暗号資産と自然回帰【オピニオン】

アメリカ大陸(北米、中米、南米)には先住民の市民社会が栄えていた。これらのコミュニティは、独自のガバナンス構造を持っており、固有の所有権や精神科学、コミュニティを超えたコミュニケーションの形態も存在していた。

先住民の社会はある程度、暗号資産の世界で生まれている「分散型取引所グリッド」のようなものに似ている。これは、大規模な生産性と取引を促進するために内的インセンティブを使う文化・経済システムである。

結束の固い先住民コミュニティには、製造のための局地的なサプライチェーンもあり、より幅広い多様な栄養素へのアクセスを支えていた。彼らの結束は、地元の動植物との直接的な交流を基盤にした何世紀にもわたる霊的な信仰が支えていたのだ。

これらは事実上、最も有機的に「バイオミメティクス的(自然を模倣する)」なものであった。これらの社会はその存在の性質ゆえに、周辺の環境に深く組み込まれていた。周辺の生態系、局地的な植物の多様性、新鮮な水資源の清潔さを維持するための、安定した慣行が構築されていったのだ。

このように局地的に生まれた経済や伝統的信念体系は時間とともに、精神的な結束で維持される一方、新しく施行された連邦法が、栄えていた先住民の社会から土地や経済、信念体系の基盤となっていた習慣を奪っていった。

時は移って現在、そのような終わることのない入植者的慣習のために、私たちは世界的に行き詰まりを迎えている。本来の生態系は破壊され、盗まれた先住民の土地に暮らしてきた移住者たちは、持続可能な形で生態系を世話する方法がまったく分からないまま、取り残されているのだ。

連邦・州政府は崩壊しつつある自然資源を守るために、お役所仕事や計画的な社会経済的罠に埋もれてしまった先住民の知識を借りる代わりに、科学者の助けを借りつつ、法律に頼らざるを得なくなっている。

ありがたいことに、暗号資産経済システムがこの問題に解決策を提供してくれる。巧みに配備、活用すれば、持続可能な形で調達を行い、地元の環境に関する知識を維持できるようなコミュニティや部族をデジタルに再現することで、生態系や自然の破壊を抑えるための手段となるのだ。私たちの間違いを正し、少なくとも何世代も先の子孫たちの生存を確保できるような形で。

将来を見据えた暗号資産経済の配備

パブリックブロックチェーンシステムの誕生と、斬新なスマートコントラクトという形での暗号資産経済ゲーム構造の配備によって、人類を連係させる経済実験が爆発的な勢いで登場している。

複雑なシステムに対する共同の業界リサーチが進化する中、バイオミミクリ(生物模倣)が、この先に進むための正しい方法だというコンセンサスに、私たちは達したようだ。

適切な生物学的構造と自然システムのトポロジーを得たという点で、生命は素晴らしく有利なスタートを切っている。さらに、私たちの方がよく分かっているフリをしないためにも、過去の物理システムを構築した社会工学者たちの功績も認める必要がある。

そうすれば、これらの新しいテクノロジーを、古い文化とよりクリエイティブな形で融合し、はるかにユニークな何かを作り出せるかもしれない。自然を全体として受け入れることで、機械的なやり方に美しさを取り戻すことすらできるかもしれないのだ。

ルーツに水やりをする

自然なサステナビリティのプロセスの必要性と、暗号資産においてプログラム可能な希少性を可能にする経済プリミティブ(暗号資産をベースにした経済的な基本構成要素)の必要性を比べてみると、そこには類似性が存在している。

私たちの課題は、業界にすでにあるものの中でチャンスを見つけ、インセンティブの調整が必要な分野のガバナンスと調整のニーズに基づいて、使う必要のあるツールを分かりやすく適切に組み合わせることだけだ。

高可用性と耐障害性

インセンティブのデジタル分散型システム(パブリックブロッックチェーンとその他の付随的プロトコル)の助けを借りてツールを作り上げ、配備するということは、障害を許容する必要があり、可用性が高い必要もあることを認識するということだ。

本質的に冗長でレジリエントなシステムの配備に取り組む場合、そのシステムがアクティブにオンライン活用する参加者にとって、アクセス可能なものであり続けるようにしなければならない。自然が人間にとって常に利用できるものであるのと同じように、私たちのデジタルシステムも、自然と同じくらいの確実性を維持できるようにするべきなのだ。

