
日本の暗号資産(仮想通貨)口座数は日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)が5月1日に発表した最新の会員統計情報によると、3月末時点で1240万1333となった。
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一方、日本の総人口は総務省統計局によると、4月1日時点の概算値で1億2340万人。つまり、日本の総人口に対する暗号資産口座数の割合は、1240万1333÷1億2340=0.100497。ごくわずかだが計算上、10%を超えたことになる。
「10%」という数字に、特別な意味があるわけではない。だがそれでも、2024年4月末時点で暗号資産口座数が1014万8764となり、1000万を超えたことと同じように「10%」というひとつの区切りを超えたインパクトは大きい。
普及の大きなハードル=キャズム
新製品開発やマーケティングなどでは「キャズム」あるいは「キャズム理論」という言葉がある。キャズム(chasm)とは、英語で「深い溝」「割れ目」を意味し、新製品/新サービスが普及するときに直面する大きなハードルを意味する。
キャズム理論は、新製品/新サービスが普及していくプロセスを分析したイノベーター理論をベースにしている。イノベーター理論では、消費者を新製品/新サービスを取り入れるタイミング、つまりは、新製品/新サービスに早く飛びつくか、慎重な態度を取るかに応じて、次の5つに分けている。
- イノベーター(革新者、市場全体の2.5%)
- アーリーアダプター(初期採用者、市場全体の13.5%)
- アーリーマジョリティ(前期追随者、市場全体の34%)
- レイトマジョリティ(後期追随者、市場全体の34%)
- ラガード(遅滞者、市場全体の16%)
イノベーター理論は、新製品/新サービスの普及には「アーリーアダプターが重要」とし、2.5%のイノベーターと13.5%のアーリーアダプターを合わせた「初期市場」への売り込みを重視する。

だが、2.5%+13.5%=16%まで広がっても普及に失敗する新製品/新サービスが見られたことから、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間には「深い溝=キャズム」が存在し、これを乗り越えることこそが広範な普及には不可欠とするのが「キャズム理論」だ(「アーリーマジョリティ」以降は「メインストリーム市場」と呼ばれる)。
Web3/暗号資産ではよく「マスアダプション」という言葉が聞かれる。キャズム理論に当てはめると、暗号資産はまさにマスアダプション=メインストリーム市場に向けて、イノベーターからアーリーアダプターに広がり、キャズムを乗り越えられるかどうかの重要な局面を迎えつつある。
EXPOウォレットは “限定的な ”キャズム超えへ
Web3/暗号資産では最近、もうひとつ同じような数字が見られた。
4月23日、HashPaletteは「EXPO2025デジタルウォレットのブロックチェーンにAptos Networkが採用」と題したプレスリリースを発表。そのなかで、EXPO2025デジタルウォレットについて「2025年1月の移行完了後、4月21日までに、ウォレットは累計558,000件以上の取引を処理し、133,000件以上の新規アカウントがAptos Network上で作成されました」と述べた。
そして、ちょうど同じ23日、2025年日本国際博覧会協会は、4月13日の開幕から11日目で「大阪・関西万博来場者が100万人を超えました!」と発表した。
つまり、この時点で、来場者100万人に対して、EXPO2025デジタルウォレットのアカウントは13.3万件、13.3万÷100万=「13.3%」まで広がっていた計算になる。もちろん、来場者すべてがウォレットを開設しているわけではないし、大阪・関西万博という特別な場所での話だが、暗号資産ウォレットも(限定的に)キャズムを乗り越えようとしている。
ちなみに、大阪・関西万博の来場者数は、開催から21日目の5月3日に速報値で200万人を超えたと報じられている。
数字のいたずらかもしれないが、暗号資産口座数とEXPO2025デジタルウォレットで、キャズム超えに向けた数字が重なった。
大阪・関西万博、マスアダプションのきっかけになるか
この数字に先立つ4月16日、EXPO2025デジタルウォレットを開発・提供するHashportは、大阪・関西万博での決済に利用可能な「EXPOトークン」を発行すると発表している。
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「EXPOトークン」は、1コインを1円として決済に利用でき、大阪・関西万博の独自の電子マネーサービス「ミャクぺ!」にチャージもできる。さらに、「ミャクぺ!」はVisaのタッチ決済に対応しているため、万博会場の内外を問わず、タッチ決済対応の全国のVisa加盟店で利用できるという。ポイ活の観点で注目が集まれば、利用は拡大しそうだ。

さらにHashportは大阪・関西万博に来場する海外ユーザーを主な対象として、ステーブルコインへの交換機能を提供予定。交換するステーブルコインはAptosブロックチェーン上のUSDCを予定している。
EXPO2025デジタルウォレットは、「つかう/ためる/あつめる」として、決済サービス「ミャクペ!」(つかう)、ポイントサービス「ミャクーン!」(あつめる)、デジタルアイテム(NFT)サービス「ミャクーン!」(ためる)があり、さらに「つながる」としてHashportが手がける事業連携サービスがある。
万博という国をあげた一大イベントであり、関係者が多いためか、複雑な造りになっているが、万博でウォレットを体験した人たちが、次は日常生活の中でもウォレットを使うようになるかもしれない。
暗号資産ウォレットの本当の意味でのキャズム超えはいつだろうか。
|文:増田隆幸
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