仮想通貨ファンドのCIO(最高投資責任者)とは、こういう仕事だ

ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)は仮想通貨資産運用会社アルカ・ファンズ(Arca Funds)のパートナーであり、 ウォール街やフィンテックで18年の経験を積み、仮想通貨資産戦略・商品の開発を専門としている。本稿の見解は筆者個人のものである。


仮想通貨ファンドを1年間運用してきて、確かなことがひとつある。非常に疲れるものだ。しかし同時に、私はかつてないほどにやる気にあふれている。

アルカ(Arca)はフラッグシップであるデジタルアセットファンド(Digital Assets Fund)のリミテッドパートナー出資金の運用の最初の1年を終えたところだ。私は最高投資責任者(CIO)として、機関投資家が現在扱えるものの中で最も新しく、最も誤解され、潜在的に最も収益力の高い資産クラスの構築、ローンチ、資金運用における多くの試練を、身をもって経験した。

この1年間を振り返り、これからどこに向かうのかを考えてみたい。

チームと戦略の構築

仮想通貨ファンドを始めるというのは、自動車が発明されている最中にウーバー(Uber)を作り上げようとするのに非常によく似ている。

我々は、サービスプロバイダーやシステム/ツールからさらにはバリュエーションの手法まで、あらゆるものが新しい未完成のデッキで働いている。この1年間は投資段階だったので、事業開発のようなものだった。仮想通貨ファンドの運用というのはすべてを含んだ24時間年中無休の仕事であり、顧客との長期的な信用の構築に近道などない。

伝統的な世界では、1億5000万ドル(約160億円)に満たない資産ではファンドを始めようともしないだろう。運用報酬が1.5%の場合、優秀な人材を雇用し健全な運用慣行を確保するのに必要な給与とインフラに年間225万ドル(約2億4000万円)が費やされる。では、運用資産額の中央値が500万ドル(約5億4000万円)に満たない仮想通貨ファンドの場合、同様の能力を持つチームをどのように構築するのだろうか。

まず、無駄がない。誰もが複数の仕事を担当する。我々が求める能力には、ニッチな専門性はもちろんのこと、柔軟性も含まれる。もしかしたら、情熱がより重要で欠かせないものかもしれない。従業員のモチベーションは単に期待される報酬以上のものから生まれなければならないからだ。

従業員と投資家は、ファンドの投資プロセスや能力が一貫していて拡張可能であることを理解しているので、投資戦略がチームと同様に重要となる。常に変化している業界であっても、一貫した過程と手順を実行し、セクターやファンドが成長する中で再現性を確保しなければならない。これを正確に行うためには、サービスプロバイダーの支援が必要だ。

オペレーション上の難点

おそらく最も意外で時間のかかるのは膨大な数のサービスプロバイダーの管理であり、これが多くの仮想通貨ファンドの成長を妨げている。

伝統的な資産運用では既存企業が幅を利かせており、1年に3回、新規サービスプロバイダーを評価するだけでよい。仮想通貨では、1週間に3回、サービスプロバイダーを評価している。規制がなく、支配的な既存企業もなく、ベンチャーキャピタル資金も豊富なので、サービスプロバイダーの参入障壁はないに等しい。非効率なレガシーツールに依存することなくゼロから始めるので新鮮だが、その一方で、多くのサービスプロバイダーは資産運用サービスの経験が少ない。

私は伝統的な投資銀行のセルサイドで10年勤務した後、2011年に初めてバイサイドに移った。そしてすぐに、以前のクライアントがどのように仕事をしていたのかを自分がほとんど理解していなかったことに、同じ立場に立って初めて気づいた。互いの業務を理解するため、セルサイドであればバイサイドで、あるいはその逆で、誰もが3か月のインターンシップを行うべきだとよく冗談を言っていた。

このアドバイスは、仮想通貨にも当てはまる。サービスプロバイダーの多くはクライアントと協力してそのニーズを理解しようとするのではなく、ファンドや投資家にとって必要だと自分たちが考えるツールを構築している。例えば50か所以上の新しい取引所が私にビットコインを取引して欲しいと言うが、なぜそうすべきかを3文で明確に示すことができる取引所はほとんどない。

とは言え、適切なデューデリジェンスを行うまでは、いかなる企業も退けることはできない。機関投資家との長期的な信頼の構築には、こうしたソリューションを正しく行うことが必要だからだ。我々は仮想通貨の優れた新規スタートアップとともに、ゆっくりと前進してきた。CIOとしての私の職務は、こうした企業によるベストなソリューションの構築を支援することだが、前に進む前に、自分のファンドや投資家のニーズが解決されるまで待つことでもある。

24時間、年中無休のリスク管理

チームとシステムを確立したら、実際に投資で利益を出さなければならない。

この業界の誰もが知っているように、仮想通貨市場は決して眠らない。この記事を書いている間にも、私は休憩を6回とって我々のリスクと投資の価格の動きを確認している。しかしながら一般に信じられているのとは逆に、この投資スペースは「24時間体制」の取引を必要としない。規律あるリスク管理手順、チームメンバー間や取引規制当局との継続的なコミュニケーション、「木を見て森を見る」ために明確に考えることができるようコンピューターの画面から離れる意志が必要になる。

