取引の検閲問題に揺れるイーサリアム開発者たち

イーサリアムの次なる段階にとって非常に重要なソフトウェア「MEV-Boost」を手がける開発者チームのフラッシュボッツ(Flashbots)は、イーサリアムコミュニティが取引検閲のリスクを懸念する中、コードのオープンソース化を加速させることを決断した。

これは、米財務省外国資産管理局(OFAC)が、取引を匿名化するためのミキシングサービス、トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)がマネーロンダリングを促したとして、アメリカ人が同サービスを利用することを禁止したのを受けての決断だ。

この問題をめぐっては、トルネードのコード作成に携わったアレクセイ・ペルテセフ(Alexey Pertsev)氏の逮捕という事態にまで発展している。

取引の検閲

MEV-Boostは、9月にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行を実施する「Merge(マージ)」が行われた時に、トランザクションのブロックを作成する「ビルダー」と、ブロックをより広範なネットワークへと広める「プロポーザー」を分ける、任意で使えるソフトウェアだ。

フラッシュボッツは、このソフトウェアによって、イーサリアムのPoSネットワークで取引を処理するバリデーターが、MEV(最大抽出可能価値:Meximal Extractable Value)をより簡単に抽出できるようになると語っている。MEVとは、特定のブロックに追加する取引を戦略的に選ぶことで、バリデーターが稼ぐことのできる追加の報酬のことだ。

今月、ラッシュボッツは、ビルダーからプロポーザーへと構築前のブロックを渡す時に使うデフォルトの「リレー」を検閲すると認め、論争を巻き起こした。OFACの制裁に従うために、フラッシュボッツのリレーでは、トルネード・キャッシュと関連するアドレスや、その他のOFAC制裁対象となっているアドレスに関わる取引を除外するのだ。

コミュニティからの反発を受けて、フラッシュボッツは計画よりも早く、リレーのコードが開発者たちの手に渡るようにすると発表。そうすることで、フラッシュボッツ独自のデフォルトのリレーではなく、第三者のリレーを、今年の秋にMEV-Boostと同時にローンチしやすくする。

フラッシュボッツのデフォルトのリレーはOFACの制裁を遵守したものになるが、第三者のリレーの方は、好きなように制裁対象のアドレスを扱うことができるようになる。

イーサリアムコミュニティの反応

イーサリアム開発者やコミュニティ全体として、ネットワーク検閲にどのように対処するかが、先週開かれたイーサリアムの中核開発者たちのミーティングにおいて、重要な論点となっていた。

現在のPoWチェーンのマイナーの一部はすでに、制裁を遵守しない取引を除外し始めているようだ。

「イーサリアム最大のマイナーEthermineが、1週間以上前から、トルネードを中継した取引を含めるのを停止している」

イーサリアム分散型アプリ(Dapp)に特化したサポートサービスServ.eth Supportの創業者マイカ・ゾルトゥ(Micah Zoltu)氏が、ミーティングで検閲の議論のまとめ役を務めた。

ゾルトゥ氏はCoinDeskの取材に対し、取引を検閲するというフラッシュボッツの決断は、他のリレー提供業者の注意を喚起することになったと語った。ゾルトゥ氏は、リレー提供業者の大半が、検閲フリーのリレーオプションを提供するとみており、バリデーターも検閲されていないリレーの方を好むと考えている。

ゾルトゥ氏によれば、例えばDeFi企業のbloXrouteは、3つのリレーを提供する。検閲しないものが2つ、OFACの制裁対象となったアドレスを検閲するものが1つだ。bloXrouteでは、どのリレーを選ぶかを、バリデーターに任せることになる。

開発者ミーティングの場では、イーサリアムの中核的開発者の多くが、取引検閲に向かう動きに声高に反対を表明した。

ルカス・ロズメジュ(Lukasz Rozmej)氏は、イーサリアムが検閲を可能にするコードを作れば、イーサリアム開発者はプロトコル上での検閲の「執行者」となってしまうが、開発者たちはそんな役割を担うことを望まないと語った。

イーサリアム財団のリサーチャー、ダンクラッド・ファイスト(Dankrad Feist)氏は、イーサリアム開発者たちは、検閲耐性という性質について譲らない姿勢を貫くべきだと主張した。

しかし、Mergeを前にして、検閲に対処するために開発者が何をするべきか、明確な計画を持っている人はいなかった。

唯一はっきりしていたのは、これが長い議論の始まりに過ぎないということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:As Censorship on Ethereum Begins, Could This Open-Sourced Code Help Counter It?