関税ショックで暗号資産市場も変化──XRP・BNBが急伸、バイナンスジャパン代表・千野氏が語る「投資家の変化」

暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)の日本法人バイナンスジャパン(Binance Japan)は4月24日、兜町の東京証券取引所でメディア関係者を対象としたセミナーを開催した。「暗号資産市場の新たな潮流──関税ショックが変える資産選択」と題し、同社代表取締役の千野剛司氏が登壇した。

講演では、以下のトピックが取り上げられた。

  • グローバル市場動向
  • バイナンスジャパンの最新データ分析
  • 国内市場の最新トピック
  • バイナンスジャパンの歩みと展望

「期待と警戒が交錯」するグローバル市場

冒頭、千野氏はトランプ大統領の再就任による政治的インパクトに触れ、「期待と警戒が交錯する、方向感の定まらないマーケット状況」であると指摘したうえで、2025年3月時点で暗号資産市場全体の時価総額が前月比4.4%減少したと説明。

当初は「トランプ政権下で米国の規制が整備され、市場に秩序がもたらされる」との期待から価格は上昇していたが、FRB(連邦準備制度理事会)の金利政策に対する不透明感に加え、米国の相互関税政策や地政学的リスクの台頭が下落要因になったと分析した。

〈提供:バイナンスジャパン〉

Binance Researchのレポート「Tariff Escalation and Crypto Markets: Impact Analysis」によると、2月の関税発表を機に、4月4日時点でビットコイン(BTC)は19.1%、イーサリアム(ETH)は40%超の下落を記録。千野氏は、金価格が高値を更新する一方で「デジタルゴールド」とされるビットコインは避難先の資産とは見なされていない現実があると述べ、市場の不透明感が色濃く出てくるような環境では、ビットコインに対する信認はまだまだ限定的だと解説した。

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一方、RWA(リアルワールドアセット)のような実物資産に裏付けられたトークンは比較的下落幅が小さく、千野氏は「不透明感が漂うような環境においても一定の安心感がある」と言えるのではないかと述べた。

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ミームの受け皿としてBNBが人気

市場全体が下落傾向にあるなかでも、ビルドアンドビルド(BNB)やエックス・アール・ピー(XRP)など特定の銘柄は堅調に推移した。

〈提供:バイナンスジャパン〉

千野氏は、テレグラム関連トークンの急伸や、もともとBinanceが発行したBNBが3月に2.5%上昇し、時価総額が約920億ドル(約13兆3200億円、1ドル145円換算)に達したことを紹介。BNBはミームコインやステーブルコインの受け皿として支持を集め、プロジェクト全体の価値がチェーンのネイティブトークンに反映される構造が、価値上昇の背景にあると分析した。時価総額ランキングではソラナ(SOL)を抜き、再びトップ5に入った。

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XRPの日本円建て取引が90%を占める

XRPについて千野氏は、米証券取引委員会(SEC)との係争の進展や規制環境整備への期待を背景に、時価総額が300億ドル(約4兆3500億円)から4倍超の1410億ドル(約20兆4000億円)へと拡大したと説明。

バイナンスジャパンでもXRPの日本円建て取引は非常に活況で、同社が提供する全取引の約90%を占めると明かし、国内投資家のXRPへの関心の高さを示した。

一方、暗号資産で時価総額2位のETHは2024年のピークから50%下落しており、「今まさに、テコ入れが求められている局面にある」と説明した。

Binanceグループの市場シェアは拡大

千野氏は、Binanceグループの市場シェア拡大にも言及。ビットコインの取引シェアは33%から49%へ、アルトコインは38%から44%へ増加したと述べた。市場に不透明感が漂うときこそ、「流動性と堅牢なセキュリティ」を備えた取引環境を選ぶ投資家心理が働いたと理由を分析した。

〈提供:バイナンスジャパン〉

国内市場の成長と規制の転換期

国内市場については、2025年1月時点で暗号資産の口座数が1200万件(名寄せなし)を突破し、そのうち稼働口座が734万件に達していると述べ、「暗号資産は、もはや国内で無視できない投資対象となっている」と話した。

さらに資金決済法の改正によって「電子決済手段」としてのステーブルコインの流通が開始された点にも触れ、注目された第1号案件として、米サークル社が発行するドル建てステーブルコイン「USDC」の国内取引が始まったことを紹介した。

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このほか、国内市場の最新トピックとして税制改正に関する議論の進展を解説。

〈提供:バイナンスジャパン〉

千野氏は、暗号資産の利益が総合課税(最大55%)の対象となっている現行制度について、依然として個人投資家にとって大きな参入障壁となっていると指摘。分離課税への見直しを含む制度改革の必要性を強調した。さらに、日本国内では現物ETF(上場投資信託)の組成が認められておらず、米国市場との機会格差が広がっている状況に懸念を示し、機関投資家の参入を促すうえでもETF組成への道を開くことが健全な市場成長につながると解説した。

加えて暗号資産のレバレッジ取引に関して、個人向けの最大レバレッジ比率が2倍に制限されている点について、リスクを適切に管理できる投資家にとっては機会損失になっていると指摘。「市場を殺している現状もある」と述べ、制度の柔軟化に向けた議論が必要であるとの見解を示した。

|文・写真:橋本祐樹
|トップ画像:東京証券取引所で、メディア向けに講演した千野氏