2025年はステーブルコイン元年となるか──日本の法整備と企業の活用最前線【イベントレポート】

CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueは2月25日、野村ホールディングス(野村HD)とGMOインターネットグループ(GMO)とともに「ステーブルコイン元年 ブロックチェーン技術を活かした送金・決済の活用事例と事業機会」と題したオンラインイベントを開いた。ステーブルコインの最新動向や国内の法整備について取り上げ、企業間決済の効率性向上や海外送金の迅速化などについて意見を交わした。

登場したのは、野村HD執行役員デジタル・カンパニー長の池田肇氏、同HDの子会社でデジタル資産関連サービスを提供するLaser Digital Japan代表取締役社長の工藤秀明氏、GMOの連結会社で、米国の現地法人であるGMO-Z.com Trust Company, Inc CEOの中村健太郎氏、前澤友作氏が設立したWeb3関連事業を手がけるMZ Cryptos代表取締役社長の白石陽介氏の4人。モデレーターはN.Avenue/CoinDesk JAPAN 代表取締役 CEOの神本侑季が務めた。

野村HD、Laser Digital、GMOの3社は2024年5月、日本円と米ドルの新たなステーブルコインを発行・償還・流通する仕組みを検討するため、基本合意書を締結している。

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機が熟した日本のステーブルコイン

第一部では、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の副会長も務める白石氏が、国内の法整備の変遷やステーブルコインの定義について解説した。

白石氏はまず、2020年頃にはステーブルコインの明確な定義が存在しなかったとし、ステーブルコインの発行や流通に参画する事業者はいなかったと振り返った。そして、ステーブルコインの定義を考える際、「最も重要なポイントは裏付け資産が何であるか」だと指摘。ステーブルコインには、暗号資産を裏付け資産にしているダイ(DAI)や、法定通貨や国債を裏付け資産にしているUSDCがあり、両者を同一に議論するか区別するかは国によって異なると説明した。

その上で、2023年6月に施行された改正資金決済法について、ステーブルコインは資金決済法に基づく「決済手段」として位置づけられ、裏付け資産が異なるステーブルコインを区別して考える法整備を行ったのは、日本が世界に先駆けてだったと解説した。

PayPayなど既存の支払い手段との違い

また、PayPayなど資金移動業者が発行するデジタルマネーやSuicaなどの前払い式支払手段との違いについては、重なる領域もあるとしたうえで、加盟店内でのみ流通するこれらの支払い手段に対し、USDCなどは加盟店に留まらず「外部にも転々流通していくことが圧倒的に異なるところ」と説明した。

さらに、改正資金決済法によって発行者と流通の主体となる仲介者が区別されたことも大きな特徴に挙げた。取引を仲介する電子決済手段等取引業者には、金融庁への登録義務が課され、取引の透明性確保やマネーロンダリング防止などの規制を遵守する必要があることも強調した。

最後に白石氏は、これまで金融機関という閉じた環境でサービス開発やローンチが行われていたのに対し、「複数のプレイヤーが協力して新しいビジネスを作り上げていくこと」がステーブルコインの導入によって起きるだろうと期待を寄せた。

DeFiやDEXの発展に伴い成長

第二部では池田氏、工藤氏、中村氏も迎え、ステーブルコインの市場規模や国内で期待されるユースケースなどについて4人で議論した。

中村氏は、暗号資産とステーブルコインの市場規模について解説。ステーブルコインの市場規模が、2020年1月の約8805億円から2025年2月には約35.5兆円へと大幅に成長した点を紹介し、暗号資産全体やビットコインと比較しても、ステーブルコインの市場拡大が特に大きいことを指摘した。

その一因として、DeFi(分散型金融)やDEX(分散型取引所)の発展により、法定通貨を直接利用できない環境でステーブルコインの活用が広がったことを挙げ、実用化が加速していると説明。一例として、南米やアフリカなど法定通貨の価値が下落している後進国では、アメリカへ出稼ぎに行った労働者が母国に送金する際など、ドル建てのステーブルコインを活用する需要が高まっていると述べた。

さらに、ステーブルコインには今後も大きな成長の可能性があるとし、「銀行口座を持たなくてもウォレットを持つ人が増えるような未来がやってくるかもしれない」との見解を示した。

白石氏は、日本にいると実感しにくいと前置きしたうえで、銀行で何時間も待たされたり、現金を持ち歩くことで強盗に襲われたりするリスクがあるなど、世界には現金の管理コストが高い国が存在すると指摘。そうした環境では、ビットコインのように使いやすく、かつボラティリティが低いステーブルコインを決済手段として利用する需要が高まっていると説明。最も便利なものが広がっている結果だと述べ、不動産や有価証券のトークン化といったデジタルアセットが成長すれば、必然的にステーブルコインの需要も拡大すると語った。

中村氏は、現状ではステーブルコインの9割以上がドル建てであると話し、「ドルだけで終わるはずがない。今後はドル以外のステーブルコインも増えていくだろう」と予測した。

伝統的な金融サービスの視点からステーブルコインの発展について問われた池田氏は、海外送金や企業間決済の手段として活用していく企業が今後増えていくのではないかと話し、分散型金融との融合を目指していく考えを示した。

決済手段としての優位性とユースケースが期待される業界

既存の決済手段と比べた優位性について、白石氏は「透明性とトレーサビリティ」を挙げた。ステーブルコインは、取引履歴がブロックチェーン上に公開されるため、従来の「閉じた世界」と比べて透明性が高く、安心して利用される可能性があると指摘した。

さらに、登場プレーヤーが多い貿易や電力取引を例に挙げ、企業がグローバルに展開する際の決済手段として、ステーブルコインの需要は高いはずだと述べた。中村氏はホテル予約を例に、宿泊サイトを通じた支払いではホテル側への入金に1か月程度のタイムラグが生じると説明し、即時決済が可能なステーブルコインの優位性を強調。中古車の輸出入などでも同様に、即時決済による業務効率化の余地が大きいと応じていた。

池田氏は、企業側の視点から、商社やメーカーにおいてステーブルコイン導入のニーズは高いものの、多くの企業が既存の仕組みとの整合性を懸念していると指摘。検討を進める企業は増えているものの、本格的な導入には至っていないとしたうえで、海外での活用事例が進めば、商社やメーカーが海外取引にステーブルコインを導入するケースも今後増えていくだろうと予測した。

|文:橋本祐樹