時代は安全資産の再定義を迫る──ビットコインは「新たな避難先」に相応しいか
  • 金はこの5年で90%上昇した。だが、米ドル供給量の40%以上が2020年だけで生み出されており、ドルの価値低下に対して、かろうじて価値を維持しているに過ぎない。
  • ビットコインは、短期的なボラティリティとは対照的に、長期的な回復力を示しており、新型コロナウイルス危機以降、主要な資産クラスをすべて上回り、1000%上昇を記録している。

市場混乱時の「安全資産」という考え方——伝統的に金と米国債を指してきた——は、かつてないほど試されている。

過去数十年、ポートフォリオ構築とリスクマネジメントはシンプルだった。「株式60%、債券40%」、市場がパニックになると資本は通常、金と米国際に流れ込んだ。金と米国債は値動きが小さく、安定的で予測可能、ボラティリティからの保護を求める投資家には理想的な避難先だった。しかし、24時間365日動く市場、地政学的な不確実性、国家が主導するシステムへの信頼低下といった現代において、そうした常識は覆されつつあり、安全資産の定義を見直す必要があるのではないか、との疑問が浮上している。

新たな候補、ビットコイン

そこに登場したのが新たなプレイヤー、ビットコイン(BTC)だ。

ビットコインはきわめてボラティリティが大きく、広く誤解され、ウォール街や一般投資家から投機的資産として軽視されている。しかし、新型コロナウイルス危機による市場暴落以降、驚くべき上昇を遂げている。

2020年3月の市場暴落以降、ビットコインは1000%以上上昇している。同じ期間中、長期国債──iShares 20+ Year Treasury Bond ETF(TLT)で測定──は、2020年の高値から50%下落。真の安全資産とされる金でさえ、過去5年で90%上昇したものの、米ドルの総供給量の40%以上が2020年だけで発行されたことによるドルの価値低下を考えると、そのパフォーマンスはそれほど印象的なものではない。

依然残るリスク資産としての側面

それでも、ビットコインは投資家から安全資産とは見られていない。

例えば、最近のリスクオフ局面では、Invesco QQQ Trust, Series 1 ETFに対して、ヘッジ資産ではなくリスク資産のような動きを示した。

  • 新型コロナウイルス危機(2020年3月):BTC -40% vs QQQ -27
  • 銀行危機(2023年3月):BTC -14%、QQQ -7%
  • 円キャリートレードの巻き戻し(2024年8月):BTC -20%、QQQ -6%
  • 関税引き上げによる下落(2025年4月):BTC -11%、QQQ -16%
〈TradingWiew〉

最初の3つの例は、ビットコインがレバレッジをかけたテクノロジー取引の一種であることを示している。しかし、直近の関税ショックはこのパターンを打破した──ビットコインはナスダックよりも下落率が低く、トランプ大統領の関税政策がもたらした弱気なマクロ経済環境下で相対的な強さを示した。

グローバル金融環境の変化

このデータのみでトレンドが証明されるわけではないが、より広範な現象を浮き彫りにしている。すなわち、グローバル金融環境の変化だ。

「ビットコインのような国家に依存しない価値の保存手段は好調を維持するだろう。政治的に中立な資産は、今世界で進行している国家間の思惑の影響を受けないだろう」とNYDIG Researchはレポートで指摘した。

ビットコインは確かにボラティリティが大きい。だが同時にグローバルな流動性があり、分散化され、検閲に耐性があり、関税や中央銀行の政策に影響されない。地政学的緊張と金融的な抑圧が高まる時代において、その特徴は、ビットコイン他の安全資産よりも長期間耐え得る資産として際立たせている。

揺らぐ「伝統的な安全資産」の地位

一方、伝統的な安全資産はそれほど安全には思えない。金の上昇は、ドル供給の拡大規模と比べると見劣りする。長期国債も状況は厳しく、30年物米国債の利回りが5%に近づくなか、長期国際の保有比率の高いポートフォリオには痛手となっている。

前述の4つの大きな危機を分析すると、あるパターンが浮かぶ。ビットコインの下落は、いずれも長期的な底値を形成してきた。

つまり、新型コロナウイルス危機でビットコインは4000ドル付近まで急落したが、その後、この水準に戻ることはなかった。2023年3月の銀行危機では一時2万ドルを割ったが、すぐに上昇に転じた。

2024年8月の円キャリートレードの巻き戻しでは、4万9000ドルまで下落したが、この水準に再び戻ることもなかった。過去の経緯が指針となるなら、今回も下落局面が新たな長期的な底値となる可能性がある(つまり、この水準まで下落することはない)。

ビットコインは安全資産か?

では、ビットコインは安全資産なのだろうか?

仮に過去の定義──パニック時に低いボラティリティで下落を抑える──がまだ有効なら、ビットコインはまだ要件を満たしていない。

しかし、国家リスク、インフレ、政策の不確実性が支配する今の金融環境では、ビットコインは耐久性、中立性、流動性を備えた資産として、投資家が検討すべき対象になりつつある。

変化する環境下で、ビットコインは「安全資産のテスト」に失敗しているわけではないだろう。おそらく、安全資産の定義そのものを変える必要があるだろう。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:Gold and Bonds’ Safe Haven Allure May be Fading With Bitcoin Emergence