地方創生やアニメ制作でも、活用が広がるSTの魅力とは──東京都デジタル証券シンポジウム【JFW 2025】

金融庁が開催した「Japan Fintech Week 2025」の一貫として、東京都は3月5日、有楽町のスタートアップ支援拠点「Tokyo Innovation Base」で、「デジタル証券(セキュリティトークン)で広がる個人投資の未来」をテーマにしたシンポジウムを開催した。昨年に続き2回目で、デジタル証券の活用に取り組む事業者や弁護士らが意見を交わした。

不動産以外にもSTの活用が拡大

シンポジウムは、Progmat(プログマ)代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏の講演「デジタル証券市場の現状と展望」からスタート。齊藤氏は2024年度のセキュリティトークン(ST)市場を振り返り、ST案件の残高は3000億円を超え、発行累計額は1700億円を突破したと説明。また、不動産分野での活用が主流であるものの、STの種類は多様化しており、社債型STの増加などアセットクラスが広がっている点に触れた。

不動産ST市場の発展については、三井物産が手掛けた「渋谷ロイヤルパークホテル」の案件を例に挙げ、10万円からの小口投資が可能で、セカンダリー市場では1万円単位での取引が行われることを紹介。投資家層の拡大と市場の成熟が進んでいることが象徴的に示されたと説明した。

税制改正がもたらす市場拡大の可能性

齊藤氏は加えて、2024年度の重要なトピックスとして、元本払い戻しにかかる課税関係の明確化と純資産計上される評価・換算差額等の留保金除外の要望が盛り込まれた税制改正大綱の承認を挙げ、2025年度以降は信託型の新しいアセットSTの組成が容易になるとの見通しを示した。

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また、不動産ST、動産ST、出資持分STなどSTの種類について説明。従来は信託型で運用できたのはほぼ不動産STに限定されていたが、税制改正によって2025年度以降は、税制上のネックが解消されることでさまざまなSTが投資商品として的確に組成されることが期待されると述べた。

さらに、航空機や太陽光発電施設などの動産STが登場することで、市場のさらなる成長が期待されると強調した。

海外投資家もターゲット、アニメ制作の資金調達

続いて、「デジタル証券を活用した個人への投資機会の提供~様々なアセットへの興味・関心を投資に繋げる~」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、クエストリー代表取締役社長の伊部智信氏、レーサム執行役員の金澤彬氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士の梅津公美氏が登壇。N.Avenue/CoinDesk JAPAN代表取締役 CEOの神本侑季がモデレーターを務めた。

伊部氏は、クエストリーの取り組みとして、アニメなどエンターテイメント領域でのSTを活用した資金調達の事例を紹介。金融庁と連携して規制の整備を進め、国内外でのST市場拡大を目指していると述べた。

そのうえで、アニメや映画制作でよく使われる製作委員会による資金調達の方法は、日本独自であることを指摘。民法上の任意組合という位置付けであるこの方法は素晴らしいものの、事業者だけが出資できる性質があり、「外部の投資家から資金を引き出すことが難しい」と解説。トークン化を進めることで、海外の投資家をターゲットに国境を越えた取引が可能になると利点を述べた。

具体例として伊部氏は、同社が進めるアバランチブロックチェーンを活用した資金調達方法についても紹介した。

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西伊豆の地方創生にもSTを活用

金澤氏は、富士山に近いダイビングスポットとして知られる静岡県西伊豆・大瀬崎にある旅館施設「ネイチャーイン大瀬館」で取り組んだSTを活用した地方創生プロジェクトを紹介した。

経営難に陥っていた大瀬館について、地元の商工会議所がレーサムに相談を持ち掛けたことをきっかけに、同社は事業再生の一環としてM&Aを実施。2025年1月には、社債型セキュリティトークン「大瀬崎みらいにつなぐ債」を発行した。

最低申込金額は5万円で、年利1.5%に設定された。このトークンは個人投資家からの関心を集め、1月下旬には完売。金澤氏は、「個人投資家がダイビングや地域資源の魅力を感じ、直接投資できる仕組みを構築できた」と振り返り、不動産投資に関心がなかった層が新たな形で地域と関わるきっかけになったと述べた。

金澤氏は、地方創生プロジェクトのような「育成型の不動産」には、社債型STが特に適していると指摘し、「今後、より多くの地域でこの直接金融モデルを広げていきたい」と展望を語った。

弁護士の梅津氏は、2社の事例に対して、アニメ制作や地方創生プロジェクトにおいて「個人投資家がアプローチできる点が魅力的だ」と評価。その一方で、コンテンツ制作や不動産プロジェクトが必ずしも成功するとは限らないことから、リスクを適切に伝える重要性についても言及していた。

「発行体と投資家が直接つながる」

パネルディスカッション第二部では、「デジタル証券の個人による投資拡大に向けた提案」と題し、BOOSTRY CEOの佐々木 俊典氏、野村證券デジタル・アセット推進室 ヴァイス・プレジデント セキュリティ・トークン・グループ・リーダーの坂本祥太氏、Securitize Japan Country Head, Japanの小林英至氏が登壇。日本セキュリティトークン協会代表理事の増田剛氏がモデレーターを務め、STの認知度向上や投資家教育の充実など個人投資家の参入を促進するためのポイントについて議論した。

佐々木氏は、個人投資家への普及促進にはデジタル証券の認知度向上と継続的な投資機会の提供が重要であると述べた。小林氏はSTの本質として「発行体と投資家が直接つながること」にあると強調し、企業が単なる資金調達の手段としてではなく、ファン層を育成しながら投資家と関係を深める仕組みが必要だと指摘した。

坂本氏は証券会社から見た個人投資家の動向を解説。投資家の関心を引くためには、単なる金銭的リターンだけでなく、特典や付加価値の提供が鍵となるとしたうえで、個人投資家にとってSTはオルタナティブ投資の新しい選択肢になりつつあると説明していた。

|文・写真:橋本祐樹
※本文を一部修正し、更新しました:3月11日17時31分