国家ビットコイン準備金「日本ほど適した国はない」【JAN3・CEOインタビュー前編】

ビットコイン(BTC)普及の拠点「Tokyo Bitcoin Base(TBB)」が4月25日、東京・四谷に開業した。運営元のBH Tokyo代表、川合林太郎氏によれば、国内外のビットコイナーが交流し、現実世界とつながる場を目指すという。

その言葉を裏付けるかのように、当日の記念イベントには世界中から多くの関係者やインフルエンサーが集結していた。盛大に行われた記念イベントの様子は、既にお伝えしたとおりだ。

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CoinDesk JAPANはこの日、オープニングイベントに先立ち、エルサルバドルなど国家レベルでのビットコイン導入を支援するJAN3のCEO、サムソン・モウ(Samson Mow)氏にインタビューを行った。前日には日本政府や企業の関係者と話し合ったと明かしたモウ氏に、JAN3の活動や日本市場への見解、TBBに期待する役割などについて聞いた。

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議員や政府関係者と会談

──JAN3は、エルサルバドルなどでのビットコイン導入を支援している。設立から2年が経過した今、最も注力していることは何か。

モウ氏:JAN3のミッションは、ビットコインの普及を加速させることだ。TBBのような拠点開設といった草の根レベルの活動と、国による導入というトップダウンのアプローチを両輪として推進している。

国家ビットコイン準備金、法整備、政策変更のアドバイスなど多岐にわたる取り組みは、すべてビットコイン普及促進のためだ。過去2年間で、コロンビア、スリナム、モンテネグロの首脳をはじめ、多くの国の関係者と会い、関係を築いてきた。成果が出るには時間がかかるが、確実に前進している。

日本でも、議員や政府関係者と話をしている。ビットコインを国家戦略に組み込む余地は刻々と狭くなりつつある。すでに多くの国や企業がビットコインを取得し、購入機会が限られてきているからだ。

例えば、メタプラネットによるビットコイン購入などはその象徴だ。国が同様の動きを取るには法整備が必要であり、迅速な判断が求められる。米国では、戦略的準備金創設を目的とした大統領令がすでに発出され、100万ビットコインの購入を可能にする法案も提出されている。

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ビットコインは2100万枚しか存在しない。そのうち米国のETF(上場投資信託)が130万枚、マイクロストラテジーが54万枚、メタプラネットが5000枚を保有しており、残数は限られている。だからこそ、政治的安定性や安全保障の観点からも、国家としてビットコイン準備金を早急に創設すべきだと訴えている。日本でも、こうした認識を広めることが私たちの現時点でのミッションだ。

米中間の貿易戦争の板挟み

──米国では国によるビットコイン購入が現実味を帯びつつあるが、まだ期待先行とも言える。

モウ氏:現時点では憶測の域を出ない面もある。だが多くの人は、そもそもトランプ氏が本当に国家戦略としてビットコイン政策を打ち出すとは予想していなかったはずだ。実際には、公約通り就任から1カ月以内に戦略的ビットコイン準備金の創設を命じる大統領令を発出した。

これは国家としてビットコインを優先課題に位置づけたきわめて重要な動きだ。

〈トランプ大統領:Shutterstock〉

特に注目すべきは、政府機関に対してビットコインの売却をやめるように指示した点だ。トランプ氏自身が売却は過ちであったと明言し、政府による売却は全面的に中止された。

さらに、「予算に中立な形」でのビットコインの取得が可能となった。例えば、新たな支出を伴わずに金(ゴールド)を売却してビットコインを購入する方法などが想定されている。また、国債を発行して原資とすることも選択肢の一つだ。

一方で、予算を投じて能動的に100万ビットコインの取得を目指す「ビットコイン法案」がシンシア・ルミス上院議員から出されている。もはや理論的な話ではない。ビットコイン法案が可決され、ビットコイン建ての国債が発行されても不思議ではない。むしろ、米国債の需要を高める戦略として合理性がある。

日本は846トンの金を保有しており、米国が金を「非貨幣化」し、ビットコインへと戦略転換を進めるならば、日本の金融安全保障にとって重大なリスクとなる得る。

米国は経済的ライバルの中国に対抗するために、法制度や金融政策を駆使して主導権を握ろうとしている。中国はその圧力に備え、金を買い増している。それが金価格急騰の背景にある。

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一方で、米国はさらに強い圧力をかける手段として、金を売却し、ビットコインを購入するという戦略を取ることができる。もし相手国が金を多く保有し、ビットコインをほとんど持っていないなら、金の価値を下げて、ビットコインの地位を高めることで、自国の戦略的優位を確保できるからだ。

つまり、日本が戦略的ビットコイン準備金を創設せず、あるいは金の一部をビットコインに転換することもしないのであれば、日本は米中間の貿易戦争の板挟みに合うことになる。

中央政府への不信とビットコインの台頭

──ビットコインは法定通貨や中央銀行デジタル通貨(CBDC)と共存可能だろうか?

