
Fintech協会とCoinDesk JAPANが共催したWeb3勉強会「トランプ政権とデジタルマネー〜日本の金融機関が直面する、2025年の転換期とは?」が1月29日、東京・茅場町にあるFinGATE KAYABAで開かれた。地域通貨と地方創生、トランプ政権がWeb3や暗号資産(仮想通貨)に与える影響の2つのパネルディスカッションが行われた。
1月20日、暗号資産に積極的な姿勢を示すトランプ氏が第47代米大統領に就任。国家によるビットコイン(BTC)の戦略備蓄など、Web3が金融業界に与える影響も大きいと予測され、世界中から注目が集まっている。
デジタル通貨が地方に果たす役割
第一部では、「国内デジタルマネーの普及と地域創生の未来」と題されたパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、金融庁銀行二課 地域金融支援室長(兼)の和田良隆氏、桜美林大学准教授の木内卓氏、フューチャー取締役グループCSOで、デジタル通貨フォーラム座長の山岡浩巳氏、鹿児島銀行 デジタル統括部 基幹インフラ開発グループの佐伯卓哉氏。モデレーターは、Fintech協会理事/リクルート プロダクト統括本部シニアエキスパートの三輪純平氏が務めた。

三輪氏はまず通貨システムの歴史的変遷について触れ、日本では江戸時代から近代の金融システムに近づいてきたと説明。近年の地域通貨導入が目指しているのは、円単位では表現し切れない価値を実現し、社会的に共有する仕組みであるという早稲田大学の鎮目雅人教授の言葉を紹介した。続けて、銀行の当座口座の地域発行が停止になっている動きなども踏まえ、ステーブルコインやトークン化預金が地域に果たす役割について各登壇者に聞いた。
信用創造機能を活かしたデジタル通貨
大手銀行など100社以上が参加する「デジタル通貨フォーラム」座長を務める山岡氏は、同フォーラムが手掛けるDCJPYを「トークン化預金」に分類できると説明。ステーブルコインとの違いについて、トークン化預金は銀行預金のデジタルトークン化であるのに対し、ステーブルコインは国債なども担保とする点を指摘した。
さらにステーブルコインは、国債などを裏付け担保とする場合、銀行が担ってきた信用創造機能を持たず、経済社会が必要とする通貨を安定的に供給できるかどうかは学界でも議論されていると述べた。その観点から、銀行の信用創造機能を活かせるデジタル通貨が求められるとし、トークン化預金の重要性をあげた。
また、地域通貨の可能性は古くから指摘されてきたが、なかなか広がらなかった理由はトランザクションコストの高さとプレミアム賦与のコストにあったと説明。しかし、現代のデジタル技術を使えば解決できる可能性があり、だからこそ「デジタル技術革新に伴い、古くからある地域通貨論が再燃している」とまとめた。
鹿児島銀行の佐伯氏は、同行が作ったスマホ決済アプリ「payどん」を引き合いに、地域通貨の活用事例を説明。会員は約15万人で、地域のキャッシュレス決済促進に一役買っている現状を話した。

