パーティ三昧のNFT NYCとはいったい何だったのか

ニューヨーク、マンハッタンのソーホー地区。忙しい月曜日の午後に、デモ参加者たちがプラカードを掲げ、グランド・ストリートをスローガンを唱えながら行進していた。

「神はNFTを嫌悪する」と書かれたプラカードがちらほら。他にも、「ヴィタリックは反キリスト的だ」や、「アンチ-メタマスク」と書かれたものもあった。

攻撃的なデモで悪名の高いウエストボロ・バプティスト教会のようなスタイルのこのデモの動画は、ツイッター上で瞬く間に拡散した。世界最大規模のNFTイベント「NFT.NYC 2022」を前に、人々は徐々に新しいNFT発行のためのマーケティング戦略であることを理解するようになっていった。

このデモが本物であった可能性があるという事実、本物ではないと少しの間理解されなかったという事実は、今回のNFTイベントの参加者の多くがウェブ3の現状についてどのように感じているかを象徴していた。NFTの世界で何が起こっているのか、もう誰にもわからなくなっている。

イベント期間中の曖昧な雰囲気の一因は、NFT業界の大半を支えるイーサ(ETH)にもある。イーサ価格は先週、1000ドルまで下落。NFT保有者の大半は、イーサが史上最高値の4812ドルを記録した前回のNFT.NYCの時に比べて、はるかに貧しくなってしまったのだ。

それでも今回のイベントは、決行された。航空券や会場の予約も済んでいるし、バーの準備も完了していたのだから。暗号資産の価格を抜きにすれば、大半の参加者は昨年11月のイベント時と同じくらい、楽しむ準備ができていた。

迫り来るBUIDLシーズン(開発に専念する時期)を前に、最後のパーティーを満喫しようとするかのように。

登壇者は1500人

ここ1年間のNFTカンファレンスのトレンドは、しっかりと記録されている。プログラムの質は悪化し、パーティーの質は向上。お金はさらに注ぎ込まれるようになっていた。

今年のNFT.NYCは、行き過ぎの感があった。注目されたのは、予定された登壇者数、1500人。もちろん問題は、NFTについて聞くに値する話をできる人たちが、全世界に1500人もいるはずはないということだ。そんな人はまったく存在しないと言う人もいるだろう。

「今年のプログラムはひどいものだ。パネリストたちは、何の話をしているか自分でわかっていない。もう2度と参加しない」と、アフターパーティー参加者の1人が、列に並ぶ別の人につぶやくのが聞こえた。「討論会があったのか?」と、話しかけられた人は答えた。

参加者数は見込み通りだった。業界からの参加者と、宣伝のための盛り上がりのずれは、普段以上に目立っていた。

タイムズ・スクエアを彩った暗号資産売買プラットフォーム「ムーンペイ(MoonPay)」の広告は、パフォーマンスアートのように壮大だった。開発者たちは開発について語り合い、オンランプを手がける人たちは、オンランプについて議論した。色鮮やかで、巨大なロゴがプリントされたNFTをテーマにした洋服を、たくさんの人が着ていた。

パーティー三昧

NFT.NYC期間中は、常にパーティーが目玉となっていた。それは今回も変わらない。昨年の秋に開かれた前回のイベント時も、豪華なサイドイベントが要となっていたが、今回はさらに充実していたと言っても良いだろう。

中でも、プロフィール画像NFTコレクションが手がけるイベントが、人気をさらった。「Moonbird」保有者たちは、奇術師デビッド・ブレインが口を針で縫い付けるパフォーマンスを目撃。

「Pudgy Penguin」や「Cool Cats」の保有者は、たくさんのグッズを抱えて、トークン保有者限定のパーティーを楽しんだ。

NFT「Doodles」のイベントでは、人気アーティストのファレル・ウィリアムス氏が、新しいブランド責任者に就任することを発表。5月以来、保有するNFTの価値が5万ドルも下落するのを目の当たりにしてきた会場一杯の保有者たちから、大喝采を受けた。

