仮想通貨とブロックチェーンに立ちはだかる保護主義の壁──地域通貨の増加、地政学的リスク回避の動き

ブロックチェーン技術が資産の管理や取引におけるここ数十年で最も革新的な発明であることに議論の余地はない。サトシ・ナカモトが論文「ビットコイン:P2P電子マネーシステム」でこのコンセプトを公表してから約10年、その応用は金融の枠にとどまらず、不動産、知的財産、難民支援、そして投票権など幅広い分野へ拡大を続けている。

一方、ビットコインを含む、後に仮想通貨と呼ばれるようになった仕組みについては、その正しい知識の啓蒙、そしてAML/CFT(マネーロンダリングやテロ資金利用への対策)・利用者保護・公正な取引への法整備が求められている。

ハッカーによるサイバー攻撃も多く、その革新的な素晴らしさに比例して課題も山積みで、「ブロックチェーンは重要だけど、仮想通貨はどうかな……」という声も耳にする。ブロックチェーン技術を活用した仮想通貨が金融経済のインフラとして我々の生活に定着するのはいったい何年先のことだろう。

金融経済インフラとして定着するまでの道のり

ブロックチェーンをインターネットに匹敵するイノベーションと評価する声は多い。インターネットの場合は、きっかけとなる通信プロトコル(TCP/IP)が標準化されたのが1982年で、世界の情報通信業界や学術組織に理解が広まるだけでも10年以上の期間を要した。

1993年におけるグローバルな情報通信におけるシェアは僅か1%に過ぎず、日常生活やビジネスで活用するアプリケーションが90年代後半に開発された後、2000年に51%、2007年に97%以上へと、まさに合計約25年もの歴史を経て不可欠な存在となった。

仮想通貨のコンセプトは誕生してまだ約10年、金融経済活動に不可欠なインフラとなるにはインターネットと同様にあと15年もの時を要するのだろうか。その頃ヴィタリック・ブテリン氏はまだ働き盛りの40歳だが、私は年金の受給をどの暗号通貨にするか悩んでいるかもしれない。いずれにしても技術革新は「水の低きに就くが如し」、多少の滞留や逆流はあれど、その広まりは止まらない。

順序としては、(1)正しい知識が広まり、(2)法が整備された後、(3)(インターネットの歴史における各種アプリケーションに相当する)実体経済に結びつきの強い仮想通貨が増えて初めて一般市民の利用が拡大すると思われる。日本を含む世界数カ国で現在(1)と(2)が同時進行中だが、その他の国ではまだその前段階だ。

ブロックチェーンや仮想通貨のビジョン

インターネットは情報通信、ブロックチェーンは資産の管理と取引、そして仮想通貨は金融経済におけるブロックチェーンの活用と、それぞれが異なる分野における革新である一方、ビジョンについては “より民主的なインフラの提供”という点で共通している。今までの「中央集権(Centralized)」モデルから「非中央集権(Decentralized)」や「分権化(Distributed)された」ネットワークへの移行を意味し、世界中の幅広い人口が経済活動に参加し、価値を生み出す経緯が民主化され、資産の公明正大な管理・取引・分配が可能になる。

ブロックチェーンと仮想通貨は、独裁者・盗賊・汚職者等による資産の強奪、クーデターによる土地の接収、そして投資や送金における非効率で不当な中間搾取へも効果的な対策だ。また、知的財産や個人情報の自己管理を可能にし、大手企業にその運営を頼らない真のP2Pシェアリングエコノミーも実現でき、結果としてグローバル規模での金融包摂と金融経済の底上げも期待される。

立ちはだかる保護主義という大きな壁

インターネットとの対比をいくつか述べたが、仮想通貨とブロックチェーンがそれと同じ経緯や困難を経るとは限らない。むしろ、インターネットが拡大の一途を辿った過去25年とは世界が大きな変化を遂げており、ここ数年の地政学的環境を鑑みると、これらのイノベーションが新たな大きな壁に面していることが分かる。

BREXIT(英国のEU離脱)に始まり、トランプ政権の米国第一主義、米中・日韓関係の悪化、そして纏まりのないG7会談等、多くの経済大国が保護主義(極端な自国愛)に走り、各種イノベーションが目指す前述のビジョンとは逆の潮流が強くなっている。

