仮想通貨カストディ(保有)はなぜ複雑か? 「5つのC」で考える

仮想通貨は、用語がややこしい。真面目な話、なぜコードの並びが「コイン」になるのか? 実際の世界では「ウォレット」には実体のあるモノを入れる。実体のないモノを入れるわけではない。

「カストディ」にも同じことが言える。そもそもが複雑な用語で、従来の一般的な法律での定義が仮想通貨にも適用されている。その結果、ほとんどの投資家が従来と同じ意味だと信じている。すなわち、財産権の認可を受けた事業者による保管。だが、そうではない。

この混同は、他の誤解よりも一層被害が大きい。カストディは投資家の保有資産の安全を確保するうえで不可欠であるのみならず、新たに登場しつつある規制上の枠組みの基礎でもある。

さらにこの混同は、カストディのコンセプトをめぐる、すでに混乱している状況に重ね合わされている。そして、統一的なルールや見通しを築くことの、あまりにも大きな複雑さを浮き彫りにしている。

ベストプラクティスを採用したソリューションが登場し、仮想通貨に関心を持つ機関投資家にとっては安心材料となりつつある。だが、用語の意味をより明確にしない限り、短期的には一貫した枠組みが現れる可能性は低く、仮想通貨にさらなるリスクが加わっている。

カストディ(custody)のC

まず、「カストディ」の公式定義を見てみよう。いや、そんなものは存在しない。

「カストディ」は法律上の「専門用語」ではない。つまり特定の定義はない。法律上の関係を示すこともあれば、資産の保有を表すことにも使われる。州間、あるいは州の中でさえも違っている。連邦政府の取り扱いもしばしば違っている。

「カストディ」は所有権の移転、または単に第三者による承認を意味し、カストディが債務不履行になった場合に、必ずしも保護の保証があるわけではない。

紛らわしいことに、我々は皆、カストディの意味を理解したつもりでいる。だが、本当は分かっていない。公式の当局でさえもしばしば、この言葉を一貫性なく使っている。

しかし、大半の人たちが合意する一つの側面は、「カストディ」は何かの「保有」を示唆するということ。投資資産のカストディを管轄する数多くの公式機関の一つである米証券取引委員会(SEC)は、1940年投資顧問法の2003年の修正条項の中で、公式な定義を試みた。

「顧客資産あるいは証券を『直接、あるいは間接的に』保有、あるいはそれらの所有権を手に入れる権限を持つ時に、アドバイザーは顧客資産のカストディを持つ」

しかしこれはまだ、カストディを定義しきれていない。

「保有」という用語に焦点を当てると、仮想通貨がいかにしてこの定義 ── そして「所有」と「信頼」に依拠するあらゆること ── を混乱状態に陥れているかが分かる。

複雑(complication)のC

議論を進めるために、ここではビットコインに焦点を当てよう。

ビットコインは現在、仮想通貨市場を独占し、その相対的な流動性とアクセスの多様性からほとんどの投資家にとって仮想通貨への入口の役割を果たしている。

伝統的な資産の所有は台帳への記入に概ね依存している。どこかに存在するコンピューターに、あなたはある資産の所有者として記載されている。データベースを誰が所持しているかは関係ない ── 資産の所有者はあなただけ。

だが、ビットコインは無記名式の資産であり、氏名は添えられていない。その代わり、ビットコインはアドレスと関連づけられ、アドレスは「ウォレット」と関連づけられている。

資産そのものは、ウォレットの中、保管機関、あるいは発行者の口座の中に存在するわけではない。ビットコインは、特定可能な説明責任を持たない、分散型のグローバルネットワークであるビットコインブロックチェーン上に存在する。

ビットコインを移動できる独占的な権利を持っているという意味で、ウォレットの秘密鍵を持つ人がビットコインを「所有」している。繰り返すが、名前や所有権の証明は必要ない ── 秘密鍵を持っていることで十分なのだ。

では、秘密鍵を渡したり、共有することなく、どのようにして「カストディ」を行ってもらうのだろうか。もしも秘密鍵を渡せば、それは事実上、所有権を渡すことになる。

カストディアンがあなたのビットコインを動かすことのできるコードに、あなたと同様にアクセスできるとしたら、それはあなたと同じ所有権を持つことを意味する。一般的にカストディは、あなたの財産をあなたの代わりに所持するようなことと理解されている。

同意(consent)のC

「マルチシグ」オプションは、トランザクションに複数の秘密鍵の署名を必要とすることで、あなたのビットコインを保護する ── だが、それは同時に所有権を犠牲にすることを意味する。

あなたのカストディアンはあなたの同意なしに、あなたのビットコインを移動させることはできない。だが、あなたもまたカストディアンの同意なしにビットコインを移動させることはできない。

