元ビットコイン開発者、HBOのドキュメンタリー放映数時間前にサトシ・ナカモトではないと否定

「藁をもつかむ思い」

「もちろん、私はサトシではない」と8日、元ビットコイン開発者のピーター・トッド(Peter Todd)氏はCoinDeskに語り、番組ディレクターのカレン・ホバック(Cullen Hoback)氏のことを「藁をもつかむ思い」だろうと述べた。

まもなくプレミア放送(米東部時間8日21時、日本時間9日11時)されるHBOのサトシ・ナカモトのドキュメンタリーから流出した短い動画では、ビットコインの生みの親として元ビットコイン開発者のトッド氏を特定しているようだが、トッド氏は否定している。

トッド氏はCoinDeskへのメールで、HBOの以前のドキュメンタリーでQアノン陰謀論の黒幕を暴いたことで知られる映画監督のホバック氏が、トッド氏をサトシ・ナカモトと特定しているのなら、それは「藁をもつかむ思い」だろうと述べた。

「イエス、インタビューは行われた。映像はディープフェイクではないだろう」とトッド氏は述べたが、ドキュメンタリーはまだ見ていないと続けた。

「もちろん、私はサトシではない」とトッド氏。

「Qアノンのドキュメンタリーでも知られる監督が、ここでまた、Qアノンのような偶然に基づく陰謀論に頼っているのは皮肉なことだ」

ポリマーケットでは「その他/複数」が圧倒的

ニューヨーク時間8日午後、HBOのドキュメンタリー『Money Electric: the Bitcoin Mystery』のプレミア放映予定時刻の数時間前、ブロックチェーンベースの予測サイトポリメーカー(Polymarket)では、ドキュメンタリーがサトシ・ナカモトとして特定する人物としては、圧倒的に「その他/複数(Other/Multiple)」が支持されていた(当記事執筆時点、78.5%)。

以前は、暗号研究者のレン・サッサマン(Len Sassaman)氏や、当時コンピュータープログラマーであったニック・スザボ(Nick Szabo)氏がトップ候補にあげられていた。

ポリマーケットで賭けが作成された時点では、トッド氏は候補としてリストアップされていなかったため、番組が明かす「真相」がトッド氏であると賭けたい人たちは「その他/複数」を選ぶしかなかった。

ソーシャルメディアで出回っている動画でも、トッド氏は自分がサトシであるという説は「ばかげている」と述べている。

補足しておくと、オンライン上に出回っているのは番組の一部であり、最終的に番組は、この短い動画でトッド氏が語った内容とは異なる結論に達する可能性もある。

「僕がサトシだ。そして、僕はクレイグ・ライトだ」

動画では、ホバック氏がトッド氏と対峙し、トッド氏がビットコインの発明への関与を隠した理由と経緯について、自説を展開している。トッド氏は頭を振り、ホバック氏の話を笑って聞いている。

「あなたがとてもクリエイティブなことは認めよう。クレイジーな説をいくつか思いついた。ばかげている」とトッド氏は動画の中で語っている。

「でも、そう、もちろん僕がサトシだ。そして、僕はクレイグ・ライトだ」

これは明らかにジョークで、告白ではない。トッド氏は2019年のインタビューでも、「私がサトシだ。他のみんなもそうだ」と同じような発言をしている。

トッド氏は笑いながら、ホバック氏に対して、誤った結論に達していると警告している。

「この映像をドキュメンタリーに取り入れて、多くのビットコイナーがこれを見たら、とても面白くなるだろう」とトッド氏は述べた。

「この路線で行くなら、多くのビットコイナーがとても喜ぶだろう。なぜなら、これはジャーナリストがとても面白い方法で、ポイントを見失っているという新たな事例だから」

ホバック氏は、ポイントとは何かと尋ねた。

「ビットコインをグローバル通貨にすること」とトッド氏は答えた。

また失敗か

番組の公式予告には、そのシーンから数秒間が映し出されている。

この動画でトッド氏の隣に立っているブロックストリーム(Blockstream)CEOのアダム・バック(Adam Back)氏は、CoinDeskのコメント依頼に応じていない。

ビットコインの初期開発者の1人として、ビットコインに深く関わっていた人物であるトッド氏は、ジャーナリストたちが長年追い続けているサトシ・ナカモトの第一候補者にあげられたことは一度もなかった。ハル・フィニー(Hal Finney)氏、スザボ氏、バック氏などがサトシ・ナカモトとしてよくあげられているが、いずれも否定している。

2018年のインタビューでトッド氏は、1ビットコインが20セントの時に初めてビットコインを購入したと語った。つまり、ビットコイン・ホワイトペーパーが発表されてから2年後の2010年10月頃に購入したことになる。

アダム・バック氏は7日、Xに「賭けをする人たちは、ドキュメンタリーが結論づけたことに賭けている。おそらくそれは真実ではないだろう。なぜなら、サトシが誰なのかは誰も知らないから。それを心に留めておくべきだ」と投稿した。

サトシの正体を明らかにしようとするメディアの試みは、これまでも失敗に終わっている。プログラマーのドリアン・ナカモト(Dorian Nakamoto)氏や、詐称で知られているクレイグ・ライト(Craig Wright)氏などの人物をサトシ・ナカモトと誤って名指しするメディアもあった。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:HBO
|原文:Former Bitcoin Dev Peter Todd Denies He’s Satoshi Hours Before HBO Documentary Airs