
東急不動産ホールディングスとMeTownが共同で推進する地方創生の実証実験プロジェクト「Local Web3 Lab.@渋谷」は2月28日、自治体のためのWeb3×地方創生フォーラム「渋谷DAO DAY~DAOコミュニティで作る関係人口と地域の新しい形~」を都内で開催した。香川県小豆島でDAO(分散型自律組織)を活用した古民家ホテルの運営を進めるプロジェクトやトークンを活用した熟成ウイスキー販売の取り組みなど、地域課題の解決に向けた事例が紹介された。
イベントに先立ち、平将明デジタル大臣がビデオ登壇し、「Web3と地方創生の未来-デジタル技術の可能性-」と題した講演を行った。平氏は「石破総理は約10年前に地方創生担当大臣を務めていた」と振り返り、当時は技術的な障壁で実現が難しかったアイデアも、ブロックチェーンなどデジタル技術の進歩により可能になったことが増えたと述べた。

具体例として、世界的な観光地である北海道ニセコのスキー場での取り組みを挙げ、NFTを購入することで、一般客よりも早くゲレンデに入れる権利やハイシーズンに予約困難なホテルの宿泊権などが得られると紹介。観光体験のグローバル展開が進んできたと述べた。また、石破氏が10年前に語った「地方創生には『よそ者・若者・ばか者』が必要」との言葉を引用し、DAOの活用が多様な人材の参画に役立つと強調した。
自分たちで「経済圏」を作れる魅力
第一部では、香川県小豆島で古民家を改修したホテルの運用に取り組む共創DAO合同会社の共同創設者で弁護士の本嶋孔太郎氏が登壇。「コミュニティが地域の産業、関係人口を育てる」と題した講演を行った。

本嶋氏らは、2024年4月の法改正でトークンによる資金調達が可能になった合同会社型DAOを活用。築100年以上の古民家を改修し、一棟貸し宿として運営するプロジェクトに取り組んでいる。
本嶋氏はインバウンドについて、著名な観光地では以前から活発だったが、資金や人材が不足する地方では盛り上がりに欠けると指摘。「DAOという新たな組織形態」を活用すれば、地方でも産業と関係人口を創出できる可能性があると述べた。DAOのエコシステムについては、ミツバチと花の関係に例え、蜂が花粉を運ぶことで花が受粉し、蜂も蜜を得て生きられるように、DAOも参加者の相互作用で発展する仕組みだと説明した。
また、「ヒト・モノ・カネが不足する地方でも、小規模な経済圏を構築できる」点をDAOの価値に挙げ、「誰でも資金調達できる仕組み」の実現を目指していると語った。
経年優化するウイスキーと長期保有するトークンとの相性
第二部では、静岡県三島市で日本では珍しいバーボンスタイルウイスキーの蒸留、販売、製造を行っているWhiskey & Co.代表取締役の大森章平氏が登壇。地方創生と関係人口創出を目指した「三島ウイスキープロジェクト」について紹介した。

このプロジェクトの特徴は、製造されたウイスキーが原則として蒸留所がある同市だけで購入できること。ただ、専用アプリで発行されるトークン「Key3」を購入することで、通販サイトでも入手できる仕組みとなっており、2022年10月にトークンの初回販売を実施。1000トークン以上の保有者には3年熟成ウイスキー、10000トークン以上の保有者には10年熟成ウイスキーの購入権が与えられるなど、トークンを長期保有することで特典が変化する仕組みになっている。
大森氏はトークンと株式は似た側面を持つとしたうえで、大量保有者や長期保有者が増えることで「トークンの価値も上昇する」と説明。時間が経つほどに価値が上昇する「ウイスキーの経年優化という特性」が、トークンを長期保有してもらいやすくなる仕組みだと述べ、この組み合わせによって同社はウイスキーの質向上に集中できると話した。現在のトークン保有者は約2000人に上るという。
「寿司といえば、富山」ブランディングの取組みの輪を拡げるためにDAOを活用
続いて登壇したのは、富山湾で獲れる豊富な海の幸を活かし、寿司の魅力を広めようと2024年10月に設立された「寿司といえば富山DAO」。同県ブランディング推進課係長の柴田真季氏と、コミュニティ運営やデジタルソリューション提供を担うWeb3 Times合同会社代表社員の末次祥太郎氏が登壇し、名産の鱒寿司などで有名な富山の魅力を発信する取り組みについて紹介した。

同DAOでは、コミュニティ内での活動や貢献に応じて「お寿司マイル」と呼ばれるポイントが貯まり、同県内の参画店舗で使える富山湾鮨セットクーポンや県の特産品などを購入できる仕組みを導入している。現在のメンバーは約200人で、その6割強が県外在住者だという。末次氏は、こうした参加者の広がりが関係人口の創出につながっていると述べた。
柴田氏は県と同DAOが連携した企画として、県内の飲食店や観光地に設置されたQRコードを読み取ることで、県出身のイラストレーターが作成したデジタルキャラクター(NFT)を収集できる「富山きときとデジタル手形ツアー」を開催したと紹介。DAOに参加するメンバーの強みを生かし、多様な取り組みができていると述べた。
貢献度に応じて金、銀、銅のNFTを発行
同様に、「魚の種類が250以上で日本一」とされる長崎県の水産資源の魅力発信に取り組むのが、東急不動産ホールディングスとMeTownが共同で推進する地方創生の実証実験「Local web3 lab.@渋谷」が展開するローカルDAO「おさかなだお長崎」。
東急不動産ホールディングスの岸野麻衣子氏が登壇し、漁業の課題や魅力を学ぶトークイベントの開催や、県外メンバーを対象とした長崎ツアーの実施など、多様なプロジェクトについて紹介した。岸野氏は同DAOでの1年間の活動を振り返り、リーダーや管理者が存在しないフラットな組織であるからこそ「同時多発的に熱量が広がりやすい」との特性があると述べた。
また、貢献度に応じて金、銀、銅の3種のNFTを発行する仕組みについて触れ、これが参加者にとって地方創生に関わった証となる「デジタル履歴書」の役割を果たしていると説明した。
「万能薬ではない」という批評的な視点
第三部では、企業や自治体へのDAOの構築や管理を支援する統合プラットフォームを提供するUnyteの上泉雄暉氏が登壇。「トークンが開く新しい経済・価値創造の活用方法」をテーマに、地方創生におけるDAOの活用メリットについて解説した。

上泉氏は、地域活動に役立つDAOの特性として、ブロックチェーンを活用した「貢献証明」と「資産の共同保有」を挙げた。人々が集まり、取り組みを拡大するためには信頼が不可欠であり、そのためには「客観的な事実を可視化することが重要」と指摘。資金管理に関しては、メンバーが共同で管理する「トレジャリーウォレット」の仕組みを「2人以上の鍵がないと開かない金庫」に例え、具体的な活用法を示した。
一方で、参加者の集め方や地方創生のためのアイデア創出といった課題は、DAOだから解決されるものではないと述べ、DAOやブロックチェーン技術は「万能薬ではない」と強調した。地方創生を成功させるためには、明確な目的を定め、技術以前に人々を共感させることが重要だと解説。活動の規模や成長段階に応じてDAO導入の適否を慎重に判断すべきだと述べ、「本当に今、DAOが必要なのか」という批判的視点を持つことの重要性にも触れた。
|文・写真:橋本祐樹