中国、ブロックチェーンにチャンスを見出す。アメリカはどう対応すべきか?

中国政府には「もしそうだとしたら」といった憶測的な声明を出す習慣はない。通常、計画について何かが公表される前には相当な準備と考慮が尽くされている。

だから、中国はブロックチェーン技術がもたらす「チャンスをつかむ」必要があるとする習近平国家主席の何気ない発言は詳細を欠いていたが、そこから何も生まれないと考えるのは賢明ではない。実際、CoinDeskのデビッド・パン(David Pan)が2019年10月28日(現地時間)に伝えた通り、中国ではかなりのブロックチェーン開発が進んでいる。

アメリカはどう対応すべきだろうか? うぬぼれた対応ではいけないことは間違いない。

中国からのニュースは、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOの議会公聴会での発言を支持している。ザッカーバーグ氏は同社の仮想通貨「リブラ(Libra)」計画についての証言の中で、アメリカはイノベーションにおいて遅れを取るリスクがあると警告した。

中国は力強く前進している。一方、アメリカはプロトタイプのテスト段階で長期間中断されるであろうプロジェクトをめぐって口論を続け、他の無数の仮想通貨のアイデアに規制上の障害を投げ込んでいる。

習主席の発言の意味

確かに仮想通貨コミュニティーの多くの人は、中国のブロックチェーン戦略に否定的だ。その理由は、中国の戦略は間違いなく、著しい中央集権化を意味するパーミッション(許可)型フレームワークに基づき、そこでは分散型台帳は規制され、信任された組織によって管理されるからだ(政府によって直接コントロールされなくても、厳格な監視と中国政府による介入の脅威に晒されたコンソーシアムや他の組織によってコントロールされる)。

その意味では、中国のブロックチェーン・アーキテクチャーは、ビットコイン、イーサリアム、その他のパブリックブロックチェーンのベースとなっている分散型でトラストレスな原則からは程遠いものになる可能性が高い。

ニック・カーター(Nic Carter)氏は10月25日、憤慨しながら、習国家主席の「ブロックチェーン」への言及をなぜ無意味と考えるのか、そしてビットコイン価格の大幅な回復の理由を習国家主席の発言とすることが同氏の見解ではなぜナンセンスなのかを伝えるためにツイッターに投稿した。


習主席が「ブロックチェーン」と言っただけで、皆、それに何か意味があるようなフリをしたのか?

だが、習主席の発言は確かに「何か」を意味していた。

中国の分散型台帳へのアプローチは仮想通貨の理想には及ばず、SQLデータベースでも十分に管理できる使用事例が含まれる可能性が高いからと言って、中国で何が起こっているかに背を向けて無視することはできない。

我々はこれらの動きを、中国が関連する分野で行っている他の進展の文脈の中で考えなければならない。例えば、中国は秘密裏に中央銀行デジタル通貨を開発中であり、情報を管理するために強力な新しい数学的ツールの開発を可能にする新しい暗号法を最近通過させた(これらのツールが中国政府の監視当局の手に渡れば、悪い方向に向かう可能性もある)。

ステーブルコイン、ゼロ知識証明などの次世代の暗号化ツール、MPCウォレットなどの他の準同型暗号を中国の関連技術のための「ブロックチェーン・プラス」フレームワークに組み込むことは、中国経済に真の競争上の優位性を与える効率性を解き放つ可能性がある。おそらく筆者が先日警告した、為替リスクに対処するスマートコントラクトベースのアプローチを可能にするだろう。

あるいは銀行などの規制を受けた組織が、個人や企業を特定するための新しいコンプライアンス・ソリューションになるかもしれない。あるいは中国の「一帯一路」プロジェクト内のサプライチェーンを加速させるための、より効率的な税関手続きにつながるだろうか?

アメリカの対応は?

これらすべては、中国に競争上の経済優位性を与える可能性がある。そして中国が開発を進めれば進めるほど、その知識と能力はさらに深まっていく。

繰り返しになるが、アメリカはどのように対応すべきだろうか?

