【ST最前線】Progmat、資本提携拡大の背景は──変わる信託と投資体験、4社が見据える次世代金融

デジタル証券やデジタル通貨の発行基盤を提供するProgmat(プログマ)は4月9日、農中信託銀行、あおぞら銀行、ケネディクスとの資本業務提携を発表した。Progmatを2023年10月に設立してから初の資金調達であり、マーケットの成長に合わせて「共創パートナー」を拡大し、「ナショナルインフラ」としての中立性を高めるステップの一環だという。

CoinDesk JAPANは4月18日、同社代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏に加え、出資した農中信託銀行代表取締役社長の豊田悟氏、あおぞら銀行常務執行役員事業法人ビジネス本部長の篠崎純氏、ケネディクスグループでKDX ST パートナーズ代表取締役社長の中尾彰宏氏に話を聞いた。

取材を通じて見えてきたのは、ブロックチェーンの襲来を既存金融の危機と期待の両面から捉え、自らの変革に踏み出す信託銀行の姿と個人投資家の体験を塗り替えることに挑むセキュリティ・トークン(ST)事業者の決意だった。出資企業の狙いと今後のビジョン、Progmatが描くブロックチェーンを活用した次世代の金融像に迫った。

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1年前から資本提携の拡大を計画

──Progmat設立後、初の資金調達となったが、提携先を拡大した経緯や目的は?

齊藤氏:弊社はJVの形で設立し、ナショナルインフラを担う会社として資本構成の中立化を進め、「公開企業化」するという意味で将来的な上場も見据えている。STやステーブルコイン(SC)の領域で共創関係を築ける国内パートナーに資本参画してもらう資本政策をとっており、設立後の第一弾として実行した形だ。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

提携の社内議論は2024年春ごろから始め、「プレシリーズAラウンド」と位置付けて準備を進めてきた。こちらからの打診時期は多少異なるが、設立初期から関係深化の打診をいただいていた農中信託銀行とは、最も早い段階から話をしていた。

ブロックチェーンで変わる信託業

──農中信託銀行に伺いたい。4月9日のリリースには、「今後信託銀行としてのビジネス維持・拡大を図るうえではブロックチェーン技術に伴う金融環境の変化への対応が必要不可欠」とあった。現状の課題とブロックチェーンに期待する点は何か。

豊田氏:課題と期待は「表裏一体」の関係として捉えているが、今回出資に至った背景には「ブロックチェーンプラットフォームは信託業そのもの」という認識がある。ブロックチェーンを活用できない信託銀行は、いずれ市場から淘汰される。それくらい強い危機感を抱いている。

2年ほど前、Progmatが法人化される前に齊藤氏から構想を聞いた際、「誰かの資産を改ざん不能な形で管理できる」というブロックチェーンの特性が、信託銀行の役割を再定義すると直感した。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

一方で、従来は難しかった信託業務の拡張を可能にするという大きな期待を寄せている。社債を裏付けとするSTをはじめ、多様な金融商品のトークン化が可能になると考えている。

SCを軸に新たなサービスを創出

──あおぞら銀行は「新たな金融の付加価値を創造し、社会の発展に貢献する」ことを経営理念に掲げているが、今回の資本業務提携にどのような意義を見出しているか。

篠崎氏:弊行はメガバンクのような資産規模や地方銀行のような強固な顧客基盤を有する金融機関ではない。そのためLBOファイナンスや不動産ノンリコースファイナンス、最近ではスタートアップ向けのベンチャーデットの分野など従来から新しい領域への挑戦を続けてきた。デジタルアセット事業もまた、金融の新たな領域として可能性を感じている。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

デジタルアセット分野における事業化検討を進めていく中で、Progmatが持つ高度な技術力と豊富な知見が必要であると考え、今回の資本業務提携に至った。今回を機に協業していくことで、弊行が有する信託機能を活かしたSCを中心としたデジタルアセット事業の創出に挑戦していきたいと考えている。

ST市場を拡大へと導く「第二幕」

──ケネディクスは2021年にProgmatのプラットフォームを活用し、日本初となる不動産STを発行した。今回の出資により、Progmatとの関係が取引先から共創パートナーへと変化すると思うが、目的は何か。

中尾氏:2021年8月の第1号案件以降、国内全体で42銘柄のSTが発行されてきた。これまでに3500億円を超える不動産がトークン化され、STという商品がJ-REITなどとどう違うか、ある程度の雛形となる商品コンセプトが固まってきた。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

そして2025年からの不動産ST市場は、STならではの運用サービスの進化が求められる「第二幕」が始まる。弊社だけでも、延べ約1万人の投資家が不動産STに投資しているが、顧客投資家との接点を深めるモバイルアプリの開発を進めている。ブロックチェーンとアプリをどう連携させるかが技術的な鍵で、アプリでは単なる情報提供にとどまらず、個人投資家の意見やニーズを汲み取る双方向のコミュニケーションチャネルとして機能するようにしたい。

その際に、Progmatの技術力や課題解決力に大きな信頼を寄せており、単なる取引先ではなく、共創するビジネスパートナーとしての関係に深化させるべく、今回の出資に至った。

個人投資家層への拡大、クロスボーダー決済

──Progmatとの共創を通して、具体的に実現したいビジネス展開や構想は?

