ビットコインのPER(価格収益率)を考える

暗号資産(仮想通貨)というまだまだ新しい資産クラスには、アナリストの私にとっても学ぶことがまだまだたくさんある。特に私が興味を持っていることは、伝統的金融(TradFi)での自らの経験を暗号資産と結びつけることだ。

私はかつて、株式リサーチアナリストだった。専門分野はバリュエーション(企業価値評価)。「正しい」評価を行うことが、何よりも大切だと常々考えており、以下の2つの関連した質問への回答を見つけようとしていた。

  1. 組織の価値は?
  2. その額より高く取引されているのか? 低く取引されているのか?

企業が予測される市場価値よりも安く取引されている場合、「買い」と評価を下す。高く取引されている場合は、率直に言って「売り」の評価をつけるよりは、それに代わる別の企業を見つけていた。そのような決断につながる株式リサーチには多くのダイナミクスが存在しており、また別の機会に記事にするかもしれない。

私はファンダメタルズとテクニカル分析を組み合わせ、絶対的価値と相対的価値のテクニックを両方を活用していた。絶対的評価とは、企業が生み出すキャッシュフローレベルに基づくもの。一方、相対的評価とは、似たような組織、あるいは同じ会社の以前の状態と比較した価値に基づくものだ。

企業と異なり、ビットコイン(BTC)や他の多くの暗号資産は、ファンダメンタルズ分析の基盤となるキャッシュフローを生み出さない。

しかしビットコインは企業ではない。ビットコインは、第三者による検証なしに、あるユーザーから別のユーザーへと価値を移動させることを可能とするピア・ツー・ピアの通貨システムだ。人々はそこに価値を見出しているのだから、評価を試みるべきだ。

ビットコインは供給量に上限があることから、法定通貨の価値低下に対するヘッジや、無能な中央銀行の政策に対するヘッジと考える人もいる。私はそのどちらでもあると思っているし、存続していく資産クラスとして、ある程度の資産を投資している。

ビットコイン版PER

株式の世界では、PER(株価収益率)が、相対的価値の指標として一般的に使われている。もっと優れた評価テクニックもあるが、企業の収益と株価の比率を示す、わかりやすい比較対象となる。

PERの暗号資産バージョンは、ネットワーク価値取引率(Network Value to Transaction:NVT)だ。この指標は、暗号資産アナリストのウィリー・ウー(Willy Woo)氏が考案したもので、時価総額と、ネットワークが移動させた価値(=取引高)の関係を測る。

取引高は収益のようなもので、どれだけのビットコインがあるアドレスから別のアドレスに移動したかを表す。

ビットコインのネットワーク価値取引率(NVT)
出典:Glassnode

私の考えでは、NVTがPERに相当すると考えるには、利用する人はどちらにも何らかの価値があると考えている必要がある。

企業(そしてPER)について言えば、株主は収益に価値を見出す。BTC(そしてNVT)については、暗号資産に価値を保管する能力であり、私はそれをブロックチェーン上のスペースと考えている。そのスペースに対する需要が高まるにつれて、ビットコインの価値も高まる。そこに納得できれば、NVTは分析枠組みに含める価値があるだろう。

NVTが高いことは、投資家がビットコインに高い価値を見出していることを示している。NVTの低さはその逆を示しており、割安で資産を買いたいような投資家にとって、暗号資産が魅力的になるかもしれない。

割高か? 割安か?

しかし、どのくらいの数字が高い、低いにあたるのだろうか? そのような数字はどのような時に出てくるのか? 暗号資産の歴史の短さを考慮すれば、ある時期に割高とされていた数字も、別の時期にはそう捉えられないかもしれない。過去の歴史と比べてどこにあるのか、という点を考慮することにも意味がある。そして、特定の時期だけを見ることにも意味がある。

私が見つけた中で史上最も高いNVTは、2010年8月29日の448.15。これは高過ぎるだろうか?

当時ビットコイン価格は約6セント(約8円)で、現在の価格は約2万2000ドル(約295万円)。比較するには、かなり無理がありそうだ。

2014年以前のデータをすべて無視することにしよう。NVTの最高値は98.52と、より妥当なものになっている。史上最低のNVTは、2016年1月24日の0.22で、当時のビットコイン価格は403ドルだった。対象期間の平均NVTは24だが、この数字にも重要性があると、私は考えている。

ビットコインの現在のNVTは44.89、2014年以降の平均よりも82%高くなっている。しかし、30日、60日、90日平均と比べれば20%低い。

ビットコインブロックチェーンのような新しいテクノロジーや、ビットコインのような新しい資産の平均プレミアムが、時間とともに増していくことは、私からすれば筋が通っている。また、データに示されている通り、高さと低さの両極の間が段々と狭くなっていくことも納得できる。

現在のNVT水準をどう捉えるかは究極的には、何を基準とするかによって変わってくる。ビットコインの歴史全体を見れば、割高と感じるかもしれない。しかし、より狭い期間で見れば、ビットコインは今、魅力的な価格で取引されているかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Sorting Out Bitcoin’s P/E Ratio