バイナンスなど大手取引所が仮想通貨の「ステーキング」に参入する意味──暗号資産でインカムゲイン

世界最大の仮想通貨取引所バイナンス、アメリカ最大手の仮想通貨取引所コインベース・カストディなど、大手取引所が続々と仮想通貨の「ステーキング」ビジネスに参入、注目が高まっている。

仮想通貨のステーキングとは、ブロックチェーンのセキュリティに貢献するかわりに薄利を得る行為。保有している通貨をデポジット(ステーク)し、ブロックを検証するかわりに、一定の通貨の割り当てをもらう仕組みだ。なぜ大手取引所が次々と参入しているのだろうか。仮想通貨保有者にとってのメリットは何だろうか。

「利息を得られる」のがメリットのステーキング

先述したように、ステーキングではブロックチェーンのセキュリティに貢献するかわりに利益を得られる。仮想通貨の保有者からすれば、ステーキングに参加して保有している仮想通貨を預け入れておけば、利益がもたらされることがメリットだ。

ステーキング報酬がもらえるのは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)というアルゴリズムを採用している仮想通貨だ。PoSは「保有量」による証明でブロックを提案・検証してセキュリティを維持するもので、「計算量」によってセキュリティを保つプルーフ・オブ・ワーク(PoW、ビットコインなどが採用)とは異なる。

PoWでは、一番早く解をみつけたノード(参加者)に報酬が支払われるが、PoSでは一定以上の量の仮想通貨を保有してネットワーク維持の計算を行うノードに報酬が支払われる。

ただし保有するだけでは十分ではなく、ステーキングに参加するには一定の技術知識が必要だ 。難易度は決して低くなく、ステークした資産が毀損するリスクもあるため、大手取引所などの事業者がサービスとして提供しているのだ。

中には年利15%の銘柄も

なぜ大手取引所がステーキングビジネスに参入するかといえば、自らの保有する通貨をステーキングすることで、その通貨を預け入れている利用者(トレーダー)に対して一定額の還元を行えるからだ。

取引所やカストディアンにとって利用者を増やす手段になり、利用者にとっては持っているだけでは増えない仮想通貨を預け入れることで、利回りを見込めるというメリットがある。

冒頭で紹介した世界最大の取引所バイナンスや、コインベース・カストディのほか、大手カストディのビットゴーも2019年に相次いでステーキングサービスを始めている。中には利回りが年15%弱になる通貨もある。

ステーキングの対象銘柄は、バイナンスではNEO(NEO)やTRON(TRX)、Stellar(XLM)など計12通貨。コインベース・カストディはTezos(XTZ)のステーキング・サービスを提供。ビットゴーはDASH(DASH)とAlgoland(ALGO)のステーキングを始めると発表したばかりだ。

日本ではStirLabがTezos(XTZ)、Cosmos(ATOM)、IOST(IOST)、Waves(WAVES)を対象にステーキング・ビジネスを行っている

ステーキングビジネスで生じる課題

ステーキング・ビジネスが持つ意味は、キャピタルゲインが中心だった暗号資産にインカムゲインをもたらすことだ。この点、仮想通貨・暗号資産に対して、より“資産性”を与えるものと理解できるだろう。

ただし課題も指摘されている。たとえば、ステーキングによる利率よりも仮想通貨の変動幅のほうが大きくなるかもしれないし、事業者によるステーキングが盛んになってネットワークに問題が生じる可能性がある。PoSネットワークにステーク主体が集中し、トークンの寡占化が進むかもしれない。すると、特に生まれて間もない仮想通貨では、ブロックチェーンのガバナンスが損なわれる可能性があると懸念されている。

しかし仮想通貨事業者にとって、ステーキング・ビジネスは利用者獲得の策として他の事業者と差別化できる。仮想通貨のトレーダーにしても、保有しているだけでは増えないが、ステーキングに参加することで、インカムゲインが得られるかもしれないというメリットがある。このため、まだ進出していない取引所でも、参入が進む余地はありそうだ。

文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock