仮想通貨市場が冷え込む中、誰がオープンソースにお金を出すのか?

2019年7月、IBMはオープンソースの成功モデルとしてよく引き合いに出されるレッドハット(Red Hat)を340億ドル(約3兆7000億円)で買収した。

長年、法人向けビジネスを行ってきたIBMは、ビジネスの転換期を経験しつつあり、また成長を必要としている。レッドハットのオープンソースソフトウエアは、アマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)、グーグル(Google)が提供しているクラウドサービスの分野で、IBMの競争力を高めることができる。

このことはなぜ重要なのだろうか?

レッドハットはオープンソースソフトウエアの成功例として、最も引き合いに出される事例の一つ。オープンソースを支持することが、いかにビジネスでの成功を導くかを表す例としてしばしば使われる。

そしてこれは特に仮想通貨エコシステムに当てはまる。オープンソースの精神がテクノロジーを規定しているからだ。

しかし、この議論には何かが欠けている。オープンソースは開発者が開発を進めるための資金を必要としているという点だ。

一部の人の理解とは裏腹に、オープンソースは無料ではない。オープンブロックチェーンを構成する変化の激しい市場において、これは問題のある考え方だ。

取引量の問題

仮想通貨は、ほぼ途方もないレベルの透明性と管理を可能にする。

しかし、前に進んでいくためには、インセンティブを整える必要がある。スケーリングテクノロジーやデザインエクスペリエンスによって、仮想通貨の利用をより簡単にしなければならない。しかし、ほとんどの仮想通貨は主に投機目的で使われている。そして投機的な市場は、取引量が小さく、低迷している。

ビットコイン(BTC)の取引量は過去2年で最も低い水準にある。

データは、ビットコイニティー(Bitcoinity)より。

筆者は数年前にこの問題について書き、ビットコインが直面している存続に関わる脅威について論じた。ビットコイン・コア(Bitcoin Core)がプロトコルに取り組んでいる唯一のグループであった2015〜2016年の弱気相場の頃だ。記事が掲載されてまもなく、ビットコイン開発に90万ドル(約9600万円)相当の資金を提供するMITの構想が発表された。

市場は、仮想通貨に統一をもたらす唯一の力だと言っているわけではない。だが、その重要性を認識しておくことは重要だ。

仮想通貨であり予想プラットフォームのオーガー(Augur)はニュースが価格に影響を及ぼした一例と言えるだろう。オーガーは2018年のローンチが近づくにつれて価格が上昇した。しかし、取引量が100万ドルに達し、著名人の生死を賭ける「暗殺市場」が形成されると価格は下落した。

オーガーは、独自トークンを通じて仮想通貨から直接資金を得ている興味深いプロジェクト。しかし、そのネットワークをオープンソースの形式で利用するために他のプロジェクトに依存している。トレーダーの市場がそのような依存状態にあることは問題だ。

オーガーのプロトコルを利用していたベール(Veil)は最近閉鎖された。先に述べた問題の例であり、市場の見通しが物事にいかに影響を与えるかを示している。取引量の少なさは、こうした予測市場のようなプロジェクトへの関心の低下を意味する。

ジーキャッシュとライトコイン

ジーキャッシュ(Zcash)とライトコイン(Litecoin)は、開発費用や他の費用の捻出に苦しんでいる。両プロジェクトは、これらの問題の原因は市場にあることを示した。

ライトコイン財団(Litecoin Foundation)は赤字。創業者のチャーリー・リー(Charlie Lee)氏が、現時点では資金を提供しているようだ。赤字の原因は、仮想通貨の弱気市場にあるとされているが、このことは、プロジェクトはエコシステムの大半の人が認識しているよりも、取り引きに影響を受けていることを示している。

「目標はもちろん、ライトコイン財団を寄付、パートナーシップ、商品販売によって自立させること」とリー氏は述べた。

「そこに到達するまで、必要に応じてライトコイン財団を財政的に支え続けていく」

ライトコインはビットコインとそれほど変わりはない。だがビットコイン(BTC)の実装前にはセグウィット(SegWit)のようなもので実験が行われた。しかしライトコインのコミュニティーは明らかに、ライトコイン財団の運営を保つためにお金を出す理由を見出していない。

ジーキャッシュはプライバシー機能が強化されており、ビットコイン、ライトコインの双方とは違っていると考えることができる。ジーキャッシュの保護技術は確かに新しい、しかし、少数のトランザクションのみが保護されている。

黒い線は保護されていないトランザクション、青い線は保護されているジーキャッシュのトランザクションを示している。

データはジーチェーン(Zchain)より。

ジーキャッシュとそのプライバシー保護を必要としているコミュニティーは存在しているのだろうか?