24時間年中無休の取引は仮想通貨投資の特徴であって欠陥ではないが、従来からの金融システムの取引時間にはいくつかの利点がある。最悪の週にも終わりがあり、市場はまとめてリセットできる。仮想通貨には(参加者が手動で強制的に行わない限り)リセットはなく、モメンタムには自然のオフスイッチはない。

ボラティリティの管理は勤務時間中でさえ難しい。お腹をすかせた2人の子供の夕飯を作りながら自宅から管理するのは不可能に近い。このため、最良のトレーダーやアルゴリズムよりも、プロセスと計画が大事となる。我々は常に必要に応じて誰かが取引を実行できるようにしているが、単に市場が開いているからといって投資を強いられないというのは非常に大きな利点である。

資金調達

もちろん、優秀なチームと拡張可能な戦略があるからといって、投資家が資金を投じてくれるわけではない。

この業界として新しいことは、すべての資産運用会社にとってもそうであり、この領域に対する資金の配分を探っている投資家にとってはより一層、馴染みのないものだ。伝統的なヘッジファンドはまだ1982年であるかのようにふるまうことが多い。当時は他の9つのヘッジファンドがベストアイディアを盗まれないように、秘密であることが重要だった。しかし現在の、継続的なコミュニケーションと相互接続性の世界では、ファンド間の激しい競争は言うまでもなく、投資家の信頼を得るには透明性がカギとなる。

我々は投資家や潜在的投資家の教育に膨大な時間を費やす。この資産クラスにはこれが必要であり、顧客基盤が新しく、既存の仮想通貨投資家とはリスク許容度が異なる場合には特に当てはまる。

資金調達が確立されている分野よりもプロセスが長くなる可能性はあるものの、コモディティ化された取引販売ではなく、教育に基づいた長く続く関係を構築する機会がある。

仮想通貨ファンドと伝統的ファンドの比較

多くの仮想通貨投資家には技術的なバックグラウンドがあり、初めて他人資本を運用する方法を身に着けようとしているが、我々は正反対のアプローチをとっている。

リスクの管理方法の理解は必須スキルで、他のすべてのことは学ぶことができると考えている。自動車整備士に自分が保有する自動車株を運用してもらいたいだろうか。医者が患者の保有するヘルスケア株を運用するだろうか。同様に、デベロッパーが仮想通貨資産を運用するべきではない。私の20年にわたる金融業界でのキャリアでは、2か月間は企業の分析方法を学び、2年間は取引方法を学び、20年間(そして今も)はリスクの管理方法を学んできた。近道などない。

伝統的金融における我々のバックグラウンドは、リスク管理モデリングからマーケティングまで、日々役に立つ。大人になってからの生活が楽になるので12歳の時にプログラミングを身につけておけばよかったと考えるが、それと同時に、それによって今よりも優れた仮想通貨ファンドマネージャーになれたとは思わない。伝統的な世界において「2人の人間とブルームバーグ(Bloomberg)」がそれほど成功したヘッジファンド戦略ではないのには理由がある。1人や2人ですべてをうまくやるのは不可能になっているからだ。CIO、ポートフォリオマネージャー、リサーチアナリスト、トレーダー、バックオフィスの役割は大きく異なり、仕事を適切に行うには特別なスキルが必要だ。

ポートフォリオチーム全体で様々な観点のバランスの取れたアプローチをとることで、この資産クラスの実際のリスクと投資機会をより客観的に考えることが可能となる。

実際には、仮想通貨は技術商品でも金融商品でもあり、両方の包括的な知識を持つことで勝利の方程式が作り出される。これらの役割や違いが明確になれば、仮想通貨ファンドの運用は、株式や債券、マネージドフューチャーズのファンドと何ら変わりはない。ポートフォリオマネージャーはリスクを管理し、アナリストは分析し、トレーダーは取引を行い、CIOはすべてをまとめる。

最後に

この記事の冒頭で、私は疲れ果てながらもやる気にあふれていると述べた。この2つは矛盾すると思われるかもしれないが、仮想通貨では筋が通っている。この業界のスピード、成長、可能性は、毎日、毎分、私やチームに火をつける。

学び、読み、話すべきことが非常に多くある。しかしこれは他のことをする時間がほとんどないことも意味する。燃え尽きえるリスクも現実的だ。

我々は最近、強制的な休暇を定め、価格を思考プロセスの要因とせずに考えることができるように、日中の短い時間、コンピューター画面の電源を何度も切っている。リアルタイムで捉えない小幅で短期的な価格の動きは、より大きく持続的な動きをとらえるくらい明晰に考えることのできる能力で相殺されることが多いと、気付き始めたのだ。

私は自分のキャリアのすべてを投資か事業の構築に費やしてきた。今ではそれを同時に行うようになっている。CIOとして最もやりがいがあるのは、今が次の大きな世界的技術進歩の幕開けであることを知ることだ。この業界への新たな人材の求人を行うことができるグローバルなプラットフォームがあり、投資家をこの資産クラスに導いてきた。我々は常に文章を書いたり話したりしているが、これは我々の外部教育プロセスと同じくらい内部投資プロセスの重要な要素である。

この領域がさらに進化していく中で、私の仕事も必然的に形を変えるだろう。それは極度の疲労を切り抜けるのに十分なほど、私を興奮させるものだ。

翻訳:Emi Nishida
編集:T.Minamoto
写真:Maze image via Shutterstock
原文:What It’s Like Being CIO of a Crypto Fund