日本では、社会問題となったMt.GOXの影響の他、国際金融センター構想やFinTechへの政府による積極的な姿勢もあり、仮想通貨に関わる法整備が急ピッチで進捗した経緯があるが、フランス・シンガポール・オーストラリア・欧州各国等の自由経済(及び自由貿易)姿勢を維持している国々も同様に政府主導で(法整備が)進展している。一方、保護主義へ傾倒する国々における旗色は悪い。

因みに、野放しの場合、既に規制監督下にある銀行・証券・不動産・運用会社等で構成される従来型の金融システムとの繋がりが薄くなり、イノベーションが停滞してしまう。適正な法規制の導入は不可欠だ。

世界各国が保護主義の姿勢を高める程、富裕層は地政学的リスクを回避する為に仮想通貨保有を増やす傾向がある。海外ヘッジファンド等が、仮想通貨と他の伝統的金融資産と価格の相関が低い点に注目し、この流れを加速させている。

中国のデジタル通貨構想

中国人民元のデジタル通貨構想(CBDC、通称「デジタル人民元」)が一部メディアで報じられているが、これが本当だとすると、国家による通貨の発行・分配・流通・そして保有者情報の完璧なまでの集中管理(プライベートチェーンで管理と想定)が可能になりえる。

一帯一路経済圏への投資と成長を中心とし、思いのほか難航しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)の融資拡大や人民元の国際化へのカンフル剤となりえる。自国の経済や特定の経済圏を計画的に統制したい社会主義国や、急成長を狙う開発途上国等はこうしたプライベートチェーンでの仮想通貨の活用が広まるだろう。

但し、これは金融政策と計画経済(又は社会主義市場経済)の強化が目的であり、グローバル規模での当該イノベーションによる経済効果としては極めて限定的であり、そもそものビジョンが異なる。保護主義と類似したスタンスではあるが、中国や韓国を筆頭に、自国通貨や資産の国外流出をあからさまに嫌っている国が逸早く仮想通貨を厳しく管理統制しているのも事実だ。

保護主義の高まりが仮想通貨にどう影響するか?

  • 世界各国で仮想通貨の法整備が遅れる
  • ビジョン(民主的なグローバル経済金融インフラの提供)の実現が遠のく
  • 富裕層が地政学的リスク回避の為に仮想通貨を保有する
  • 国家や地域レベルでのプライベートチェーン通貨が(相対的に)増える

仮想通貨業界はどう成長を遂げていくか?

繰り返しになるが、ブロックチェーンや仮想通貨による技術革新は「水の低きに就くが如し」で、留まる(停滞する)事はあっても、止まらない。

世界が保護主義に染まれば、社会主義市場経済圏での利用も含め、その内容がプライベートチェーン寄りになるだろう。パブリックチェーンで国境を超えた仮想通貨の存在は薄まるかもしれない。この通り、地政学要因と各国の法整備への姿勢で(仮想通貨業界の)成長カテゴリーやスピードが想定できる。

再びインターネット革命との対比になってしまうが、そもそも現在100%近くになっている “インターネットのグローバル情報通信におけるシェア” はディープウェブを含んでの数値である。ディープウェブは一般アクセスが制限されるプライベートチェーンとも似たような条件の分野でもあり、一部仮想通貨の特性としてよく問題視される匿名性が確保されるダークネットや、違法取引の温床となっているダークウェブも存在している。良いか悪いかは別に、これらの “ダーク” な要素はインターネット革命を止めるには至らなかった。

インターネットもその普及の過程で多くの挑戦をくぐり抜けてきており、日本を含む世界各国の政治家が真面目にその禁止の可能性についての議論もあった。今でも中国・北朝鮮・ベトナム・キューバ・エジプト・イラン・サウジアラビア他、計十数カ国ではインターネットは検閲や政府による意図的なアクセスの遮断が続いている。インターネットをインフラとして利用するブロックチェーン技術や仮想通貨は、当然これらの国では同等の検閲や管理が想定され、導入される仮想通貨もそれを可能にするものに限られる。

実体経済に結びつきの強い仮想通貨を生むフェーズ

ブロックチェーン技術と仮想通貨は初期の10年が終わり、法整備と実体経済に結びつきの強い仮想通貨を生むフェーズへと移行している。保護主義の高まりや、社会主義市場経済という仮想通貨の本質的なビジョンにネガティブな材料はあるが、これはプライベートチェーンの活用を先行させるかもしれない。いずれにしても、現在は一般社会へのグローバル普及率が急加速する前の段階にあり、その中長期イノベーションについて目先のニュースで一喜一憂する必要はないだろう。

編集:佐藤茂
写真:Shutterstock