仮想通貨デリバティブ:その起源、経緯、問題点、将来性──ビットコインの価格とは何か?

競争は始まっている。

ICE(インターコンチネンタル取引所)の子会社バックト(Bakkt)の待望のローンチの1営業日前、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)は、2020年第1四半期にビットコイン先物のオプション取引を開始すると発表。ICEはこれに対応して、2019年12月にオプション取引をローンチすると発表した。

なぜ世界最大級の2つの取引所は、つい最近まで大半の業界関係者が二次的なものと考えていた分野をめぐって、そこまで公然と争っているのだろうか?

ビットコイン先物は流行中

ほぼ毎週のように新しい企業が、ますます混戦状態となっている仮想通貨先物市場に参入する意志を示している。直近では、仮想通貨大手のバイナンス(Binance)とビットフィネックス(Bitfinex)が独自の先物商品をローンチしたが、その成功の度合いには差がある。

この楽観的な動きはいつものことではない。世界有数の取引量を誇る、香港を拠点としたビットメックス(BitMEX)の台頭は長い間、業界リーダーたちからは懐疑的な目を向けられてきた。リーダーたちは、同取引所の先物プロダクトは高いレバレッジを使ってギャンブル好きな人たちだけを対象にしていると批判してきた。

仮想通貨先物市場が本当に軌道に乗ったのは2018年。取引量は、仮想通貨市場のピークと広く考えられている2017年の水準と比較すると10倍に増えた。スキュー(skew)やビットワイズ(Bitwise)のデータによれば、ビットコイン先物や決済期日が決まっていないパーペチュアルスワップは現在、平均でビットコインのスポット市場よりも10倍の取引量となっている。

提供:skew.com

後から考えれば、その理由を説明することは比較的簡単だ。市場が2018年から始まった長期にわたる低迷に入るにつれ、市場参加者は、低下する価格から利益を得る方法、もしくは少なくとも防衛手段を探した。先物市場の成長はショートポジションを取る必要性から生まれた。

この市場は、2年前には非常に小規模だったところから急速に進化した。2017年第4四半期、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)は詳細に取材した記事において、仮想通貨マイナーに非常に人気の高い商品を作っていたチップメーカー、エヌビディア(Nvidia)の株を空売りすることは、仮想通貨に親しむための最適な方法かもしれないと解説した。

デリバティブの起源とは

伝統的な市場もまた、市場のボラティリティが増加したことへの対応として「デリバティブの時」を経験した。

振り返ると、1970年代は極めて目まぐるしい金融混乱の時代だった。1971年、リチャード・ニクソン大統領がドルと金の交換を停止し、ブレトン・ウッズ体制(ドルを基軸とする国際通貨制度)が崩壊、国際社会は法定通貨をベースにした金融システムに移行し、すべての通貨は変動相場制となった。

さらにその後、世界は1973年10月に第1次オイルショックを経験、石油価格は高騰した。

オイルショックの数カ月前、フィッシャー・ブラック(Fischer Black)氏とマイロン・ショールズ(Myron Scholes)氏は、オプション価格を決定するシンプルな分析的公式を発見し、1997年にノーベル賞を受賞した。

こうした出来事が連続して起こったことは、すべての資産クラスにおけるデリバティブ商品の栄光の時代をスタートさせたと幅広く捉えられている。

デリバティブは単なる一時的な流行ではなかった。通貨監督庁(OCC)は、銀行は現在200兆ドル(2京2000兆円)以上のデリバティブ元本を保有していると推計している。デリバティブはゆっくりと、興味のある人たちの大半が取引を行う場所になった──あらゆる市場において。

デリバティブはボラティリティを減少させる

「我々はビットコインを手なづける」

── CMEの名誉会長レオ・メラメド(Leo Melamed)氏

我々は、伝説的な先物トレーダーの予測を信じるべきだろうか?

ビットコインは、取引の仲介物とするにはボラティリティが高すぎるという一致した見解があり、2017年から2018年にかけて「ステーブルコイン」プロジェクトの波を引き起こした。

ビットコインの非弾力的な供給機能は構造的に、需要または供給ショックに対して無縁であり、すべての調整は価格を通して起こり、その結果としてボラティリティが生まれる。

優れた論理だが、実際には必ずしも正しくない。例えばこの主張はゴールドにもあてはまる。ゴールドはセントルイス連邦準備銀行のデータによると、2019年の1日の平均変動率が0.6%、最もボラティリティの低い資産の1つとなっている。

資産のボラティリティに関わる要素は数多く存在する。その1つは市場構造だ。デリバティブ市場の発展が原資産のボラティリティにおよぼす研究は幅広く行われており、デリバティブは価格の安定に役立つとする結論が圧倒的だ。

これは、オプション取引については特に本当のことだ。ロサンゼルスに拠点を置くウェーブ・ファイナンシャル(Wave Financial)がローンチしたインカムファンドは、仮想通貨市場におけるこの方向への第一歩となるものだ。

