JPモルガン:ブロックチェーンが直面する3つの高い壁とは?リードするのはスペイン金融界

JPモルガン:ブロックチェーンが直面する3つの高い壁とは?リードするのはスペイン金融界

Brady Dale
公開日:2019年 3月 9日 09:00
更新日:2019年 3月 11日 00:15

2018年、米金融最大手のJPモルガン・チェース(JPMorgan Chase & Co.)のリサーチチームは、ブロックチェーンには情報の移動や金融取引を簡素化し、高速化する大きな可能性を秘めているが、その真の価値が現在のマネーがつなぐ世界で新潮流を巻き起こすまでには至っていないとまとめた。

2019年1月、JPモルガンはブロックチェーンと仮想通貨に関する最新のリサーチペーパー「ブロックチェーンと仮想通貨:適用とパフォーマンス、そして課題」を発表。同社の見方は2018年のものと同様であると結論づけながら、ブロックチェーンや仮想通貨が今後使われる上で、今直面する3つの大きな課題をあげた。

拡張性と安全性の関係

ブロックチェーンのイメージ画像(Immersion Imagey/Shutterstock)

世界中の誰もが取引に参加できるオープンネットワークのパブリック・ブロックチェーン。その世界的な導入は、二律背反するスケーラビリティ(拡張性)とセキュリティーとを同時に克服する必要があると、JPモルガンは述べる。

「分散化」と「安全性」に優れるプロジェクトは往々にして必要な「スケーラビリティ(拡張性)」に欠け、また「安全性」を高めると「分散化」が犠牲になるケースが散見される。

また、プルーフ・オブ・ワーク(PoW=Proof of Work:ビットコインでは、次のブロックを他の競争者より早く見つけられた者に新しいBTCを発行する権利を与えるというルール)を用いるプロジェクトでは、特殊なハードウエアの利用などにより、高いマイニングコスト(採掘コスト)が、その進展の妨げになるケースが見られる。対処法は見出されつつあるが、依然として初期段階である(レポート)。

サプライチェーンのプレイヤーたち

ロジスティクスにおけるサプライチェーンのイメージ(travel mania/Shutterstock)

二つ目に、ブロックチェーンは、その有効性を最大限にするために、サプライチェーン全体を包括する必要があると、同レポートは強調する。スケーラビリティは、全てのプレイヤーがブロックチェーンという技術を組み込み、既存のネットワークとどれだけ一体化できるかにかかっている。

例えば、港を運営する企業や、中小企業、中間業者などの膨大な数のプレイヤーは、金融機関に比べると、デジタル・ソリューションの導入に対してはゆっくりとしたペースで進めているのが現状だ。

また、1年前に比べると、ネットワーク・テクノロジーを展開する企業数は減少傾向にあるという。Corda、Hyper Ledger、Digital Asset、Axoni、Ethereum Enterpriseなど、その数は数えられるまでに減ってきている。

そびえる規制の壁

米国証券取引委員会(SEC)のエンブレム(Mark Van Scyoc/Shutterstock)

詐欺や価格操作の可能性、不十分な市場規模に加えて、規制の欠如は、依然としてブロックチェーンや仮想通貨の拡張を妨げる大きな壁だと、JPモルガンは指摘する。

仮想通貨をベースにした支払いシステムは、金融規制の観点から考えると、現段階では実行不可能であろう。市場の全てのプレイヤーが参加できるプレイング・フィールドを確立するのであれば、まずは仮想通貨の規制に対する協調的なアプローチが必要である。

また、米国では複数の仮想通貨ETF(上場投資信託)の申請が提出されているが、SEC(米国証券取引委員会)からの承認は依然として得らていない。

世界の金融取引所は、仮想通貨市場で導入された監視システムや技術を前に進めようとする動きを見せるが、その開発状況は依然として初期段階に留まっているのが現状だ。

ニューヨーク証券取引所(NYSE)を傘下に置く米インターコンチネンタル取引所(ICE)は、仮想通貨プラットフォームのBakktを始めとして、ルールが整備されたオープンなデジタル資産の世界的なエコシステムをつくろうとしている。ナスダック(Nasdaq)は、SMARTsという監視技術を使って、規制の壁を越えられる新たな枠組みの開発に着手している。

金融における可能性

ロンドンのビジネス街(r. nagy/Shutterstock)

銀行業などの金融サービスにおいて、JPモルガンはブロックチェーンの可能性をどう見ているのか?

規制や法律面の課題がブロックチェーンの未来の道をふさいでいると、レポートは指摘する一方、金融業における同技術の可能性は大きいと述べている。

世界規模で事業を行う銀行にとっては、ブロックチェーン技術により事業コストを大幅に削減することができる。また、自動化が難しいとされてきたトレーディングなどの分野において、デジタル化を急速に進めることも可能だと強調。

香港金融管理局(HKMA:Hong Kong Monetary Authority)は、地場の銀行と連携して、eTradeConnectというブロックチェーンを基にしたトレード・ファイナンスのプラットフォームを始めた。オーストラリア証券取引所(ASX:Australian Stock Exchange)も、ブロックチェーンの導入に対して前向きな姿勢を示しているという。

リードするスペインの金融界

ニューヨーク・マンハッタンにあるサンタンデール銀行支店(撮影:2013年10月)(northfoto/Shutterstock)

世界の銀行業界におけるブロックチェーンの使用ケースは限定的であるが、その中でもスペイン金融界が先行していると、JPモルガンは指摘する。同国におけるいくつかの例を、レポートの中であげている。

  • サンタンデール銀行(Santander)が開発したOne Pay FXは、ブロックチェーンを利用した国際決済サービス。欧州、米国、南米のサンタンデール口座間の資金送金が可能。
  • サンタンデールとフィンテック企業のブロードリッジ(Broadridge)は2018年3月、カストディアン(管理)銀行のJPモルガンとノーザントラスト(Northern Trust)と共同で、年次株主総会(AGM)での議決権投票にブロックチェーンを利用。
  • 8銀行からなるスペインのブロックチェーン・コンソーシアム「Niuron」は、ブロックチェーンを活用した顧客データの認識と照合を行うプロジェクトを立ち上げると発表。
  • ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)は2018年11月、史上初の分散台帳を使用したシンジケートローンを実施。

JPモルガンのJPMコイン

JPモルガンのHPより

やや保守的とも思える報告書が公開された翌月の2月、JPモルガンは、ブロックチェーン上でデジタルコイン「JPMコイン」を使った、同行の法人顧客間における送金実験に成功したと発表。国内外のメディアを驚かせた。

JPMコインはお金ではなく、JPモルガン・チェース銀行における特定の口座で管理される、法定通貨の米ドルを代替するデジタルコインであると、JPモルガンは説明。発表文の中で、「我々は常にブロックチェーン・テクノロジーのポテンシャルを信じている。そして、規制と管理が適切に整うようになれば、仮想通貨をサポートしていく」とコメントした。

ブロックチェーンにおいて大きくリードするJPモルガン。今後、JPMコインを中心に、その新たなテクノロジーの活用範囲をどう広げていくのか目が離せない。

編集:浦上早苗、佐藤茂