耐障害性を持ったシステムや環境は、サービスが中断されないようにしてくれるが、運用コストはより高くなる(プルーフ・オブ・ワーク/プルーフ・オブ・ステーク。)

一方、可用性の高いシステムはサービスの中断は最小限になる。これがチャンネルの「ライブネス」であり、価値のあるモノがしっかりと提供されるようにしてくれるのだ。

このようなシステムに資産やデジタル資源をステーキングしたり、担保として差し入れることで得られる不労所得を、実世界の参加者と混ぜ合わせると、非常に興味深いことが起こる。

地元の参加者がパブリックブロックチェーンやそれに関連する暗号資産プラットフォームへの貢献に対してデジタルでの価値を獲得できるようなフィードバックシステムを作ることができることが分かってきたのだ。

そうすれば、より土着の植物資産への投資が可能になり、自分達の地域にとって最善の生産や、土壌管理の方法を学んでいくにつれて、人々は栄養素をより自給できるようになる。

シェアクロッピングの権利をデジタル化し、農産物の先物取引でコールオプションを作り出せるクリエイティブな力によって、社会経済的に混乱のある部分の中でもとりわけ到達しにくい分野に、価値や将来的な価値を注入する方法のアイディアは無限に生まれてきそうだ。

これらの新しいシステムが確立するにつれ、労働は徐々に自動化され、より簡単に分析できるものになるだろう。さらに、地元で手に入る栄養素が自給でき、害虫や細菌による病菌の抑制にもつながるというおまけもついてくる。

先住民の知識を活用することで、文化的遺産も維持することができる。在来の種子から、土壌を守る適切な灌漑・収穫技術まで、これまでにないほどにそのような知識を大切にすることができるのだ。

非普遍的な都市という未来

あらゆる工業製品や地元の農産物、コモディティの価値が、公に検証可能な暗号資産システム上でデジタルに表現されたコピーを持つようになった未来を想像してみて欲しい。地元の主権を保護、維持するために行動が必要な場所が、世界のどこにあるのかがひと目で分かるのだ。

法律的に守ることの可能なノン・ファンジブル循環経済の道を開くMattereumや、グリーンエネルギー生産、マイクログリッドの分野で同じことをしているDexDridなどの取り組みがすでに存在している。この新しいエコノミーにおいては勝者は1人ではなく、代替可能で補完的な勝者が多く生まれるだろう。

多くの多様な耐障害性を持ったデジタルシステムと物理的システムを活用する非普遍的なアーキテクチャの力によって、次のようなものが実現する。

  • 表現の可能性がよりリッチになる新しいパブリックブロックチェーン
  • 実用性に特化した資産と、実用性に特化した他のチェーンとの間に簡単に橋をかけ、資産依存的ではなく、代わりのプロトコルも受け入れる汎用のユースケースを生み出すことができる。技術的な相互運用性から生まれる自然のモジュール性は、未来に向けた最善の道である。
  • 流動性ルーティングや資本のロックアップは資本の効率性を助け、価値の分配におけるさらなる実験を可能にし、それが最も必要とされている分野を助ける。

パーマカルチャーにおける「全システム」的アプローチを、先住民の知識が関わる部分に適用すると、今すぐに活用し始められる包括的なテンプレートを作ることができる。

私たちは社会として、地元の水の供給と質の問題に取り組まない限り、食糧安全保障を確保することはできない。その土地の維持を最も得意とする人たちから土地を奪ってしまうような社会的不正義の問題を解決しなければ、食の民主主義や食品砂漠の解決を実現することはできない。

過去、そして現在の先住民コミュニティにおいては、コミュニティを超えた有益な関係を築く技がすべてであった。皮肉なことにそれらのコミュニティは、モジュール式で自立的なシステムにおける基準を確立しようという時に、サプライチェーンについて現在議論されている最高にユートピア的な理想にも達しているのだ。

インセンティブが大切なことは分かっている。生物学と自然を愛するプロトコルのバスケットを編む仕事に取り組めば良いだけなのだ。コンポーザブル(構成可能)はコンポスタブル(コンポスト可能)に、向こう見ずな流動性ファーマーは、デジタル及び物理的価値の灌漑専門家になるのだ。

適切で再生的な復活のためには、このような未来が必要だ。私たちはただ、目を見開けば良いのである。

スティーブン・マッキー(Steven McKie)氏は、暗号資産投資会社アメンタム・キャピタル(Amentum Capital)の共同創業者。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Taking Crypto Back to Nature