが必要とされる。写真とデジタルファッションをいかに合成させるかなど、試行錯誤を続けてきた。

東京オリンピックの開会式のドレスを手掛けた「TOMO KOIZUMI」とも協業。バーチャルドレスNFTでは、鮮やかな色彩を再現し、メタバース上のファッションの可能性を感じさせた。

(Joyfaが製作を手掛けたデジタルドレス/コインチェック発表文より)

コインチェックを通じて、2月に発売された「TOMO KOIZUMI」のデジタルドレスNFT6点は、販売価格が100万円以上だったにも関わらず、即日完売した。

デジタルスニーカーに軸足

これまでドレスなどのファッション分野に注力してきたジョイファだが、今後はデジタルスニーカーをメインに事業展開する。対応言語は、英語と日本語で、将来的には中国語も追加する予定だ。スニーカーNFTでは、「RTFKT」が有名。2021年12月には、ナイキが買収したことが大きな話題となった。

2月8日、独自デジタルスニーカーブランド「Diamond Walk」のNFT販売をスタート。NFT所有者は、ジョイファが近く公開するアプリ内で着用・展示ができる。また、Diamond Walkに関連したエアドロップに参加できる。

(独自デジタルスニーカーブランド「Diamond Walk」のイメージ/ジョイファ提供)

NFTについて「デジタル上のアイテムにより“所有感”をもたらす技術だと捉えている」と説明する平手氏。「ファッションアイテムのなかで、コレクション市場が最も成り立っている」と、スニーカーにフォーカスする理由を説明する。

ブロックチェーン基盤には、イーサリアムとポリゴン(Polygon)を採用。将来的には、NFTとして保有するデジタルスニーカーを、現実のスニーカーに交換できるサービスも予定している。デジタル空間とリアルを行き来できるサービスが実現されそうだ。

税制で日本を出る決断

平手氏は、「当初は日本で法人を設立したが、事業を進めていくことが困難だと判断した」と説明する。これまでも業界内で議論されている、含み益に対する課税の問題だ。

ガバナンストークンをはじめとした暗号資産を発行した後、手元の現金が少ない状態にも関わらず、それを遥かに上回る税金が発生する。また、発行した暗号資産を、日本国内の取引所に上場させ、一般の国内ユーザーが購入できるようになるには、長い日数と費用がかかると、平手氏は話す。

「ドバイやシンガポールといった暗号資産の事業環境が整っている国では、ハンデを背負わずに事業展開できる」という。

サンドボックスや特区の導入を

「海外に移住して、日本の生活環境の素晴らしさを改めて痛感している。環境さえ整えば、日本に戻りたい」という平手氏は、日本の政治に対して柔軟な対応を要望した。

具体的には、規制のサンドボックスや経済特区を設けて欲しいという。Web3に関して評価益に対する税を課さないことや、法律面での暗号資産発行に係る規制を緩和することを求めた。

世界が日本をどう評価しているかという質問に対しては、「日本のカルチャーに対するリスペクトが非常に高い。日本人のメンバーがいないのにもかかわらず、日本語を用いるプロジェクト名も相当数ある。SNSのプロフィール画像にアニメやイラストを使用している人も一定数いる」と答えた。

平手氏は、日本においても規制改革の進展が見られることに触れ、「Web3は、日本のコンテンツを世界に広める上で、またとないチャンスだ」と期待を込める。

|取材・テキスト:菊池友信
|編集:佐藤茂
|トップ画像:ジョイファの平手CEO