理想的には、中国が簡単には採用できない技術開発のアプローチを採用すれば良い。すなわち、オープンで、パーミッションレス(非許可)型で、分散型のアプローチ──クローズドでパーミッションを必要とする(許可型)、中央集権型のブロックチェーンソリューションを批判する仮想通貨関係者が好むアプローチだ。

パーミッションレス(非許可)型であることは、ブロックチェーン技術に関して言えば、指定されたプロトコル上で誰でもアプリケーションを利用・開発できるオープンアーキテクチャーを意味し、ネットワーク上の参加者もしくはトランザクションに賛成や反対を述べる中央集権型の管理者は存在しない。

この技術はアンチマネーロンダリングや不正な金融行為を見つけるために支払いの監視を続けてきたアメリカの金融規制当局を激しく動揺させるが、長年アメリカの経済原則のスタンスとなってきたものと多かれ少なかれ一致している。つまり経済的成果を「正の和」の現象──より多くの取引行為が許可されるほど、より多くの価値と富が生み出されるとするアメリカの経済的思考における長年の伝統だ。

残念なことに、オープンネス(開放性)は現在、アメリカ経済における優先順位はかなり低い。主に国際的領域においてだが、国内的にも低い。

中国との厳しい関税戦争に特徴づけられるような、トランプ政権の貿易への保護主義的なアプローチと、お気に入りの業界に賞罰を与え、あらゆる交渉を勝者がすべてを得る『Art of the Deal(トランプ大統領の自伝のタイトル)』と捉えるトランプ大統領の傾向は、内向きでクローズドなゼロサムゲームの考え方を反映している。

それでもアメリカには、敵よりも、よりオープンでいることで敵に打ち勝ってきた長い歴史がある。共和党の故ロナルド・レーガン大統領が主導した冷戦の勝利は、まさにそれだ。冷戦後のビル・クリントン大統領の民主党政権でもその伝統は続いた。当時、世界中で相次いた自由貿易合意や新自由主義的な改革の中、アメリカ外交はオープンインターネットの基礎を築いた。

地域電話会社に競争を受け入れさせた1996年電気通信法で見本を示したアメリカは、他国もそれに従わせるためにアメとムチの戦略を使った。発展途上国では政府が所有する時代遅れの古い電気通信事業者は民営化され、外国資本の競合の参入が許可され、インターネットの成長を可能にする光ファイバーケーブルとスイッチング技術への投資が流れ込んだ。

新たなチャンス

これらは昔の話。問題は、それらを再現できるかどうか。

仮想通貨とブロックチェーン技術のための規制と技術的なフレームワークを定義している国際的な試行錯誤はきっかけになるかもしれない。ここでの目標が、ビジネスと統治体制における西洋型モデルが、中国の政府主導の大手企業を打ち負かすことなら、この非常に重要な技術へのオープンで、パーミッションレスなアプローチは中国政府に圧力をかける方法となるかもしれない。

オンラインの世界は、TCP/IPをベースにしたオープンなインターネットがAOLやフランスのミニテル(Minitel)のようなクローズドループのイントラネット型ネットワークを打ち負かした。ゆえに、パーミッションレスなイノベーションとオープンなブロックチェーンモデルを採用するアメリカには、中国に打ち勝つチャンスがある。

だがビットコインや、リブラや他のステーブルコインを含む仮想通貨に対する障害を取り除くような、ワシントンの政治姿勢を期待している訳ではない。

なぜなら1つ目には、それらの普及を暗黙のうちに勧めることは、最終的に世界の準備通貨としてのドルの地位を失わせる可能性がある。正しいことだが、政策決定としてはほとんど理解しがたい。

2つ目にはすでに記した通り、トランプ大統領はクローズドループのゼロサムゲーム型の政治家。大統領はすでに、ビットコインへの嫌悪感をはっきりと表明している。

しかしアメリカは依然として民主主義の国だ。政治環境は変化する可能性がある。次の大統領が誰であれ、報復ではなくてオープンネスで中国と戦うことにチャンスを見出してくれることを願おう。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Door image via Shutterstock
原文:China Seizes the Blockchain Opportunity. How Should the US Respond?