こうした市場が成長を続けるにつれ、ビットコインのボラティリティは構造的に減少していくだろう。

機関投資家の手に移るデリバティブ

デリバティブはレバレッジと似ており、より少ない資金でより多くの利益を求めることができる。素晴らしいことだが、ある程度の範囲までだ。

ウォーレン・バフェット(Warren Buffet)氏の言葉として良く知られているように、デリバティブは大量破壊をもたらす金融武器であり、慎重なリスクマネジメントが求められる。

規制当局は結果的に、国際的にレバレッジの利用抑制に取り組んできた。

2019年5月、日本の金融庁はビットフライヤーに対して、レバレッジの最大倍率を引き下げるよう要請した。イギリスの金融行動監視機構(FCA)は、仮想通貨デリバティブの個人投資家への提供を禁止する計画を立てるという、さらに劇的な対応をとっている。FCAはさらに個人向けブローカーに対して、すべての資産クラスにおいて、デリバティブ商品を利用した投資のリスクを顧客に警告することを求めた。


「レバレッジをかけて取引を行うCFD(差金決済取引)は複雑な商品で、レバレッジのためにすぐにお金を失うリスクが高い。72%の個人投資家アカウントが、この提供業者でCFD取引を行い、お金を失っている」

──人気の個人投資家向け仲介プラットフォームでのウェルカムメッセージ

ボラティリティの低い原資産によるCFD取引で72%の投資家がお金を失っているとしたら、ボラティリティの高さで悪名高いビットコインの100倍のレバレッジ商品ではどんな悪いことが起こるだろうか?

時間とともに、規制当局あるいはダーウィニズムがデリバティブ市場をますますプロの手に任せるようにしていくだろう。

取引高だけが問題ではない

ほとんどの人はおそらく、デリバティブの取引高を心配することに時間をかけすぎている。デリバティブの取引高は主にレバレッジの作用だ。

日本の金融庁が2019年5月にビットフライヤーにレバレッジの倍率を15倍から4倍に減らすよう要請した時、その取引高は一晩で少なくとも50%減少した。

提供:skew.com

デリバティブは2者の間のゼロサム取引。トレーダーや投資家には、担保が必要だ。例えば、ビットメックスは、0.5%の最低維持証拠金と1%の最低当初証拠金を求めている。一方、CMEの当初証拠金は37%。

つまり、ビットメックスで100万ドルの取引を行う場合には、わずか1万ドルの担保で済む。CMEでは最低37万ドルが必要だ。

未決済の建玉と呼ばれるビットコイン先物契約の未決済約定数は現在、CMEの1億5000万ドルに対して、ビットメックスは11億ドル。

だが、証拠金に求められる要件の違いのために、CMEとビットメックスでは後者の方が10倍以上の取引高があるにも関わらず、取引のために実際に「動いている」お金はほぼ同等の可能性がある。両者の差は、我々が思うより小さいのかもしれない。

これはビットメックスのような海外に拠点を置く取引所にとっては、素晴らしい仕組みだ。取引高から手数料を取る仕組みのため、同じ額のお金を扱っているとしても、極めて多くのお金を稼ぎ出すことができる。

ますます大きくなる疑問:ビットコインの価格とは何か?

成功の代償として、デリバティブ取引は2019年、贅沢な悩みに直面した。

証拠金に基づいて取引が発生するため、デリバティブ取引は当初、より大規模だった現物取引の価格に由来するスポット価格インデックスを慎重に設定していた。このインデックスは、満期日に取引を決済し、追加保証金をいつ発生させるかを決定するために使われる。これは当時、流動性が低かった仮想通貨デリバティブでの市場操作を防ぐ賢明な方法だった。

しかし、デリバティブ市場が飛躍的に成長したために、我々はいま、ベースとなる現物取引がデリバティブ取引よりも極めて小さいという時期を迎えた──現物取引はデリバティブ取引の10分の1の規模しかない。つまり、流動性がより低い現物取引を操作して、デリバティブ取引から利益を得るという誘惑が生まれている。

この懸念は2019年5月、ビットスタンプ(Bitstamp)での比較的小口の現物取引注文がビットメックスでの大量売却につながり、ビットコイン価格を暴落させた時に最も顕著に現れた。

各取引所はこの問題をますます認識しているようで、インデックスを強化しようとしている。だが、デリビット(Deribit)での計算ミスが130万ドル(1億4000万円)の損失につながったように、時には不幸な結果を招いた。


「足元には石油の海がたっぷりある! 私以外には誰も手が出せない!」

小説『石油!』を原作とした、映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(原題 : There Will Be Blood)での主人公のセリフ

シカゴ・オプション取引所(CBOE)が正式に運用を開始し、CMEとICEがオプション取引を展開する2020年には2社の競争が激化することが予想されている。

マイニング企業が主導し、現物引き渡し型取引とオプション取引にサポートされて、仮想通貨デリバティブが軌道に乗ることを見るのは特に励みになるだろう。

メキシコ政府は2019年、2020年の石油生産の損失を防ぐために、デリバティブに10億ドルを費やしたと言われている

仮想通貨デリバティブにはまだ、やるべきことがある。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Men working the floor at the Chicago Board of Trade, 1949. Image by Stanley Kubrick via Wikimedia Commons.
原文:Crypto Derivatives: A Corner of the Market or the Market Itself?