
デジタル資産の所有権は、ブロックチェーンゲームの決定的な特徴であり、同時に大きな障壁でもある。これは、ブロックチェーンゲームの進化の複雑さを反映しているとコンサルティング企業Emfarsisのディレクター、リア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)氏は述べる。
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私の会社Emfarsisは毎年、Blockchain Game Alliance(BGA:ブロックチェーンゲームアライアンス)と提携して、ブロックチェーンゲーム業界を対象とした調査を行っている。そして毎年、回答者の圧倒的大多数は、デジタル資産の所有権がブロックチェーンがゲームにもたらす最大のメリットと答えている。今回も例外ではなく、71.1%が第1位にあげている。
業界に参入する人が増えても(2024年、回答者数は2021年の第1回調査の約3倍)、業界の誰もが認める指針であり、目標は変わらず、デジタル資産の所有権だ。
だが、我々はデジタル資産の所有権をブロックチェーンゲームの特徴として称賛しているが、今のブロックチェーンゲームのほとんどは無料でプレーでき、資産の所有権をまったく必要としない。加えて、デジタル資産の所有権を前提として大々的にアピールされてきたことは、ほとんど実現されていない。
どうやら、ブロックチェーンゲームは奇妙なジレンマに陥っている。つまり、ゲーマーにとってベストな提案だったものが、同時に言い訳すべきことになっている。
Play-to-Earnのハードル
デジタル資産の所有権は常にブロックチェーンゲームの核心的要素であり、トークンやNFTとしてゲーム内資産を所有・取引・マネタイズできる真のデジタル所有権がプレーヤーに与える。
2020~21年のPlay-to-Earn全盛期には、デジタル資産の所有権は、ブロックチェーンゲームと従来のゲームを区別するものだった。初期のゲームでは、プレーヤーは1つ以上のNFTを事前購入する必要があった。
だがこれは新規参入のハードルとなり、多くの人はNFTを購入する余裕がなかったり、あるいは、まだ好きかどうかわからないゲームでNFTを購入することをシンプルにためらった。
もちろん、これらのNFTは昔ながらの単なるゲーム内資産ではなく、収益を生み出すものだった。ブロックチェーンゲームでNFTを購入することは、仕事のために必要なツールに投資するようなことで、暗号資産を稼ぎ出すものだった。
起業家精神を持つNFT所有者の中には、収益の一部と引き換えに、資産をプレー希望者に貸し出す者も現れた。
これは、おそらくブロックチェーンが可能にする分散型でパーミッションレスなイノベーションを示すものであり、ゲーム開発者ではなく、プレーヤーが生み出したコミュニティ主導の仕組みだった。
代替策としてのFree-to-Play
驚くべき仕組みだったが、Axie Infinity(アクシーインフィニティ)、Pegaxy、CyBallといった初期のブロックチェーンゲームで人気となったレンタルシステムは、実際には新規参入の問題を解決できなかった。資産の入手は難しく、参入コストが高かったため、ボトルネックが生まれ、レンタル需要を満たすことはできなかった。
2022年までには、代わりに障壁を下げ、より幅広いユーザーを引き付けるために、Free-to-Playモデルが登場し始めた。ゲームにおけるブロックチェーンを使った機能は、プレーの前提条件ではなく、オプションの強化機能として扱われるようになった。
プレーヤーは、あとで資産を購入することも、資産を獲得するために時間と労力を費やすこともできたが、その選択はプレーヤーに委ねられた。資産を獲得することは、必須ではなくなった。
こうした動きは、ブロックチェーンゲームが金融化よりも、楽しさに重点を置くことが求められた時期と重なっている。
巨大で、魅力的な2200億ドル規模のゲーム市場でシェアを獲得したいなら、必要なことと考えられていた。ゲーム市場を構成する数十億のゲーマーは、暗号資産ウォレットをインストールしようとは思わないし、ましてやNFTのためにお金を費やそうとはしない。
大きな矛盾
この矛盾、つまりデジタル資産の所有権が決定的な特徴であり、同時に大きなハードルでもあることは、ブロックチェーンゲームの進化の複雑さを反映している。所有権はブロックチェーンゲームを特別なものにする一方で、所有権を要求することはプレイヤーを遠ざける。
今、Web3に詳しくない従来のゲーマーを引き付けるために、開発者はアクセシビリティを優先している。
BGAの「2024 State of the Industry Report」もこれを裏付けている。業界が直面している最大の課題について、半数以上(53.9%)が新規参入における難しさとユーザーエクスペリエンスの悪さをあげ、33.6%がブロックチェーンのコンセプトが十分には理解されていないと回答している。
つまり、明確で具体的なメリットがなければ、デジタル資産のオーナーになるための努力とコストを理解してもらうことはできない。選択肢というより面倒な作業のように感じる、扱いにくい技術要素を初心者に売り込もうとする開発者にとっての大きな問題点は明らかだ。プレーヤーに強制しない方向にシフトした理由も明確だ。
どれだけブロックチェーン要素を削るのか?