もちろんカストディアンは、契約を通して、資産を保有するものの、その資産は本当はあなたのものであると認識していることを明確にし得る。

だがそこで、信頼が問題となる。

カストディアンが姿を消したらどうなる? 理論的には、伝統的な証券はカストディアンが債務不履行に陥った場合、正当な権利を持つ所有者に返還される。

だがビットコインの場合、同様の保証はほとんどない。特に規制による保護が不十分なためだ。

その理由の一部は、世界的に受け入れられた基準がいまだに存在しないことにある。グローバル・デジタル・ファイナンス(GDF)のような業界団体が業界メンバーと共同して「ベストプラクティス」をまとめている。だが、細かい点や実施について合意するには時間がかかる。

消費者(consumer)のC

明確化を図るため、SECと自主規制機関の金融取引業規制機構(FINRA)は7月、ブローカー・ディーラーによるデジタル資産のカストディについての懸案事項を明らかにする共同声明を発表した。

その中でSECとFINRAは、ブローカー・ディーラーが倒産した場合、顧客の資産を保護する消費者保護規則(Customer Protection Rule)は、仮想通貨の場合には適用されない可能性が高いと指摘した。

所有者が秘密鍵をカストディアンと「共有」したとしても、それ以外の他者が秘密鍵を持っていないことを、カストディアンはどのようにして知ることができるのだろうか?

他者が秘密鍵を持っている可能性があった場合、カストディアンは安全な保管を約束できるだろうか? 顧客のアクセスポイントが被害に遭わないことをどうすれば確信できるだろうか?

トランザクションを元に戻したり、訂正したりできないことは、所有者にとってはビットコインの大きなメリットだろう。だが、カストディアンと規制当局にとっては大きな懸案事項だ。

声明では、バラバラな定義がもたらす障壁がさらに浮き彫りにされた。つまり、破綻したブローカー・ディーラーは、証券投資者保護法(Securities Investor Protection Act)に沿って清算されるが、証券投資者保護法の「証券」の定義はSECのそれとは異なっている。この結果、ブローカー・ディーラーの顧客は保護を受けられないままとなっており、SECは当然、快く思っていない。

明らかに、どんな明確さもないよりはましだが、声明はブローカー・ディーラーが保有するデジタル資産に言及している点で限定的なものになっている。

大半の規制当局にとっては、ビットコインは「証券」ではない。多くのビットコイン所有者は取引所から直接購入することによって、ブローカー・ディーラーを回避している。しかしながら声明は、規制レベルにおける理解と標準化の欠如についての懸念を強調することになった。

チャレンジ(challenge)のC

つまり、ビットコインの「カストディアン」であることは、伝統的な資産のカストディアンであることとは完全に異なる。だがまだ我々は、同じ用語を使うことにこだわっている。

このことは、仮想通貨の世界に新たに飛び込んだ人たちが、仮想通貨を理解することをより難しくしている。また、規制当局にとっても、一貫性のある枠組みを確立することは一層難しくなっている。カストディという概念にとって基礎的な柱となる「所有権」「法的責任」という用語の標準的な理解が仮想通貨の世界では大きく歪んでしまっているからだ。

「コイン」「ウォレット」といったシンボリックな単語には善意が込められている ── こうした単語は参考となる枠組みを与えてくれる。だが、「カストディ」の場合、場違いのメタファー(暗喩)が混乱を解消するばかりか、より一層の混乱を生み出している。

歴史を通して、テクノロジーの進展は新しい概念を表すボキャブラリーの出現ペースを軽く上回ってきた。メタファーは理解を促進するために使われ、通常はうまくいく。新たに取り上げられた言葉はしばしば、新しい使用場面によってその意味を変える(「ウェブ」「ネット」は今、あなたにとって何を意味するだろうか?)。

だが、より具体的であることが不可欠な領域がある。法律だ。

秘密鍵の、認可を受けた保管を表すために「カストディ」、そのサービスの提供者に「カストディアン」という言葉を使うことは、規制による保護という安心を必要とする領域においては、絶好の事例といえる。

新しい言葉を考え出すことは有用なことかもしれないし、従来の法規制を超えて使用するための具体的な定義を確立することは、監視を促進、強化する方法についての先例にさえなるかもしれない。

しかし、用語をめぐる体系的な障壁は、アメリカや他の国でも、金融規制における面倒な問題となっている ── いったい誰が新しい用語とその定義を決めるのだろうか?

だが、すべての障壁が乗り越えられないわけではない。問題は大きくなっており、おそらく調整は成し遂げられるだろう。そしてその間に、業界は成熟していく。

ビットコインや他の仮想通貨の場合、大きな問題は「カストディ」が伝統的な証券のカストディと極めて異なっていることではない ── 新しい概念をサイズの合わない古い箱に押し込もうとしていることが問題なのだ。


ノエル・アチソン(Noelle Acheson)は、企業分析を専門とするCoinDesk・プロダクトチームの一員。この記事で示される見解は筆者自身のものです。

翻訳:山口晶子 
編集:増田隆幸
写真:Vault door image via Shutterstock
原文:The Crypto Custody Conundrum: What Are We Even Talking About?