「何度目かのブーム」が来ている地域通貨
地域通貨に「何度目かのブームが来ている」と話す桜美林大学の木内氏は、昔は紙で発行していた地域振興券が今では手軽に運用できるようになったと説明。一方で、地銀が自発的にサービスを開発する事例はまだまだ珍しいと述べた。○○コインや○○payといった地域通貨は、自治体主導であることが多いと話し、5年、10年とユーザーを定着させるためにはNFTやトークン化預金などを組み合わせ、「トークンを介することで、もっと付加価値がつくようにする」ことが重要だと説明。そうすると地銀にとってもメリットが生まれ、単なる決済手段以上の存在になるだろうと述べた。
金融庁の和田氏は地域経済の活性化について言及し、現状では有形資産に乏しいスタートアップ企業などが融資を受けにくいと指摘。新しく創設された企業価値担保権の活用により、地域金融機関が借り手との距離をより縮めることができ、例えば、資金繰り支援の手法として、デジタル通貨を活用することもあり得ると述べた。また、飛騨地域限定の「さるぼぼコイン」や木更津市限定の「アクアコイン」といった地域通貨の活用事例を紹介した。
「リップサービス」ではなかったトランプ氏
続いて第二部では、「トランプ政権で変わる?グローバルWeb3金融の地図」と題されたパネルディスカッションが行われた。Laser Digital Japan代表取締役社長の工藤秀明氏とEight Roads Ventures Japan ベンチャーパートナー、Kyash社外取締役、AnyMind Group社外取締役の北澤直氏が登壇し、モデレーターはN.Avenue/CoinDesk JAPAN 代表取締役 CEOの神本侑季が務めた。
北澤氏は暗号資産業界に関して、バイデン政権下ではビットコインの現物ETF(上場投資信託)承認くらいしか前向きなニュースはなかったとし、世界的な盛り上がりにも欠けていたと振り返る。ただ、トランプ大統領の暗号資産に対する前向きな発言も「当初はリップサービスだと思っていた」と明かした。
しかし、トランプ氏は1月23日に暗号資産や金融技術の促進を目的とした大統領令に署名。作業部会を設置し、各省庁に対して①30日以内に暗号資産に関する規制をすべて洗い出す②60日以内にその規制を改正するか廃止するか決める③180日以内に最終報告を提出すると指示するなど、「ものすごいスピード感で動いている」という印象を語った。

アメリカでは国を挙げて暗号資産をサポートする動きになっているとしたうえで、DOGE(政府効率化省)を率いるイーロン・マスク氏も国の支出削減などにブロックチェーンを有効活用しようとしていると述べた。こうした状況もあり、これまで国外に出ていた暗号資産業者も、アメリカ国内に戻ってくる動きが出始めているとも話した。
活気づく機関投資家
工藤氏は「大統領選が行われた11月5日の段階で、世界は大きく変わった」と指摘、暗号資産に対するアメリカの動きに驚きはないと述べた。トランプ政権下で着々と改革が進んでいくだろうと見通すが、とはいえ、スピード感にはびっくりさせられたと印象を話す。同社にも昨年の大統領選後から機関投資家などの問い合わせが増えていると述べ、資金の動きは活気づいてきたと明かした。
アメリカでのビットコイン準備金構想について話が及ぶと、州レベルではあるものの、アリゾナ州ではすでに、ビットコインの準備金法案が上院の委員会で可決されたと北澤氏が紹介。ケンタッキー州やペンシルベニア州でも追随するような同様の動きが見られ、ビットコインは投資対象としてだけでなく、インフレ対策にもなるアセットクラスになってきていると解説。「そこが日本と大きく違う点」と指摘した。
北澤氏は続けて日本の状況についても言及し、大前提として税制の整備が大切としたうえで、ユースケースが日本で根付くことが大切だと述べた。ステーブルコインはその1つになる可能性があるとし、まだブレイクスルーはできていないが、世界的な暗号資産の盛り上がりの中で日本でもユースケースが登場するのではないかと話すと、工藤氏も同様に期待を寄せていた。

ポリマーケットというマスアダプション
北澤氏は、ステーブルコインなどブロックチェーンを活用したサービスがマスアダプションしていくなかで、使われている基盤技術をユーザーは意識しないと指摘。とにかく使い勝手を向上させることが重要だと話した。その一例として、分散型予測市場Polymarket(ポリマーケット)の存在を挙げた。同市場は大統領選で注目を集め、選挙結果に賭けるという法的問題はあるとしつつも、アメリカ人の多くがPolygon(ポリゴン)ブロックチェーン上で動いていることを知らずに使っていたと解説。それでも人気が出た状況を踏まえ、マスアダプションのあり方として一つ参考になる事例だと感じたと話した。
資産としての価値はすでに認められてきている暗号資産。今後、Web3の技術はどのように活用されていくのか。トランプ大統領就任の追い風を受け、世界でさまざまなユースケースが出ているなか、日本でもステーブルコインやトークン化預金などのユースケース登場に注目が集まっている。
|文:橋本祐樹
|撮影:CoinDesk JAPAN編集部