だが、新しい疑問が湧いてくる。ブロックチェーンゲームから、どれだけブロックチェーン要素を削ることができるのだろうか?
オンチェーンエクスペリエンスを取り入れた中途半端なアプローチは、プレーヤーがゲームAの剣をゲームBで使用できるといったインターオペラビリティ(相互運用性)のような変革をもたらし得るWeb3ネイティブのイノベーションが、ほとんど理論に留まっていることを意味している。
NFTのプロフィール写真(PFP)コレクションをプレー可能なアバターにするなど、ある程度の進歩は見られたものの、これは主に既存のWeb3コミュニティに対応したもので、Web2のゲームユーザーを引き付ける明白なメリットではない。
真の相互運用性には、技術的にも経済的にも業界全体のコラボレーションが必要だが、チェーンやエコシステムは依然として断片化したままだ。
一方、開発者はWeb3をユーザーから隠し、決定的な機能ではなく技術要素レイヤーとして扱っている。そのため、ほとんどのプレーヤーにとって、「Web3」パートは隠されたオプションに過ぎない。その影響力はシリアルの箱に入っている「おまけのスプーン」程度だ。
誇張された所有権
率直に言って、Web3における「所有権」の考え方はきわめて誇張されており、実質的なプロダクトマーケットフィットにはほとんど裏付けされていない。しばしば販売されているWeb3の所有権は幻想だ。
現実はこうだ。すなわち、NFTを「所有」していても、そのユーティリティと価値は多くの場合、開発元の中央集権型インフラと運用に完全に依存している。Web3が実際に提供しているのは、資産に対する権限の拡大であり、より迅速でスムーズな販売を可能にしている。だが本当の所有権だろうか? そうではない。
Web3の所有権が持続可能な需要を促したことを示すエビデンスは実際ほとんど存在しない。とはいえ、デジタル資産をより強くコントロールできる能力は間違いなく価値がある。ただし、しばしば主張される「真の所有権」ではない。
Loot NFTのような、完全なオンチェーンゲームで創造性を刺激する非常に有望な試みもあった。コンポーザブル(組み合わせ可能)な構造により、開発者はオリジナルのクリエーターによる承認や指示を必要とせずに、派生プロジェクト、ゲーム、エコノミーを構築できた。
新たなイノベーション
デジタル資産の所有権に関して、新しいイノベーションも登場している。イーサリアム規格のERC-6551、ERC-4337、ERC-404、ソウルバウンドトークン(SBT)などだ。
ERC-6551 はトークンバウンドアカウントを導入し、NFT自体が独自ウォレットとして機能できるようにした。ERC-4337はアカウント抽象化を実現し、中央集権的な管理者に依存することなく、セキュリティとユーザビリティを向上させるカスタマイズ可能なウォレットを実現する。
ERC-404は、ファンジブル(代替可能)トークン(FT)とノンファンジブル(代替不可能)トークン(NFT)の機能を組み合わせることで、ユニークでありながら、分割可能なデジタル資産というフレキシブルな所有権を実現する。SBTは、譲渡不可能でIDとリンクした資産として、信頼や評判のためのクレデンシャル(認証情報)となる。
まだ普及の初期段階だが、こうした進歩は、デジタル所有権がなければ決して実現できなかった体験をゲーマーに解き放つ。そして、BGAの年次調査の結果でも明らかなように、デジタル資産の所有権の魅力は依然として強い。デジタル資産は、プレーヤーに主体性、コントロール、価値を与える。
現在の課題は、まずプレーヤーに楽しんでもらい、自然と所有権の価値を知ってもらうことだ。だが、私たちが本当に信じていることを主張することをためらってはならない。私達のビジョンへ誰かを巻き込みたいなら、デジタル資産の所有権のメリットを最初から示す体験を開発する必要がある。
そうでなければ、私たちは結局、特別なことなど何もしていないのではないだろうか?
|翻訳:T.Minamoto
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:The Ownership Paradox: Why Blockchain Games Have Betrayed Digital Property Rights