ダボス会議、暗号資産はもはやアウトサイダーではない:現地レポート

ダボスでは電車の中も暗号資産で溢れていた。

世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆる「ダボス会議」が22日〜26日の日程で開催されている。毎年1月に開催されていたが、2021年はキャンセルされ、今年は延期されていた。暗号資産(仮想通貨)支持派は22日、ビットコインピザの屋台が登場したパーティーを開き、メインストリートの「プロムナーデ」には派手な広告を掲げた各社のパビリオンが並んでいる。

ダボス会議の参加者たちは、チューリッヒの空港やダボスの駅で、ステーブルコインを手がける米サークル(Circle)や暗号資産ブローカーのビットコイン・スイス(Bitcoin Suisse)の広告に囲まれた。通りを歩く人たちは、柴犬コイン(SHIB)やカルダノ(ADAS)を持っていると話していた。日が暮れると、そうした人たちは予約したAirBnBに向かった。

「5年前、我々は出展した唯一の暗号資産会社だった」と、グローバル・ブロックチェーン・ビジネス・カウンシル(GBBC)のCEO、サンドラ・ロ(Sandra Ro)氏は「The Sanctuary」と呼ばれる地元教会でのキックオフ・パーティーで語り、「今の様子を見てほしい」と付け加えた。

ビットコインピザの屋台(CoinDesk)

おそらく、WEF自体が業界関係者をキープレーヤーとして招き、デジタルマネーについて真剣に議論しているという事実以上に、ダボス会議に暗号資産業界がやってきたことを告げるものはないだろう。

サークル・ペイ(Circle Pay)会長兼CEOのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏とRipple(リップル)CEOのブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏は23日、WEFメディアビレッジの壇上に並んで座り、送金とデジタルマネーについて議論した。

「Remittances for Recovery: A New Era of Digital Money」(復興に向けた送金:デジタルマネーの新時代)と題された討論会には、バングラデシュの開発型NGO、BRACのエグゼクティブ・ディレクター、アシフ・サレー(Asif Saleh)氏も参加した。

その他、世界経済、アメリカ経済、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の未来についての討論会も開催された。ダボス会議に参加した世界のリーダーたちは暗号資産を受け入れているとはまだ言えないが、無視はしていないようだ。

暗号資産があちらこちらで議論に

ナスダック(Nasdaq)CEOのアデナ・フリードマン(Adena Friedman)氏、ペイパルCEOのダン・シュルマン(Dan Schulman)氏、パット・トゥーミー(Pat Toomey)米上院議員、エコノミストのジェイソン・ファーマン(Jason Furman)氏による討論会は、アメリカ経済の未来に焦点をあてるはずだったが、暗号資産についての議論が繰り広げられた。

ハーバード大学の経済学教授であるファーマン氏は「世界中の多くの国にとって、中央銀行デジタル通貨(CBDC)は合理的かもしれないが、アメリカに必要とは思わない」と述べた。

司会を務めたニューヨーク・タイムズの副編集長レベッカ・ブルーメンスタイン(Rebecca Blumenstein)氏が懸命に制止したにもかかわらず、パネリストは皆、すぐにステーブルコインなどについての意見を熱心に語り始めた。

トゥーミー上院議員は、自身が提出したステーブルコイン規制法案に触れ、民間のステーブルコインが人気を集めるなかでのCBDCの役割を問うた。

Casper LabsのBlockchain Hub(CoinDesk)

「民間発行のステーブルコインが成功するような合理的な枠組みを持つべきだと考えている。そうなれば、デジタルドルにどれほどの必要性があるかはわからない」(トゥーミー上院議員)

世界経済に焦点を当てた討論会でも、ビットコインをはじめとする暗号資産が取り上げられた。

「若い世代は、上の世代がドルや他の通貨の価値を下げたと言っている。新しいものもそれほど悪くないのかもしれない」と投資会社カーライル・グループの共同創業者デビッド・M・ルーベンスタイン(David M. Rubenstein)氏は、経済成長の鈍化と制裁措置の影響を受けた世界経済の将来についての討論会で語った。

暗号資産をテーマにした討論会

暗号資産をテーマにした討論会では、さらに深い議論が交わされた。

リップルのガーリングハウス氏とサークルのアレール氏は、広く金融の将来と、暗号資産における規制の明確化の緊急性についてコメントした。

ステーブルコインのUSDコイン(USDC)の発行を手がけるアレール氏によると、今は国境を越える決済という概念は、国境を越える電子メールという概念と同じくらい「バカバカしく聞こえる」ようになっているという。

「国境を越える電子メールなど考えもしない。国境を越えるウェブブラウジングなど、考えるだけでもバカげている。そして私は、マネーでも同じようになる手前まで来ていると考えている。送金に関しても、送金という概念はなくなると思う」(アレール氏)

ダボス会議での討論会(CoinDesk)

リップルのガーリングハウス氏は、政府が金融システムをコントロールしていると警告し、自分が生きている間にそれが変わる可能性は低いだろうと述べた。

「私が思うに、規制当局に「我々に適応する必要がある」とアプローチすると、それが実現することはない」(ガーリングハウス氏)

来年への期待

暗号資産における規制の確実性の欠如についての質問に対して、ガーリングハウス氏は、規制の明確化は解決すべき問題であり、アメリカは暗号資産の明確なルール策定が遅れていると付け加えた。

「アメリカは避けた方がいいと思う。不利で不確実な要素がある。日本やシンガポールには明確な規制があり、ここスイスで明確さと確実さのもと、グローバルに投資することもでき、イノベーションを促進できる。同様に送金も簡単になる」(ガーリングハウス氏)

2008年からダボス会議に参加しているアレール氏は、暗号資産はダボス会議において新たな地平に達し、来年への期待がすでに高まっていると語った。

アレール氏は、1年後、暗号資産業界が人々のために機能するソリューション例を持って会議に参加できることを望んでいると述べて、討論会を締めくくった。

中央銀行や金融規制当局がデジタル資産のアイデアに夢中になっているわけではない。

ダボス会議のメインステージで、国際通貨基金(IMF)の専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバ(Kristalina Georgieva)氏は、ビットコインのような暗号資産はマネー(お金)ではなく、アセット(資産)と述べた。

「マネーになるものの前提条件は、安定した価値保存の手段であること」(ゲオルギエバ氏)

同氏はクレディ・スイスの会長、タイ中央銀行総裁、フランス中央銀行総裁とともに、CBDCについて議論した。

中央銀行のための中央銀行とも呼ばれる国際決済銀行(BIS)の最近のレポートによると、世界中の中央銀行の90%がCBDCの設計と発行を検討している。

討論会場の外では

討論会が開催される会議場に続くメインストリート「プロムナーデ(Promenade」は、暗号資産関連企業で占められている。22日、ウェルカム・パーティーを開催し、多くの人を集めたファイルコイン(Filecoin)は、会議場近くの良い位置に出展し、数百フィート離れた場所にはサークルも出展している。

プロムナードに出展したサークル(CoinDesk)

ほかには、ポルカドット(Polkadot)、GBBC、Casper Labsなども出展し、独自のプログラムを開催している。そして皆、巨大な広告を掲げている。

ポルカドットの巨大広告(CoinDesk)

「以前とは違い、今はブランディングが中心」とCrypto Council for InnovationのCEO、シェイラ・ウォーレン(Sheila Warren)氏は述べた。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:リップルのガーリングハウス氏とサークルのアレール氏(写真:CoinDesk)
|原文:At Davos, Crypto Is No Longer on the Outside