
ブロックチェーンは、その分散型の構造、安全性、透明性の高さにより、産業の再構築を促す変革の原動力として台頭してきました。現在も進化を続けるブロックチェーンの発展過程や応用について、より深い理解が求められています。また、ブロックチェーンの潜在能力を最大限に活用するにはエクスポネンシャル(指数関数的)思考も必要です。
本稿では、ブロックチェーン、トークナイゼーション、デジタルアセットが、従来の金融サービスおよび銀行業界を変革するテクノロジーとして急速に台頭している現状について、2024年にマネックスグループ入りしたカナダの暗号資産運用会社3iQのPresident & CEO パスカル・サン=ジャン(Pascal St-Jean)が解説します。
デジタルアセットの革新を推進する上で、ブロックチェーンと暗号資産関連の企業は重要な役割を担っています。市場の変動性への対応、規枠の枠組みの整備、そしてテクノロジーの可能性を最大限に引き出すためのコラボレーションも大切です。また、暗号資産ETFやETPの登場、DAO(分散型自律組織)の誕生、DeFi(分散型金融サービス)の成長、web3の進化についてもお伝えします。
ブロックチェーンの可能性を理解するためには、リニア(線形)思考からエクスポネンシャル(指数関数的)思考への切り替えが必要です。リニアな成長は安定的で予測可能ですが、エクスポネンシャルな成長は急速で変革的な進展になるのです。この考え方は、初期の小さな変化がいかにして大きな影響を与えるかを見極めるために欠かせません。
ブロックチェーンは、エクスポネンシャルな成長可能性をの可能性を秘めており、金融、ヘルスケア、サプライチェーンマネジメントなど、さまざまな分野において従来の常識を覆すかもしれません。
暗号通貨ETFとETPが投資の常識を変えた
3iQは北米でビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨のETP(上場取引型金融商品)を提供するパイオニアとしてビジネスをしてきました。今やデジタルアセットは金融市場のメインストリームになりつつあり、ETPだけでなくETF(上場投資信託)も米国、欧州、香港、オーストラリアに広がっています。これらの商品は、暗号資産へのアクセスを民主化し、投資家が暗号資産を直接保有または管理することなくデジタルエコノミーに参加することを可能にします。
デジタルアセットの広がりはグローバルな流れであり、その中でETPとETFはイノベーションの鍵になっています。過去1年間のBlackRockなどのビットコインETFの成功を見るだけで、デジタルアセットがいかに成熟したかがわかります。
暗号資産取引所はデジタルエコノミーへのゲートウェイ
暗号資産取引所は、法定通貨とデジタルアセットの橋渡しをする上で極めて重要な役割を果たしており、デジタルエコノミーへのゲートウェイとしての役割を担っています。単に暗号通貨の取引をするだけでなく、暗号資産関連のさまざまなサービスを提供する総合的なマーケットプレイスへと進化しています。
たとえば、Coinbase、Coincheck、WonderFiなどのプラットフォームはこの変化を象徴する存在であり、デジタルアセットへのアクセスを容易にしエコシステムの成長を促進しています。これらのプラットフォームは、コインチェックグループがNASDAQに上場したことに見られるように、金融経済の基盤の一部としてますます受け入れられつつあります。ブロックチェーンの実装が進む中、暗号資産取引所は新規のユーザー獲得と活気あるデジタルエコノミーに必要なインフラのサポートにおいて、重要な役割を果たすでしょう。
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ブロックチェーンは次なる技術革命の一部

ブロックチェーンの歩みは、1990年代後半のインターネットバブル(dot-com bubble)などの過去の技術革命と類似しています。インターネットの初期段階と同様に、ハイプサイクルの渦と懐疑的なまなざしが向けられてきました。しかし、こうしたサイクルは、より強力でレジリエンスのあるイノベーションにつながることも多いのです。こうしたパターンを理解することで、市場の変動性に対応し、長期的な成長に焦点を当てることができます。過去のインターネットバブルから得られた教訓は、新しいテクノロジーの可能性に気付き、忍耐をもって戦略的投資をすることが重要だということです。
トークナイゼーションが金融とアセットマネジメントのあり方を変える