時間が経てば明らかになるだろう。だが、取り引きの観点から、銀行は問題を感じているようだ。仮想通貨取引所コインベースUK(Coinbase UK)が、おそらく銀行からの圧力を受けてヨーロッパでのジーキャッシュの取り扱いを停止したことは、その一例と言える。

「当初のDev Fundには幕を下ろすことを選んだ。将来的にジーキャッシュが成功し、コミュニティーが成長して支援してくれた場合、コミュニティーは次に何をするか協力して決断すべきだろう」とエレクトリック・コイン・カンパニー(Electric Coin Company)のCEO、ズーコ・ウィルコックス(Zooko Wilcox)氏は述べた

ジーキャッシュがどれほどのサポートを得ることができるか。知っているのは時間だけだ。

資金の出所

「資金提供者の幅広さという点では、事態は大いに改善したと考えている。(中略)業界でオープンソースの取り組みに資金を提供したいと考える人は爆発的に増えた」と決済企業スクエア(Square)の仮想通貨チーム、スクエア・クリプト(Square Crypto)に加わったマット・コラロ(Matt Corallo)氏は先日、CoinDeskに語った

オープンソースベースの仮想通貨への資金提供者が爆発的に増えているとしたら、彼らはかなりおとなしくしているようだ。

コインベース(Coinbase)はオープンソースへの支援を表明し、2018年はじめから月に2500ドル(約27万円)を提供している。しかし、2018年以降、特に新しい情報はなく、コインベース・オープンソース・エンジニアリング(Coinbase Open Source Engineering)のサイトはもはや機能していない

スクエア・クリプトは、ビットコイン開発に資金を提供するために、開発者の給料をビットコイン(BTC)で支払おうとしている。スクエアの創業者兼CEOのジャック・ドーシー(Jack Drosey)氏は「お金関係を改善させたい」と考えている。

だがこの発言は、ドーシー氏が仮想通貨とは何かをよく理解していないことを示しているようだ。

確かに人々は、同社のキャッシュアップ(Cash App)から1億2500万ドル(約135億円)相当のビットコインを購入した。しかし彼らはビットコインを支払いのために使っているだろうか?

なぜマイナーたちはオープンソース開発に資金を提供しないのか? トレーダーたちは? 資金を提供している関係者は誰なのか?

スクエア・クリプト、ブロックストリーム(Blockstream)、ライトニング(Lightning)、マサチューセッツ工科大学(MIT)、イーサリアム財団(Ethereum Foundation)。他には誰が仮想通貨開発にリソースを投入しているのだろうか?

2019年はギットコイン(Gitcoin)にとって良い一年となっている。

データはギットコインより。

仮想通貨取引所のオーケーコイン(OKCoin)は、ビットコイン(BTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ビットコイン・サトシビジョン(BSV)のどれに開発資金を提供するかをユーザーが投票できるコンテストを発表した。オーケーコインはなんと最大1000BTCを寄付する。

この取り組みは「ともにビットコインを築き上げよう!(Let’s Build Bitcoin Together!)」と呼ばれているが、このようなキャンペーンは、少し対立を生むような感じがする。ビットコインの極めて異なるバージョンを、極めて分離した形で築き上げると呼ぶ方が近い。

イーサリアムと分散型アプリケーション(Dapp)のエコシステムでは、ギットコイン(Gitcoin)は200万ドル(約2億2000万円)以上を開発者たちに支払い、コンセンシス(ConsenSys)がリード役となっているようだ。他の仮想通貨プロジェクトもこのようなコミュニティーベースの資金源を持った方が良いかもしれない。取引量の少なさにも関わらず、ギットコインは上手くいっているように思える

投資家よりも開発者

仮想通貨取引所のバイナンス(Binance)は先日、オープンソースプロジェクトに取り組む40名の開発者に対する資金提供を発表した。

しかし、資金を受け取る「伝道者」の要件は、バイナンスのプラットフォームでのみ開発を行うこと。取引関連と思われるが、開発者向けプログラム「バイナンスX(Binance X)」とデジタル通貨プロジェクト「ヴィーナス(Venus)」もあり、フェイスブックの仮想通貨プロジェクトと競合するかもしれない。

衝撃的に思えるかもしれないが、28のメンバー企業を抱えるリブラ(Libra)は、仮想通貨オープンソースを前進させることに役立つということだろうか?

文字通り、すべての人々からの批判にも関わらず、リブラプロジェクトはまだ、オープンネットワークとなることが期待されている。エンドポイントのウォレットは、KYC(顧客確認)/AML(アンチマネーロンダリング対策)を遵守する必要がある。このプロジェクトを取り巻くオープンソースに多額の資金が注ぎ込まれる可能性がまだある。彼らがギットコインの作戦に倣っているなら、本当のことになるかもしれない。

市場は常に上昇を続けるわけではない。チャーリー・リー氏の援助にも関わらず、ライトコインは減給を余儀なくされた。ジーキャッシュ財団は、収入よりも支出の方が多い。仮想通貨開発の救済措置として資金を受けることは皮肉なことだ。つまり、赤字なのだ。

これらの場合、仮想通貨市場のパフォーマンスのせいにするのは簡単。なぜなら次のように疑問に思わずにはいられないから。

こうした知名度の高いプロジェクトのどれかが資金を見つけられないとすれば、オープンな仮想通貨開発は将来的にどのようにして財政的に成り立つのだろうか、と。

市場のダイナミクスが仮想通貨以外のオープンソースを止めたことは決してない。

レッドハットを見てみてほしい ── レッドハットがオープンソースに答えを見出すことを妨げる市場はなかった。投資家ではなく、開発者に焦点を当てたのだ。

仮想通貨プロジェクトは、ここ数年、オープンソースの世界で何がうまくいったかに注目する必要がある。市場の気まぐれと相関関係にある寄付に依存するべきではない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Cold money via Shutterstock
原文:As Crypto Markets Go Cold, Who Will Pay for Open-Source Code?