
メルカリの新規NFTマーケットプレイス「メルカリNFT」は、2025年1月28日のサービス開始直後からWeb3界隈で物議を醸している。
最大の論点は、NFTの保有形態だ。メルカリNFTで購入したNFTは、ブロックチェーン上ではメルカリのウォレットに保管され、購入者の所有権はメルカリ内のデータベースで管理される仕組みを採用。この仕組みに対し、「真の所有権が得られない」「外部マーケットでの取引ができない」「プロジェクト側のスナップショット時に不都合が生じる」などの批判が相次いだ。
Web3の理念である「分散化」「自己保管」に反するとの指摘も見られた。こうした批判の是非や、メルカリがこの方式を選んだ理由について、メルカリNFT事業責任者の中村奎太氏(メルコインCEO)に詳しく聞いた。
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NFTの価値は理解されていない
──NFT市場が停滞している今、なぜこのタイミングでマーケットプレイスを立ち上げたのか?
中村氏:確かにNFTマーケットは縮小傾向にありますが、その本質的な価値はまだ十分に理解されていないと考えています。これまでNFTは投機的な側面が強調されてきましたが、RWA(Real World Assets:現物資産)など、その可能性は十分に探求されていません。私たちはこれから、本格的なマーケットの形成とユーザーの普及が始まると考えています。

──メルカリでNFTを保有する流れを教えてほしい。
中村氏:OpenSea(世界最大規模のNFTマーケットプレイス)のNFTを当社のプラットフォームにアグリゲーション(集約)して表示しています。お客様から注文を受けた時点で、当社がOpenSeaで該当NFTを購入し、当社のウォレットに移転します。その後、カストディ(管理)形式でNFTを保管し、お客様のIDに紐付けるという仕組みで運営しています。
──ユーザーは自身のウォレットを持たない仕様だが、これは一般ユーザーへの普及を意図した設計なのか?
中村氏:その通りです。NFTの普及には、ウォレットや暗号資産を意識せずに利用できる環境が不可欠だと考えています。現状のNFT利用には多くのステップと高い技術的ハードルがありますが、家族や友人がNFTを持っているといったことが当たり前の時代になるためには、ウォレットを意識させない仕様が重要な第一歩になると判断しました。
Web3に精通したメンバーでやっている
──パブリックチェーンで出されているNFTがメルカリのウォレットに入ることで、クローズドな環境になる。この点について、NFTコミュニティから批判の声も上がっている。
中村氏:X(旧Twitter)上での活発なディスカッションを嬉しく思っています。この機会に当社の考えと今後の展望を共有させていただきたいです。現在の最優先事項は、NFT未経験者の参入障壁を下げることです。そのためウォレットや暗号資産を意識させない仕様を採用しました。私たちのプロジェクトチームにはWeb3に精通したメンバーが多く在籍しており、NFTの本質的価値を提供するには、オンチェーンでの保有と所有権の明確化が不可欠だと認識しています。未来永劫この仕様で続けるつもりは一切なく、これからユーザーが自身のウォレットでNFTを管理できる機能の実装を目指します。
──いつ頃、ウォレット機能を実装するのか?
中村氏:移管の方法については様々な選択肢を検討していますが、まず、カストディ形式でNFTに触れ始めたユーザーが、そのユーティリティや価値を理解した上で、自然にウォレット利用へ移行できる体験を設計していきます。最初からウォレット連携や直接管理の機能を実装すると、ユーザーにとって理解は困難です。それでは、メルカリのユーザーは離れてしまい、多くの人にNFTを体験してもらうという目標も達成できません。そのため、段階的なオンボーディングを重視しています。
──リリースから一週間経ったが、取引量や取引額は想定通りか? 具体的な数字を教えてほしい。
中村氏:想定を大きく上回る結果となり、すでに5000個以上のNFTが当社のウォレットに保管されています(2月4日時点)。現在は主にデジタルアートとデジタルコレクタブルを展開し、コートヤード(Courtyard)などのRWAは一部の取り扱いにとどめています。デジタルアートやコレクタブルは従来難しい分野でしたが、予想以上のスピードで取引が行われており、その内容はOpenSea上で確認可能です。