これは2023年から2028年の5年間のデジタル・ディスラプションのイメージです。デジタルアセットが伝統的な金融をどのように変革しつつあるかを示しています。この流れはとどまることなく進行し、40倍を超える成長を見込んでいます。
トークナイゼーションとは、現実世界の資産をブロックチェーン上のトークンに変換するプロセスであり、アセットマネジメントに革命をもたらしています。不動産、美術品、債券などのアセットをトークン化することで、共有所有も可能になり、アクセス性と流動性が向上します。これにより新たな投資の機会が生まれ、従来の市場の仕組みを再構築します。
主要な金融機関は、アセットマネジメントと取引の近代化のためにトークナイゼーションの可能性を模索しています。このトレンドは、金融システムの効率化、コストの削減、透明性、そして包括性を約束しています。これにより、資産運用会社は現在よりもはるかに幅広い層にリーチする機会が生まれます。
DAO(分散型自律組織)は、ガバナンスの新しいモデルとなる

このグラフは、DAOが伝統的なベンチャーキャピタルをますます仲介しなくなりつつあることを示しています。2020年末現在、DAOのAUMは約3億ドルに過ぎませんでしたが、2024年3月のAUMは425億ドルまで増えたのです。
DAOは、ガバナンスと意思決定の画期的な転換点になります。 ブロックチェーンベースであるため中央集権的な管理を必要とせず、スマートコントラクトと集団投票によって意思決定を行います。個人が直接参加できるようになり、従来の中央集権的なガバナンスと意思決定プロセスが民主化されます。リソースのプールから資本配分まで、投資手法を再構築しイノベーションを促進しています。 しかし、DAOの成功にはセキュリティと透明性の確保が不可欠です。
DeFi(分散型金融)は投資家にデジタル利回り(Digital Yield)をもたらす

このグラフは、DeFiがいかに急成長し、投資家にデジタル利回りをもたらしているかを示しています。2024年5月時点でDeFiプロジェクトに預けられた暗号資産の総量は1,750億ドルまで増え、2023年10月の720億ドルからの2倍以上に成長しています。
デジタル利回り(Digital Yield)の概念は、従来のプライベート・クレジット市場(信用市場)に変革をもたらしています。DeFiプラットフォームは、ブロックチェーンの自動化と透明性を活用してリターンを生み出し、リスクを軽減しながら革新的な投資機会を提供します。これらは金融市場のフロンティアであり、アルタナティブなアプローチとデジタル利回りによってプライベート・クレジット市場を変革する可能性を秘めています。
インターネットの次の命題はweb3

web3は、ユーザーが自分のデータと資産を所有し、管理する分散型ネットワークを導入することによって、インターネットとの関わり方にパラダイムシフトをもたらします。ブロックチェーンとスマートコントラクトは、この進化の中心であり、より安全で透明性が高く、ユーザー中心のデジタルエコノミーを実現します。web3の分散型モデルは、ユーザーをエンパワーし、革新的なアプリケーションとサービスへの道を開きます。
おわりに
ブロックチェーンの未来は、これまで述べてきたようなエクスポネンシャルな変化が受け入れられるか次第なのです。トークナイゼーション、DAO、DeFi、web3、その可能性は広大であり、変革をもたらす力があります。私たち3iQは、イノベーションと規制の整備の矢面に立ち、これらの変革の最前線をリードしていきます。
3iQ Digital Holdings Inc.はカナダのオンタリオ州でライセンスを取得し、北米で初めてビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の取引所上場ファンドを立ち上げた暗号資産運用会社。トロント証券取引所でビットコインとイーサリアムのETFをいち早く導入することでマーケットリーダーとしての役割を確固たるものにし、世界で初めてイーサリアムETFにステーキング機能を統合するなど、新境地を開拓。また、革新的な投資プラットフォーム「QMAP」を通じて、業界初の包括的な暗号資産ファンド投資プラットフォームを運営しています。
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