コインベースの決算から分かる3つの戦略:北米市場を読み解く

北米で最大規模の暗号資産(仮想通貨)取引サービスを手がけるコインベース(Coinbase)は今週、減収減益となる第1四半期の決算報告書を開示した。年初からの市場環境を考えると、ノーサプライズの決算とも言えるが、報告書からはコインベースが仕かける中期的な事業戦略における3つの核が見えてくる。

インフレと、2月下旬に勃発したウクライナ戦争によるエネルギー・穀物価格の高騰を背景に、リスクアセットから多くの資金が引き揚げられる動きが見られる中、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を中心とする暗号資産の価格は停滞。そして、下落トレンドに入った。

ビットコインは昨年11月から今年1月にかけて大きく値を下げ、その後の2カ月はレンジ取引が続いた。

インフレ、ウクライナで激変した資金の流れ

(2021年5月~2022年5月までのビットコインの価格チャート/CoinDesk)

ボラティリティの低さは、市場全体の取引ボリュームの減退につながり、コインベースの月間取引ユーザー(Monthly Transacting Users)数は1~3月期で920万人。昨年10~12月期の1140万人から減少。取引量は3090億ドル(約40.3兆円)で、前四半期の5470億ドルから大きく後退した。

Q1(1~3月期)の純収益にあたるNet Revenueは、11.65億ドルで、前四半期の24.9億ドルから半減。取引利益の減少と投資コストが重石となり、利益指標のEBITDAは昨年Q4の12億ドルから2000万ドルまで落ち込んだ。結果的に、コインベースは4.3億ドルの純損失を計上した。

EBITDA:Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益のこと。

(コインベース2022年Q1決算の主な財務指標/コインベースの報告書より)

①ステーキングは顧客維持を高める

市場環境が悪化し、収益力が低下するなか、コインベースは中期的な成長を促すための施策を講じている。その1つが、個人投資家向けのステーキングサービスだ。

ステーキングとは、端的に言えば、ブロックチェーンの運用を支えるために、そのブロックチェーンのネイティブトークンをネットワークに預け入れること。例えば、より優れたメカニズムに移行しようとしているイーサリアムブロックチェーンの開発においては、このステーキングの仕組みが不可欠だ。

(暗号資産価格のボラティリティ「青色」とコインベースにおける総取引量「灰色」のグラフ/コインベースの決算報告書より)

ユーザーは保有するトークンを取引所を通じてステーキング(預け入れる)することで、一定の報酬を受け取ることができる。

決算報告書によると、コインベースの月間取引ユーザーの5割にあたる約580万人がQ1期間中に、ステーキングなどの報酬が得られるサービスを利用した。前四半期で、同サービスを利用したユーザー数は360万人だった。

さらにコインベースはQ1に、カルダノ(ADA)のステーキングサービスを開始。ステーキングを行う個人トレーダーは通常、現物取引のみを行うユーザーに比べて、取引所のサービスを使い続ける傾向にあると、同社は説明している。

②機関投資家が参入しやすい取引所作り

コインベースは以前から、企業や機関投資家が参入しやすい基盤整備に注力している。今回の決算報告書でも、例えば、流動性プールを拡大して、機関投資家が大口取引を行うことのできる市場(取引所)を準備していと強調した。

昨年Q4から今年Q1にかけて、コインベースを利用する機関投資家顧客の数は増加したと、報告書で述べている。

具体的には、アラメダ(Alameda)やインベスコ(Invesco)、GSAキャピタル、ミレニアム・グローバル(Millennium Global)、シルバーゲート(Silvergate)を含む企業との関係を深化させたとしている。

③Coinbase Payと決済の課題

(Coinbase NFTのHPトップ画面)

現時点で、暗号資産と法定通貨をつなぐ決済ツールは、不完全と言わざるを得ない。北米の暗号資産界では特に、シンプルで使いやすい決済ツールの必要性を唱える関係者は多い。

そこでコインベースがローンチしたのが、コインベース・ペイ(Coinbase Pay)だ。あらゆる暗号資産ウォレットやdApps(ブロックチェーン上の分散型アプリケーション)と、法定通貨のレイルをつなげるサービスである。

これは、同社が4月に始めたNFT取引サービス「Coinbase NFT」や、Chrome拡張機能の「Coinbase Wallet」の拡大につながる決済ツールとなる。

実際、暗号資産取引所で口座を開いて、法定通貨を特定の暗号資産に換え、さらに外部ウォレットに資産を送信してNFTをマーケットプレイスで購入するプロセスは、多くの暗号資産ネイティブユーザーにとってもシンプルとは言い難い。

「我々のゴールは、コインベースのネットワークをフル活用しながら、Web3の世界で取引決済の複雑性をなくすことだ」(同報告書)

以上の3つの戦略に加えて、コインベースは取り扱う暗号資産を継続的に増加させている。Q1では、ソラナ・ブロックチェーン上で展開しているアプリケーションの2つのトークン、「ORCA」と「FIDA」の取り扱いを開始。今後、ソラナチェーンにおけるトークンの上場を増やしていくとしている。

個人投資家の取引が依然として収益の柱

Q1において、コインベースの11.65億ドルの純収益のうち、10.1億ドルは取引収益で、その9割以上が個人投資家の取引によるものだ。同社は、個人投資家の取引収益を9.66億ドルと計上しているが、前四半期の21.9億ドルから半減した。

アメリカの金融政策が緩和から引き締めに転じ、ウクライナ戦争によるコモディティ価格の上昇圧力はインフレを後押しする。結果的に景気後退に対する懸念が強まるまま、すでに4~6月期(Q2)の半ばを迎えた。

直近、暗号資産取引所を運営する企業にとって、収益面でプラスになるような材料を見つけることは難しい状況かもしれない。

|決算分析・編集:佐藤茂
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