豊田氏:弊行が提供する欧米のローン債券、プライベートエクイティ、不動産など、これまでは手間とコストの関係で機関投資家向けに限定していたが、STにより小口化・流動性が進めば、個人富裕層や準機関投資家にも展開可能になる。

将来的な構想としては、農地由来のカーボンクレジットなど農業関連の非金融資産のデジタル化も検討している。分散した農地や森林もブロックチェーンによる集約管理で価値を極大化できるようになるかもしれない。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

──あおぞら銀行のSC事業の検討状況は?

篠崎氏:現在はユースケースの模索・検討段階。信託機能を活かしてSCの取扱いに関与することはビジネス機会になると考えているが、実際の展開には具体的な活用事例が必要であるため、取引先のネットワークを通じて模索しているところだ。

例えばクロスボーダーの為替取引は、商社などニーズがあるのではないかと注目している。内国間取引でも特定地域や企業グループ内でのオーダーメイド型のニーズや親和性の高いSTの決済での活用が考えられ、柔軟な決済システムが求められている。Progmatの基盤を活用し、既存システムでは実現困難な新たな仕組みを構築していきたい。

ブロックチェーンによる銀行の「第四変革」

──暗号資産(仮想通貨)の普及やSC、STの登場、現実資産(RWA)のトークン化などが金融に及ぼす影響をどのように捉えているか。

豊田氏:ブロックチェーンは、銀行そのものの機能や存在意義を変える可能性を持っている。銀行オンラインシステム、インターネットバンキングやアプリバンキングに続く「第四の技術革新」になるだろう。個人の金融リテラシーが高まるなかで、海外の成長機会にアクセスしやすくするため、クロスボーダーでの投資や決済環境の整備がますます重要になる。

篠崎氏:銀行の提供価値を再考する必要があると感じている。デジタルアセットの普及により、不動産やカーボンクレジットなど個人投資家がアクセスできなかったような資産クラスとの接点が増え、市場の裾野が広がることが期待される。銀行は、顧客の信頼と資産の安全性を担保することに加え、イノベーションを後押しするプラットフォームとしての役割も求められるようになると考えている。

「アート」に変わる投資体験と金融の未来像

──STの普及により、投資体験はどのように変化するだろうか?

中尾氏:従来の投資はリスクやリターンといった経済性を定量的に評価することを重視する「サイエンス」だったが、幅広い個人投資家が参加するSTにおいては経済的価値だけではなく、共感や体験を重視する「アート」的な要素も投資判断に影響を与えていくだろう。

STにより個人投資家との接点が増えるなか、「なぜこの資産に投資するのか」「その背景にどんなストーリーがあるのか」といった部分で情緒的な価値が存在感を増してくるのではないか。

──改めて、金融の未来はどう変わっていくだろうか?

齊藤氏:金融の未来を考えるうえで重要なキーワードは「プログラマビリティ」と「クロスボーダー」。今後、金融インフラの更新は人間ではなくAIやプログラムが担うようになり、既存の銀行システムはその前提に適応できなくなる可能性がある。

撮影場所:WeWork 丸の内北口

そのため、新しいインフラ構築が必要であり、ブロックチェーンが中長期的にその基盤となるだろう。海外アセットへの投資が進む中で、クロスボーダーでの決済や取引のためにはSCとSTの組み合わせが有効であり、今後のビジネスにおける中核的なツールとなると見ている。

なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueでは、5月8日に「AI・ブロックチェーンで ”重い産業” を動かす──エンジニアのキャリアはどう進化する?」と題したイベントを開催する。本記事でも触れた通り、AI・ブロックチェーン時代には銀行をはじめ様々な業態で役割の再定義が起こると予想される。イベントでは、デジタル化が遅れていた領域で技術とビジネスの両面から挑戦する3社のキーパーソンを招き、AI・ブロックチェーン時代に求められるエンジニアのキャリアについて議論する。詳しくは以下をチェック。

参考記事:AI・ブロックチェーンでエンジニアのキャリアはどうなる?──“重い産業” を動かすには【5/8 オンライン無料開催】

|文:CoinDesk JAPAN 広告制作チーム
|トップ画像:左からProgmat齊藤氏,農中信託銀行の豊田氏、あおぞら銀行の篠崎氏、KDX STパートナーズ中尾氏(撮影:多田圭佑、撮影場所:WeWork 丸の内北口)