モウ氏:私は、共存するとは思っていない。ビットコインは、数千年の歴史を持つ金や、あらゆる法定通貨よりも100倍優れた通貨だ。人類史上初めて「お金」を「エネルギーと情報」に転換する仕組みを実現した。

これまで「お金」として使われてきた岩石や毛皮、金や銀といった金属などはいずれも物理的な形を持ち、偽造や操作の余地があった。デジタル化された法定通貨もまた、政府によるインフレや金融操作によって価値が希薄化し、国民の貯蓄が侵食される可能性を孕んでいる。

一方、ビットコインは没収されず、発行量も制限されており、価値の保存手段としてきわめて優れている。こうした存在がある限り、紙幣やCBDCなどのデジタル通貨に価値を見出す理由はない。

CBDCは、ほぼ確実に失敗するだろう。その好例が中国だ。CBDCとして「デジタル人民元」を導入したが、誰も使っておらず、代わりにAlipay(アリペイ)やWeChat Pay(ウィーチャットペイ)といった民間のデジタルマネーが使われている。中国に限った話ではないが、背景には政府への根強い不信がある。

信頼が低下すると、人々は「ハードマネー」に回帰していく。高齢層は金を、若年層はビットコインを選ぶ傾向があり、いずれも中央政府から距離を取る行動といえる。

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「ゲームの所有者」への対抗手段

モウ氏:こうした点は、日本の当局にも伝えた。日本は現在、CBDCを模索している。確かに、国際協調と信頼が機能している限り、CBDCは一定の役割を果たせるだろう。しかし、信頼や同盟が崩れたときには機能不全に陥る。これに対し、中央の管理者を必要とせずに動くビットコインは、そうした局面でも強さを発揮する。

〈習近平主席:Shutterstock〉

トランプ政権下で露呈した貿易・通貨戦争のなかで、同盟国が必ずしも信頼できる存在でないことを示した。私はカナダ出身だが、米国と長年の同盟関係にあったカナダですら、近年は摩擦が目立つ。日本も同様に、米国との交渉の難しさに直面している。

米国債を大量に保有する国は、米国に従属せざるを得ない。

そして、仮に米国が敵対的な行動に出れば、そうした資産はリスクにさらされる。かつて中国は米国債の大口保有国だったが、米国債の保有を減らす代わりに金を積極的に買い増している。おそらくビットコインにも注目しているだろう。

トランプ政権は「中国株の上場廃止」や「中国資産の差し押さえ」などを示唆しているが、重大な意味を持つ。中央集権的な金融システムでは、管理者がルールを自在に変更できてしまう。「このゲームの所有者は自分だ」と宣言するようなものだ。

したがって、中国を含む多くの国が金やビットコインといった、より中立的で制御不能な資産へと目を向けているのだ。

ビットコインは基礎

──日本のビットコイン政策をどのように評価しているか。

モウ氏:日本は比較的早期にビットコインを合法化し、取引所の認可を進めるなど一定の前進を見せてきたが、国家戦略としての位置づけはまだ不十分だ。政府がWeb3やNFT、ブロックチェーン技術をどれほど推進しようとも、その土台にビットコインがなければ真の発展は望めない。基礎がなければ、家は建たない。NFTなどの技術では経済成長は見込めないと私は思っている。

結局、それらは既存のデジタルアイテムと本質的に変わらず、電子マネーやCBDCと同様、既存通貨を包み直しただけの存在に過ぎない。経済成長と国の繁栄を実現するには、価値の保存手段としてのビットコインが不可欠だ。

政府関係者と対話するなかで、ビットコインが少子化をはじめとする多くの社会課題の解決に役立つことを説明している。政府が特に求めているのは若年層の支持であり、最も懸念しているのは人口減少だ。

なぜ人々が子どもを持たないのかといえば、生活コストが高すぎるからであり、根源には円の購買力低下がある。その原因には通貨の増刷、マネープリンティングがあり、日本に限らず世界共通の問題だ。

〈日本銀行券:Shutterstock〉

政府がビットコインの有効性を認識し、例えば現物ビットコインの保有に対する減税措置を講じれば、国民は資産としてビットコインを保有するようになるだろう。また、ビットコインによる支払いを許可すれば、一般店舗も受け入れ可能となり、観光立国である日本にとっては特に有効だ。

訪日客は円に両替することなく、直接ビットコインで決済でき、店舗もそのまま受け取れる。こうした仕組みを実現するには、税制改革と制度設計が不可欠だ。

複数の企業とタスクフォース設置へ

──日本市場での具体的な取り組みや進めているパートナーシップはあるか?

モウ氏:今回日本を訪れた目的の一つは、国や関係機関との連携を視野に入れたタスクフォースを設立できるかどうかを探ることだった。

昨日は複数の企業とミーティングを行い、タスクフォースの立ち上げについて協議し、設立を進める方針が決まった。名称は未定だが、タスクフォースの目的は、政府や議員と直接連携し、国家準備資産としてのビットコイン導入を推進することだ。

このタスクフォースは、あくまで「日本政府にビットコイン戦略とビットコイン準備金の導入を促す」ために活動する。NFT、ブロックチェーン、セキュリティ・トークン、税制など、参加者によって主眼とする関心は違うだろうが、「ビットコイン準備金が必要」という目的を共有する。

一方で、国民の支持なしにビットコイン政策を進めることへのリスクも理解している。だからこそ我々は、タスクフォースを通じて世論の支持を可視化したい。「これは安全な政策判断だ」と示すことで、政治的な後押しをしていく。

日本はきわめて優れた政治的インフラを備えている。ルールに基づいて意思決定が行われ、戦略的に資産を運用する土壌があり、ビットコインを国家準備金として採用するうえで、きわめて有利な立場にある。ビットコイン導入を決めるために、日本ほど適した国はないと考えている。

|インタビュー・文:橋本祐樹
|撮影:CoinDesk JAPAN編集部
|トップ画像:国家戦略として、ビットコイン購入を提唱するJAN3のサムソン・モウ氏