──ユーティリティを提供する国内のNFTプロジェクトとの摩擦が生じたり、批判的な声が届いたりするか?
中村氏:摩擦は特にありません。ユーティリティの付いたNFTは本質的に重要であり、マーケットプレイスでの流通拡大を目指します。現在は当社でウォレットを一元管理しているため、ユーティリティの活用が制限されていますが、段階的に機能を追加しています。具体的には、RWAトレーディングカードの償還機能に向けたバックエンド整備を進めており、償還時にはユーザーのウォレットへの移管を行う予定です。また、ウォレット操作やユーティリティ活用の難しさに対しては、メルカリのカストディ環境内でNFTのユーティリティを利用できる仕組みを構築中です。すでに、複数のNFTプロジェクトと連携した新しい取り組みも進めています。
──取り扱うNFTの選定基準は?
中村氏:NFTの選定基準は独自に設けており、法令遵守を最優先としつつ、メルカリユーザーにとって安全に利用できるよう、怪しいプロジェクトやスキャムの可能性があるものは排除しています。選定にあたっては、過去の取引量や信頼度などを参考に、独自のルールやAIによるフィルターを活用した複合的なチェックを行っています。
──検索機能をつけていない理由は?
中村氏:検索機能を搭載しなかった理由は二つあります。一つは早期リリースのための機能絞り込みであり、もう一つはユーザー体験の向上を意図したものです。Instagramのように、様々なNFTを眺めて偶然の発見を楽しむ没入感のある体験を重視しました。これにより、新しい価値の発見や見過ごされていたクリエイティブの再発掘が促進され、停滞していたNFT市場の活性化につながると考えています。
──NFTコレクションの運営者にとって、ポジティブなニュースだと思う。現在の市場では、1カ月間取引がないといったケースも珍しくない。
中村氏:今後は、そのようなプロジェクトのNFTを重点的に紹介していく方針です。また、ユーザーの好みに合わせたレコメンデーション機能の改善と実装を進めていきます。検索機能も段階的に追加する予定ですが、当面は、ユーザーが多様なNFTを気軽に探索できる体験を大切にしていきます。
「他人のふんどしで相撲」厳しい声も
──OpenSeaなど他マーケットプレイスの転載だけでなく、メルカリNFT独自のコレクション展開も検討しているのか?
中村氏:独自のNFT展開は私たちの注力分野の一つです。NFTの価値を広く認知していただくため、まずはマーケットプレイスの品揃えを充実させる必要がありました。そこでOpenSeaと協議の上、連携を通じて既存のNFTを取り扱いながら、独自プロジェクトの展開も進めています。現在、複数のNFTプロジェクトやNFT未参入のIPホルダーと協力し、新規NFTの展開を準備しています。今後、当マーケットプレイスから多くの新規NFTを提供していく予定です。初期段階では、当社が厳選したプロジェクトの展開を行います。当社のマーケットプレイス上で初回販売を実施し、段階的に規模を拡大していきます。開発は現在進行中で、2~3カ月以内のサービス開始を目指しています。その後、一般ユーザーによる作品公開の機能も実装する計画です。
──オンチェーン化の際は、メルカリアカウントにウォレットが紐付けられる?
中村氏:将来的には、自身でウォレットを管理する形態と、当社のカストディウォレットを利用する形態の併用を想定しています。一般ユーザーの方々にはカストディウォレットを提供し、その環境でもユーティリティを活用できる仕組みを構築します。また、NFTやWeb3に精通したユーザーには、ウォレット接続機能を提供し、自身でのNFT管理を可能にします。このように、ユーザーの習熟度に応じた選択肢を用意していきます。
──OpenSeaサイドとどこまで協議しているのか疑問だった。「他人のふんどしで相撲を取っている」という厳しい意見も出ていた。
中村氏:OpenSeaは日本市場の可能性を高く評価しています。ユーザー数は限定的ながら、取引額は相応の規模があります。しかし、OpenSea単独では日本市場への効果的なアプローチが困難でした。メルカリがインターフェースを担うことで両社の収益向上が期待でき、グローバル展開においても賛同を得ています。現時点では新規ビジネスモデルの構築には至っていませんが、将来的には両マーケットプレイス間での取引の透過性実現を目指しています。

活きるメルカリの売買文化
──既存のNFTプロジェクトにとっても、新規でNFT活用を考える事業者にとっても、魅力的な提案だと思う。
中村氏:NFT市場の活性化を目指して開始しましたが、各NFTには予想以上の価値があると実感しています。ユーティリティの有無に関わらず、デザインや面白さ自体が魅力となっています。この基盤を多くのプロジェクトに活用いただき、共に市場を発展させたいと考えています。現在のカストディ仕様については様々な意見がありますが、これから展開を作っていきます。多くのプロジェクトの参画をお待ちしています。
──NFTマーケットプレイスを開設して新しい発見はあったか?
中村氏:サプライズだったのは、OpenSea経由での購入が多いと思われがちですが、実際にはCtoC(個人間)の二次流通が予想以上に活発です。これはメルカリに根付いた売買文化が要因と考えられます。二次流通は日々の取引の3〜4割を占めており、一次流通の増加に伴い、さらなる市場拡大が期待できます。
──現状のスキームだとクリエイターフィーが入らない。
中村氏:私たちも課題として認識しています。メルカリプラットフォーム上での発行であれば、手数料体系も柔軟に設定できます。実際に、取引実績の高いプロジェクトとも協議を進めており、今後の展開について様々な可能性を検討しているところです。
──流動性が失われるという意見については。
中村氏:市場の流動性が失われるのではないかという懸念の声がありますが、私たちのプラットフォームは将来的により強い流動性を持つ可能性があると考えています。OpenSeaを超える規模に成長し、グローバル市場でもリーダーシップを発揮することを目指していきたいと考えています。
|インタビュー・文:栃山直樹
|画像:メルカリNFT提供、メルカリNFTウェブサイトから