「金持ちにしてくれ!金持ちにしてくれ!」と、酔っ払ったDoodles保有者が叫ぶと、他の聴衆もうなずかずにはいられなかった。

おそらく現在最も人気のプロジェクト「Goblintown」も、活発な動きを見せていた。チェルシーマーケットで開かれたシークレットアフターパーティーには、多くの仮装した参加者が集まった。

人気NFTアーティストBeepleも参加し、ダンスフロアを駆け回り、パーティーの最後には、DJがステージ前に飛び出し、その正体がスティーヴ・アオキ氏であったことが判明。ダンスフロアには、この日のために特別に用意されたMcGoblinバーガーの匂いが漂っていた。

イベント期間中、最も大きかったパーティーは「ApeFest」。人気NFT「Bored Ape Yacht Club」を手がけるユガ・ラボ(Yuga Labs)が主催した、NFT.NYCとは別だが、同期間に行われたフェスティバルだ。

「ApeFestは素晴らしかった」と、昨年10月に「Mutant Ape Yacht Club」のNFTを購入した73歳のトムは語り、「私に言わせれば、人生は駆け足で生きなければ。NFTカンファレンスに参加するのはこれで2回目。最高の時間を過ごしているよ」と続けた。

人気イベント会場のピア17のステージには、エミネム、スヌープ・ドッグ、LCDサウンドシステムなど、豪華なメンバーが登場。人気コメディアンのエイミー・シューマー氏も登場し、イベントの非公式ソングとなっていたティックトックで大人気のNFTソングを題材にしたジョークで聴衆を楽しませた。

22日の夜には、NFTマーケットプレース「マジック・エデン(Magic Eden)」が、1億3000万ドルの資金を調達したばかりのソラナのファンたち向けにヨットパーティーを開催。次の日には、ピア17から数ブロック先の会場で、NFT「World of Women」保有者に向けて、マドンナがパフォーマンスを披露した。

NFTコミュニティの懐具合は厳しいかもしれないが、イベント期間中には、プロジェクト創設者たちは、問題なくやっていることが証明された。

意味するところ

ウェブ3とは何なのか?NFTの価値が長期的に何になるのか?ますますわからなくなってきている。私は、様々な人気NFTを保有する人たちの集まりを歩き回ってみて、NFT価格が急落する中でも、保有したことを後悔する人は1人も見つけられなかった。

「私たちはかつて貧しく、それから裕福になり、そしてまた貧しくなった」と、「Cool Cats」の保有者は語った。「それでも私たちは、まだここにいる」と。

創業者たちがリッチなままでいることは、大半の参加者にとって、亀裂を生じさせるものというよりは、現実を認識させてくれるものだった。

弱気相場の最中にヨットパーティーというのは場違いではないか?!関連グッズは究極のNFTの用途ではないかもしれない。こんな感想以外に、独自の批評をする人たちはほとんどいなかったのだ。

真の実用性かどうかは別として、関連グッズストアというのは、NFT業界が普及を目指す上で狙い目となるかもしれない。「Cool Cats」やLinksDAOはネットショップサービスを手がけるショッピファイ(Shopify)と連携し、メンバーに高額のシャツなどを販売した。

ショッピファイは、トークン保有者限定オプション機能の追加を発表し、NFTの「実用性」の議論の中で話題となった。

皮肉なことに、イーサ価格暴落によって、NFT業界は長年思い描いてきたバージョンへと転換することになった可能性もある。価格が暴落する中残されているのは、アートやコミュニティ、帰属意識など、創業者たちが最も大切だと言ってきた要素だけなのだから。

残されたものが持ち堪えるかもしれないし、進化するかもしれない。あるいは、消え失せる可能性もある。今のところ、みんなイベントでもらえる無料のドリンクを楽しめるだけで、満足しているようだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:NFTコレクション「Goblintown」のパーティー(CoinDesk)
|原文:‘We’re Poor Again, but We’re Still Here’: Why NFT.NYC Won’t Die